衰退するイラン政権が中国にとって大きな痛手となる理由

2026/01/26
更新: 2026/01/26

ニュース分析

イラン政権の脆弱さは、かつてないほど際立っている。事の発端は、テヘランの市場(バザール)の商人たちによる物価高騰への抗議の店閉め(ストライキ)であったが、それは昨年末までに、瞬く間に体制打倒を掲げる全土規模の運動へと発展した。

1月17日、イランの最高指導者ハメネイ師は、騒乱で「数千人」の犠牲者が出たことを認めた上で、その「死傷者と損害」の責任はトランプ氏にあるとして彼を「有罪」だと非難した。これに対しトランプ氏は1月17日、イランには「新しいリーダーシップ(指導部)」が必要だと訴えた。

トランプ氏は、抗議者の処刑は米国の軍事行動を誘発すると繰り返しイランに警告している。1月22日、大統領専用機エアフォース・ワンの機内で記者団に対し、トランプ氏は米国海軍をイラン方面に配備したと述べた。

「大規模な艦隊をあちらへ向かわせている。おそらく、それを使わずに済むだろうが」と同氏は語った。

抗議活動は今のところ沈静化しているように見えるが、外交問題評議会(CFR)のシニアフェロー、スティーブン・A・クック氏は1月19日のインタビューで、その勢いが「決して衰えたわけではない」と述べた。

「我々は、この政権を打倒しうる実際の社会蜂起、革命の始まりにいるのかもしれない」とクック氏は言う。

ワシントンのシンクタンク、ハドソン研究所のシニアフェローであるマイケル・ドラン氏は、現政権が辿る道には、「政権交代」「部分的な体制変更」、あるいは「その場しのぎで存続を図る」という3つの結末があるとしている。 同氏は1月9日付の記述で、「どのような展開になろうとも、イスラム共和国が現行の権力を維持したまま2026年末まで存続できるシナリオは、もはや存在しない」と断言した。

 

中国外交部の情報筋が大紀元に語ったところによると、中国政府は、イランに駐在する外交官や国有企業の幹部らを退避させるための具体的な避難計画の策定に着手しているという。

専門家によれば、もしテヘラン(イラン政権)が米国との妥協点を探り始めれば、中国の抱く世界戦略にブレーキがかかる恐れがあるという。ここで重要なのは、問題は単に「石油が手に入るかどうか」だけではないということだ。

石油取引はあくまで入り口に過ぎない。中国にとってイランとの関係が持つ真の価値は、別のところにある。イランという「足場」があるからこそ、中国は中東で米国に対抗する勢力として存在感を示せる。さらに、米中がしのぎを削るAI競争の主戦場となる中東市場で影響力を保ち、「米ドル依存からの脱却(脱ドル化)」という戦略を推し進めることができるのである。

これらすべてはイランの反米的な政治志向に依存しており、イスラム共和国に崩壊の兆しが見える今、その前提が揺らいでいる。

前例のない挑戦

イランでは過去15年間に周期的な抗議活動が見られたが、現在の政権に対する挑戦は、規模と激しさにおいて前例がない。米国に拠点を置く人権団体「人権活動家通信(HRANA)」によると、2025年12月28日のテヘランの商店主やバザールの商人によるデモを皮切りに、反体制デモは187都市に広がった。

同機関は、1月13日までに2400人以上の抗議者が殺害され、1万8千400人以上が逮捕されたと報告している。

抗議活動の背景には、イランの通貨リアルの暴落と食料・必需品の価格高騰に象徴される経済崩壊がある。通貨リアルの価値は、昨年1年間で40%以上も暴落した。1米ドルあたりの交換レートは、約81万7千リアルから140万リアル以上にまで急落し、紙幣の価値が事実上、紙屑同然となっている。2025年の公式発表によるインフレ率も42%を突破しており、国民の生活は限界に達している。

経済状況は、2025年6月の12日間にわたるイスラエル・イラン戦争後にさらに悪化した。この戦争は米軍によるイラン核施設への爆撃で終結し、甚大な被害をもたらした。イスラエルの攻撃の結果、政権維持を担うイスラム革命防衛隊も、トップリーダーや核科学者を失った。

2023年10月に始まったイスラエル・ガザ戦争中、イスラエルはイランから多額の資金と安全保障上の支援を受けていたテロ組織、ハマス、ヒズボラ、フーシ派に大打撃を与えた。

その結果、核の野心とテロ代理組織のネットワークに根ざしたイランの西側への脅威は、大幅に減少したように見える。

一方で、イラン社会も変化している。オランダに登録されている非営利研究財団「イラン世論分析・調査グループ(GAMAAN,The Group for Analyzing and Measuring Attitudes in Iran)」が2020年に行った調査によれば、自らをイスラム教徒と認めるイラン人は40%未満であった。

同組織による2025年の他の調査では、イラン人の89%が神権政治よりも世俗的な民主主義を支持しており、2021年以降、政権交代はイラン人にとって意味のある進歩のための最も人気のある選択肢となっている。

マイク・ウォルツ米国国連大使は、2026年1月15日、ニューヨーク市の国連本部で行われた国連安全保障理事会の会合で、イラン情勢について発言した(Michael M. Santiago/Getty Images)

米中の反応

トランプ氏は1月2日、イラン政権が平和的な抗議者を殺害すれば軍事行動に直面すると警告した。大統領は続いて1月12日、イランと貿易を行う国に対して25%の追加関税を課すと表明した。ホワイトハウスはまだ詳細を発表していない。

翌日、トランプ氏はデモ参加者に対し、「抗議を続けよ」「殺人者や虐待者の名前を記録しておけ」と促した。

「彼らは大きな代償を払うことになる」と彼は述べた。

1月14日、トランプ氏はイランが計画していた抗議者の処刑を停止したと語った。

1月15日の国連安全保障理事会緊急会合で、米国のマイク・ウォルツ国連大使は「虐殺を止めるためにあらゆる選択肢がテーブルの上にある」と述べた。

一方、ベルギーの防衛メディア・分析会社アーミー・レコグニション・グループによれば、米海軍は原子力空母「アブラハム・リンカーン」をインド太平洋から中東地域へと転進させた。これに対する中国側の動員に関する報告はない。

中国はイランの制裁回避とイスラム共和国の持続を支える主要な役割を果たしてきた。2021年に北京とテヘランが署名した25カ年協定に基づき、中国はイランの通信、銀行、港湾、その他のインフラに4千億ドルを投資することを約束した。見返りとして、イランは中国に石油を供給することに同意した。中国は、現在米国の制裁下にあるイラン産原油の90%以上を購入している。

中国外交部の報道官は1月13日、「中国はイランが国内の安定を維持することを望んでおり、それを支持する」と述べ、イランの内政干渉に反対した。イランと取引を行う国に25%の追加関税を課すというトランプ氏の方針に対しては、中国側は「自国の正当な権利と利益を守る」と反発したが、具体的にどのような対抗措置を取るかについては明言を避けた。

勢力の均衡

ロイター通信によれば、中国はイラン産原油の大部分を購入しているものの、イランからの購入量は中国の石油輸入総額の約13%に過ぎない。イランがなくても、中国は他から石油を調達できる。ただし、米国の制裁を回避するためにイランが提示している現在のような大幅な割引価格ではない。

しかし、イラン政権が現在の危機を脱し、米国寄りの姿勢を強めれば、制裁を前提とした経済的取り決めへの依存は薄れるかもしれない。テヘランがもはや石油の大部分を中国に売る必要がなくなれば、北京は中東における重要な影響力の行使手段を失うことになると、中国専門家のアレクサンダー・リャオ氏は指摘する。

リャオ氏の分析によれば、イランが宗教支配を脱して世俗化することは、「恐怖」を前提に維持されてきた従来の中東情勢を根底から変える可能性があるという。

「サウジアラビアなどの湾岸諸国が、中国やロシアと関係を持ちつつも、なぜいまだに安全保障を米国に頼りきっているのか。その大きな理由は、イランがいつ暴発して地域を混乱に陥れるか分からないという懸念を拭い去れないからだ」とリャオ氏は指摘する。その上で、イランが宗教支配を脱すれば、そうした予測不能なリスクは減っていくとの見方を示した。

グローバル・エコノミック・アドバイザーズのチーフエコノミスト、ウィリアム・リー氏も同意見だ。

「イランと西側諸国が友好的な関係になれば、かつての不安定化の火種は安定化の手段となる。米国がイランへの援助を開始すれば、その地域はさらに安定するだろう」と彼は大紀元に語った。

さらに、イランが「強力な経済国家として復活」すれば、もはや中国を必要としなくなると付け加えた。

2019年8月4日、中国青島市の青島港で石油タンカーを係留するタグボートの航空写真(STR/AFP via Getty Images)

人民元建てエネルギー取引

イランは中国にとって高い地政学的価値を持つ。東西を結ぶその位置は、北京の「一帯一路」構想における重要なノードとなっている。

イスラム共和国は2016年に一帯一路への参加を表明し、その動きは5年後に北京と署名した25カ年の包括的協力協定によって強化された。

リャオ氏はこの協定を「米国の制裁を回避し、ドル体制に対抗するための軍事的・技術的交流の制度的チャネル」と表現した。

「もしこのチャネルが遮断されれば、それは戦略的レベルで中国にとって大きな後退を意味する」と彼は語った。

リャオ氏によれば、中国共産党(中共)政権の中心的な戦略は、エネルギー、通貨、地政学を結びつけて、一帯一路を主要な手段として人民元ベースの商品取引システムを推進することであった。

中共は、脱ドル化のアジェンダを推進し、米国の優位性に挑戦するために、このようなプラットフォームが不可欠であると考えているという。

ワシントンのシンクタンク、アトランティック・カウンシルは、イラン、ロシア、中国が「決済が中国通貨で行われる、制裁対象の石油の代替市場を作り上げた」と報告している。

中共は、「米ドル一強」の支配体制を切り崩す(脱ドル化)という野心を抱いており、そのためには「一帯一路」のような枠組みが不可欠だと考えている。 ワシントンのシンクタンク、アトランティック・カウンシルによれば、イラン、ロシア、中国の3カ国は、米ドルの監視が及ばない独自のネットワークを構築。そこで、決済に中国通貨を用いる「制裁対象の石油の市場」を作り上げているという。

米国エネルギー情報局(EIA)の推計によれば、近年のイランの石油取引額は年間約400億ドルにのぼる。ただし、この数字はあくまで市場価格に基づいたものであり、中国が(制裁下にあるイランの足元を見て)得ている大幅な値引き分は考慮されていない。

エネルギー取引での人民元決済も、イランの反米姿勢があってこそ成り立っている。リャオ氏は、もしイランが親欧米に転じれば、「自由に両替や取引ができない人民元での決済は、メリットどころか、むしろ足かせ(負担)になるだろう」と分析する。

ドナルド・トランプ大統領は、2025年5月13日、サウジアラビアのリヤドにあるキング・ハーリド国際空港に到着し、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子の出迎えを受ける(Win McNamee/Getty Images)

AI競争

中東地域は、米中AI競争の極めて重要な戦場でもある。

トランプ政権は、米国のテクノロジーの世界的普及を、競争に勝つための中心課題と位置づけている。その優先順位を反映し、トランプ氏は2期目の最初の主要な外遊先として湾岸諸国を選び、2025年5月に同地域を訪問した。

この訪問は多額の投資約束をもたらした。サウジアラビアは、AIインフラや巨大データセンター開発の主要プロジェクトを含む6千億ドルの投資を約束した。アラブ首長国連邦(UAE)は、今後10年間でAIインフラ、半導体、エネルギー、量子コンピューティングに焦点を当て、米国に1.4兆ドルを投資する計画を発表した。

米国は自国のテック製品を推進するだけでなく、レアアースのサプライチェーン多様化のためにこの地域に目を向けている。

2025年4月以降、中国はレアアースの輸出規制を通じて米国や世界を繰り返し脅かしてきた。北京は、自動車から高度な武器システムに至るまで、あらゆる電子機器に不可欠な重要鉱物の加工をほぼ独占している。

こうした背景から、アメリカ国防総省はサウジアラビア国営鉱山会社マーデンとカリフォルニアに拠点を置くMPマテリアルズの合弁事業を支援し、サウジアラビアにレアアース精錬所を建設することを決定した。MPマテリアルズは2025年11月にこのプロジェクトを発表した。

ヒューストンのセント・トーマス大学の国際学教授、イェ・ヤオユアン氏によれば、中東における均衡勢力としての中国の地位は、テヘランに対する経済的影響力に大きく依存している。

「イランがもはや中国の強い影響下に置かれなくなれば、他の中東諸国は、ファーウェイ製品や中国製チップの購入を含め、中国の顔色をうかがうことをやめるかもしれない」と彼は語った。

もしそのような事態になれば、「イランを足掛かりにして中東市場全体へ食い込もうとする中国の現行戦略は、根本から破綻することになるだろう」とヤオユアン教授は述べている。

イラン政権が西側諸国と再び足並みを揃えることになれば、結果として生じる中国の政治的・経済的影響力の喪失は「単なる石油取引よりもはるかに深刻なものになる」と、リー氏は述べた。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
Terri Wu