仏独 EUに迅速な貿易防衛措置を提案 中国念頭か

2026/10/06
更新: 2026/10/06

世界経済を取り巻く環境が変化し、中国への供給網依存をめぐる経済安全保障上の懸念が高まるなか、フランスとドイツは5日、EUに新たな貿易防衛措置の導入を共同で提案した。

両国は、不公正な市場競争や政治的・経済的な圧力を受けた場合、EUが特定国の商品やサービスについて、単一市場へのアクセスを迅速に制限できる仕組みを求めている。

提案は特定の国を対象としていないが、ダンピングや広範な国家補助金、通貨の兌換制限などを問題として挙げている。ロイター通信は、こうした問題はEUが中国共産党(中共)に対して繰り返し指摘してきた内容と重なるとして、中国が主な念頭にあると報じた。

欧州では近年、中国製品の輸入増加や過剰生産能力が域内産業に与える影響を「チャイナ・ショック2.0」と呼び、警戒する動きが広がっている。欧州中央銀行や英王立国際問題研究所(チャタムハウス)も、中国製品の輸出拡大や産業政策が欧州産業に与える影響を分析している。

仏独が共同書簡 貿易の「武器化」に警戒

フランスのマクロン大統領とドイツのメルツ首相は5日、欧州委員会のフォンデアライエン委員長に共同書簡を送った。世界経済の不均衡に関する政策文書も添付した。

両国は「市場を体系的にゆがめる慣行」がEUの経済や産業基盤を脅かしているとして、早急な対応を求めた。

欧州委員会は共同書簡について、地経学的リスクや世界経済の不均衡をめぐる議論への「価値ある貢献」だとして歓迎した。

仏独はまた、既存の貿易防衛措置をより迅速かつ効率的に運用し、個別製品だけでなく産業全体を対象とした調査を可能にすべきだと主張した。

政策文書では、化学品やPET、ハイブリッド車などへの対応を急ぐ必要性も指摘している。

新たな貿易防衛措置 主な特徴

1. 市場アクセスを迅速に制限

仏独は、政治的・経済的な手段によって公正な市場環境を損なう国に対し、EU単一市場へのアクセスを制限できる新たな制度を提案した。

具体的な発動条件や制裁内容は現時点で明確になっていないが、ドイツ政府関係者は、米国の通商法301条に基づく措置や、中国による重要鉱物の輸出規制に匹敵する強力な手段が必要だとの認識を示している。

2. 補助金や市場のゆがみに幅広く対応

新制度では、ダンピングや大規模な国家補助金、通貨の兌換制限など、幅広い市場のゆがみを対象とする。

仏独は、こうした問題が特定の商品だけでなく産業全体に影響する場合、EUがより広い範囲で対応できる仕組みが必要だとしている。

3. 「逆特定多数決」を導入

政策文書は、欧州委員会が第三国への対抗措置を提案した場合、EU加盟国の特定多数が反対しない限り、措置を発動できる仕組みを提案した。

いわゆる「逆特定多数決」で、従来よりも対抗措置を発動しやすくする狙いがある。

4. 「数日以内」の発動も想定

ドイツ政府関係者によると、新たな措置は必要に応じて「数日以内」に発動できる仕組みを想定している。

従来の反ダンピング調査では長期間を要する場合があり、仏独は世界的に経済措置の発動が速まるなか、EUにも迅速な対応力が必要だとしている。

5. 個別製品から産業全体へ

仏独は、従来のように個別製品を対象とするだけでなく、影響を受ける産業全体を調査できる仕組みを求めている。

ロイターによると、政策文書は化学品やPET、ハイブリッド車などを、早急な対応が必要な分野として挙げている。

EUの対中貿易赤字 2025年は3600億ユーロ超

仏独が新たな貿易防衛措置を求める背景には、EUと中国の貿易不均衡の拡大がある。

2025年のEUの対中物品貿易赤字は約3606億ユーロに達し、前年から15%増えた。2026年に入ってからも、中国からEUへの輸出は増加傾向を続けている。

欧州では、中国の過剰生産能力や低価格製品の流入が、自動車、機械、化学品など域内の主要産業に与える影響への懸念が強まっている。

ECBも「第2次チャイナ・ショック」について、中国製品の輸出拡大や技術力向上がユーロ圏の競争力や対外依存をめぐる新たな課題になっていると指摘している。

供給網の「脱・一極集中」も提案

仏独は、市場アクセスを制限する制度とは別に、重要物資の調達先を多様化する新たな仕組みも求めた。

企業が特定の国や供給元に過度に依存することを避け、重要物資の供給途絶に備える狙いがある。

欧州委員会はすでに同様の構想を示しており、仏独は早期の制度化を求めている。

EU首脳会議を前に仏独が足並み

今回の共同提案は、15、16日にブリュッセルで開かれるEU首脳会議の10日前に公表された。ロイターによると、首脳会議では中国との貿易不均衡についても議論する見通しだ。

EU理事会によると、首脳会議では競争力や経済安全保障に関わる問題のほか、ウクライナ、欧州防衛、中東情勢などが議題となる。

フランス大統領府の顧問は、一部の貿易相手国との不均衡は「持続不可能」になっているとして、EUに迅速な対応を求めた。フランスとドイツは、既存の反ダンピング措置についても早期に活用するよう求めている。

EUのマロシュ・シェフチョビチ委員(通商・経済安全保障担当)は8日に北京で中共の王文濤商務相と会談する予定で、拡大する貿易不均衡などについて協議する。両者は6月の会談で、10月までに具体的な成果を目指すことで一致していた。

EU、貿易防衛の強化へ

今回の仏独提案からは、EUが個別製品を対象とする従来の貿易防衛策から、経済安全保障を重視したより包括的な対策へと軸足を移しつつあることがうかがえる。

ただし、新たな制度の導入にはEU加盟国と欧州議会の承認が必要で、具体的な発動条件や対象範囲については今後の協議で詰めることになる。

フランスとドイツが共同で制度強化を求めたことで、中国の過剰生産能力や国家補助金、EUの対中貿易赤字をめぐる問題は、今後のEU通商政策で一段と重要な課題となりそうだ。

李言