台湾の蕭美琴(しょう びぎん)副総統はこのほど、総統府で本紙の独占インタビューに応じ、自らが提唱してきた「戦猫外交」の理念について語った。中国共産党の圧力に対し、台湾は柔軟性と警戒心を併せ持ちながら、自らの価値観と民主主義を守り抜く姿勢を示している。
蕭氏は6年前、台湾の駐米代表として米首都ワシントンに赴任した。当時は中共のいわゆる「戦狼外交」が国際社会で存在感を強めていた時期だった。
そうした中、蕭氏は台湾を象徴する存在として「戦猫」というイメージを打ち出した。体は小さいが力強く、俊敏で適応力に優れ、常に警戒を怠らず、何より独立した精神を持つ、それが「戦猫」の特徴だという。

6年を経た現在、蕭美琴氏は台湾のナンバー2の地位にあり、このイメージは現実の政治経験の中でも一定の説得力を持つものとなっている。
同氏は「猫は強制される存在ではなく、自分の考えを持っている。台湾も同じだ」と語る。
総統府で行われた本紙の取材に対し、蕭氏は「台湾は柔軟で温かく、人々を引きつける存在である一方、自らを守るために鋭い爪を保つことも重要だ」と述べた。
また外交については、共通利益を見出しながら力の均衡を図ることが重要だと強調した。米台関係においては、米議会の異なる政治勢力の間で超党派の合意形成を進める必要があるとの認識を示した。
蕭氏は「双方がそれぞれの強みを生かすことで、台米は互いの力を増幅できる。それが魅力であり、両者が協力すればより強くなれる理由だ」と語った。
中共政権の制裁にも動じず
蕭氏は日本の神戸市で生まれで、台湾出身の長老教会牧師である父と、米ノースカロライナ州出身の音楽教師の母のもとに育った。幼少期から言語の異なる両親の間で通訳役を担い、自然とコミュニケーション能力を培ったという。
24歳で政界入りし、6年以内で立法院議席を獲得。当時最年少級の立法委員となった。
2006年には、現総統賴清德氏とともに立法院で、中共当局が主導する臓器収奪問題の国際調査を求める決議を支持した経緯がある。
北京当局はその後、蕭氏を「頑固な台湾独立分子」と位置付け、「アメリカとの結託」を非難し、複数回にわたり制裁対象とした。
これに対し蕭氏は「これは恐怖による威嚇にすぎない」と反論し、「中国共産党に自らの定義を委ねることはない」と述べている。
中共の日常化する圧力と安全保障上の現実
台湾に対する中国共産党(中共)の圧力は年々強まっている。
中共は台湾を自国領土の一部と主張し、近年は軍用機をほぼ毎日のように台湾周辺へ派遣している。また、台湾の国際機関参加を阻止し、外交関係を持つ国々への働きかけも続けている。
圧力は軍事面だけにとどまらない。
2024年、蕭氏がチェコの首都プラハを訪問した際、中共外交官や情報要員が動向を追跡し、副総統就任を目前に控えた時期に交通事故を引き起こそうとした疑いが浮上した。
さらに今年1月には、台湾寄りの政治家に対する中傷材料を集めようとしたとして、中共の官製メディア関係者がチェコ当局に拘束された。
小さな島の大きな影響力
蕭氏はまた、中共が展開する多様な情報戦や影響力工作によって台湾が防御的立場に置かれているとの認識を示した。その一方で、台湾は適切な対抗手段を模索し、自らの独自性を世界に示しているという。
台湾の情報機関、国家安全局によると、中国国内では統制強化や経済低迷を背景に市民の不満が高まっている。台湾は最近、中国市民から情報提供を受け付けるオンライン窓口を設置した。
人口約2300万人の台湾は、世界経済において大きな存在感を持つ。「シリコンアイランド(半導体の島)」とも呼ばれ、世界の半導体の約3分の2と、最先端半導体のほぼ全てを生産している。
2025年にはアメリカの貿易相手国としてドイツを抜き、第4位に浮上した。
正式な同盟関係こそないものの、米台関係は歴代政権を通じて維持・強化されてきた。また、台湾海峡は世界貿易の重要航路であり、毎年数兆ドル規模の物資が通過している。
蕭氏は米台関係を「世界で最も影響力のあるパートナーシップの一つ」と表現し、「世界の繁栄を支える関係だ」と表現した。
さらに、米台は今年1月に半導体分野での大型協力計画を発表した。貿易障壁の緩和に加え、台湾によるアメリカの半導体・エネルギーインフラへの2500億ドル規模の投資も盛り込まれている。
台湾と共産主義中国の体制の違い
蕭氏は、台湾と共産主義中国の体制の違いについても言及した。
米保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」が今年2月に公表した経済自由度ランキングでは、台湾は世界5位、中国は154位だった。
蕭氏は、法の支配や基本的人権、自由なイノベーションこそが経済成長を支える要素だと強調。現在、経済・政治・イデオロギーの各分野で競争が進んでいるとしながらも、「どちらのモデルが最終的に勝利するかについて疑いはない。事実がそれを示している」と述べた。
中共が社会主義と共産主義を標ぼうする一方、台湾は「民主主義が成果をもたらす」と信じていると語った。
また、米欧が長年、中国の経済発展を通じた政治的自由化を期待してきたが、その期待は実現しなかったとの見方を示した。
「大きな経済成長は見られたが、多くの人が期待した政治的開放や進歩は見られなかった。むしろ後退している分野もある」と指摘し、「中共への対応を考えるうえで考慮すべき現実だ」と指摘した
国際通貨基金(IMF)の統計によると、2026年の台湾の1人当たりGDPは中国本土の約3倍となっている。
「戦猫外交」の結論
台湾は現在、防衛力の強化を進めている。
頼清徳政権は、防衛費を現在のGDP比約3%から2030年までに5%へ引き上げる方針を掲げている。今月初めには、中国本土を想定した方向へアメリカ製ロケットシステムの発射訓練を実施し、中共軍の侵攻を想定した防衛能力を示した。
一方で、野党勢力が防衛予算の拡大に慎重な姿勢を示しており、与党の提案がたびたび阻止される場面もあった。
しかし蕭氏は、こうした議論そのものが台湾の透明性と説明責任を示していると評価した。
「重要なのは必要な分野に資金を投入することだ」としたうえで、所属政党として防衛予算の必要性を引き続き訴えていく考えを示した。
蕭氏はまた、台湾が人工知能(AI)や先端技術のサプライチェーンのあらゆる段階に深く組み込まれていると指摘した。
そのうえで、「台湾の人々は安定の担い手であり、平和の構築者でもある。国際社会への貢献を続けていきたい」と語った。
そして、自らの掲げる「戦猫外交」の本質について、こう締めくくった。「猫は小さい。しかし自分の身長の10倍、あるいはそれ以上の高さまで跳ぶことができる」「そして、猫に九つの命がある(A cat has nine lives)(非常に危険な状況から何度も生き延びる)」
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