米カリフォルニア州の古書店が、AI企業と関係があるとみられる書籍ブローカーからの大口注文を相次いで拒否している。店主は、AI学習用に書籍を裁断・スキャンした後に廃棄する手法に賛同できないとして、累計5千ドル(約80万円)を超える売り上げを断念した。背景には、生成AIの学習データをめぐる著作権と書籍保存の議論がある。
米カリフォルニア州サンディエゴ郡ラメサにある古書店が、合計5千ドルを超える複数の大口注文を断った。個人書店にとって小さくない売り上げである。
店主のクレイグ・マクスウェル氏は大紀元の取材に対し、注文はAI企業と関係のある書籍ブローカーによるものではないかとみていると語った。
マクスウェル氏は報道を通じ、AIの学習に使うため、書籍をスキャンした後に廃棄する例があることを知ったという。本を愛する同氏にとって、大量の書籍を裁断し、スキャン後に捨てるやり方は受け入れがたいものだった。
売り上げを失うことになっても、注文を断ることは「最も簡単な決断だった」と話している。
1日50~60件の注文 小規模書店に起きた異変
マクスウェル氏は古書店を20年以上経営してきた。店で扱う書籍の多くは、インターネットでも販売している。
「オンライン書籍販売の仕組みは、長年ほとんど変わりませんでした。Amazonは長く最大の販売・検索の場で、多くの注文がそこから入ってきました」と同氏は言う。
「しかし今、オンライン販売をめぐる状況は大きく変わりつつあります」
同氏によると、3~4か月ほど前から、それまでほとんど取引のなかった企業から大口注文が入るようになった。その後、聞いたことのない企業からも注文が届くようになったという。
「私たちは小さな書店です。それなのに、こうした会社から1日に50件から60件もの注文が届くことがありました。明らかに普通ではありません。疑わしく、奇妙な状況でした」
さらに、ワシントンD.C.の比較的大きな古書店が、5万冊の注文を受けたという話も耳にしたという。
当初は事情が分からず、通常どおり発送の準備を進めていた。しかし、「なぜこれほど多くの本を買うのか」「一般向けにオンライン販売するより効率のよい方法なのか」と疑問を抱いていた。
その後、Anthropic社の内部資料について報じた記事を目にした。記事には、AIの学習のため、数百万冊の書籍の背を裁断してスキャンし、その後に廃棄したとの内容が記されていた。
マクスウェル氏は、自店に届いていた注文も同じ目的によるものではないかと考えたという。
「そこで私たちは、すぐに取引を止めました。こうした会社への発送をやめたのです」と同氏は語る。
この判断には、経済的な損失が伴う。拒否した注文額は5千ドルを超える。発送しないことで、オンライン販売上の評価が下がり、店の信用に影響する可能性もあるという。
それでも、マクスウェル氏に迷いはなかった。「これは最も簡単な決断でした」
理由は、本を愛しているからだという。
祖父譲りの本好き

マクスウェル氏の祖父、ワーレンブロック氏は1935年、サンディエゴ中心部に「ワーレンブロックス・ブック・ハウス」を創業した。
店は1968年に経営者が代わった。オンライン通販の普及などの影響を受け、2009年に閉店するまで、サンディエゴで最も古く、最大規模の古書店だった。
マクスウェル氏は祖父譲りの本好きで、20年以上前に自ら古書店を開いた。
「古書業界に入る人は、金をもうけるために入るわけではないと思います。この仕事を選ぶ人は、少し変わっているか、本を心から愛しているか、その両方です」と同氏は笑う。
「これほど自分を幸せにしてくれる仕事は、ほかに思い浮かびません」
家族全員が読書好きだという。
「両親も本を読み、姉妹は特に小説が好きです。私たちは読書をして過ごします。毎年、そうする人は減っているように感じますが、私たちはそこに喜びを見いだしています。もっと多くの人に読書をして、その魅力を味わってほしいと思います」
「本を読むと、別の世界に入ることができるのです」
AI関連とみられる書籍ブローカーへの販売を断る理由について、同氏は次のように説明した。
「理由は単純です。私は本を、熱心なコレクターや読者の手に渡したいと思ってここにいます。本を壊そうとする人たちに売ることには、まったく関心がありません」
AI学習用の書籍裁断・スキャンをめぐる実態
書籍は、人が書き、編集し、受け継いできた言葉と知識の記録である。出版や編集の過程を経た書籍は、AIの学習用データとしても注目されている。
AI開発企業は、AIモデルの学習には、人が書いた書籍のような質の高い文章データが重要だと説明してきた。インターネット上の文章だけでは、十分な質と量のデータを確保することが難しいとの見方がある。
一方、書籍の入手方法は企業によって異なる。書籍を裁断してスキャンし、その後に廃棄するやり方には、批判の声も上がっている。
Anthropic社をめぐる著作権訴訟「Bartz対Anthropic」では、生成AIモデル「Claude」を開発するAnthropic社が、数百万ドルを投じて数百万冊の書籍を購入し、スキャンしやすくするために背を裁断して、内容をスキャンした後、書籍を廃棄していた。
この訴訟で原告側が問題にしたのは、書籍を裁断・スキャン後に廃棄する行為そのものではない。主な争点は、AIの学習を目的として大量の書籍をスキャンすることが、著作権侵害に当たるかどうかであった。
2025年6月23日、裁判所は、Anthropic社が購入した書籍をスキャンして保存する行為について、フェアユース(著作権者の許諾なしに著作物を利用しても、公正な利用であれば著作権侵害とならない米国の法理)に当たるとの判断を示した。また、購入した書籍をどのように処分するかについては、所有者である同社が決める権利を持つとの趣旨にも言及した。
一方、数百万冊規模の書籍が廃棄されたことは、大きな反響を呼んでいる。
Anthropic社の広報担当者は、同社のAIモデル学習プロジェクトでは、貴重書や歴史的資料を購入・廃棄していないとしている。
複数の書店関係者は英語版大紀元の取材に対し、大量の書籍を組織的に廃棄することは、文字情報だけでなく、書籍そのものという文化資料も失わせる行為だと訴えている。
「恐ろしい状況だ」
マクスウェル氏は、AI企業が人間の言葉を学習に使う一方、金銭のために大量の本をAI企業に供給し、スキャン後に廃棄する人々がいる現状について、「恐ろしい」と語る。
「私たちはこれまで、そうした人々が登場する反ユートピアSFを読んできました。『華氏451度』、そしてジョージ・オーウェル、オルダス・ハクスリー、C・S・ルイスの作品には、反ユートピア的な物語が描かれています」と同氏は述べた。
「しかし多くの人は、いつか自分たちが現実にこうした脅威に直面する日が来るとは、想像していなかったのではないでしょうか」
同氏はこう嘆く。
「金のためなら、彼らはほかに何をするのでしょうか。1ドルのために、何を売り渡し、何に妥協するというのでしょうか」
同氏によると、取材を受けた8月27日にも、ある企業から約200ドル分の注文が入った。注文内容は、英国製のアンティークの後装式軍用拳銃に関する書籍だったという。
その注文は、すでに発送を取りやめ、AI関連の書籍ブローカーと判断していた企業からのものだった。マクスウェル氏は今回も注文を取り消した。
同氏は、AI企業が書籍を直接注文するのではなく、書籍ブローカーを通じて調達しているとみている。ここ数か月、多数のブローカー企業から接触を受けたという。
発送を拒否するたびに、「書籍ブローカーには本を販売しない」と説明するメッセージを添えている。
一方で、マクスウェル氏はやりきれなさも口にする。自らは経済的な損失を受け入れ、本への愛情を理由に販売を断っている。
しかし、注文を送っている相手は、AIによる自動プログラムなのではないかと感じているという。
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