世界の採用市場が、新たな問題に直面している。企業からなかなか返事を得られない求職者が、有料のAIツールを使って多数の求人に一括応募するようになった。一方、企業側も、応募の急増やAIで作成された履歴書の氾濫を受け、AIによる選考への依存を強めている。
企業経営者からは、膨大な応募者の中から適任者を見つけるのが、極めて難しくなっているとの声が上がっている。
採用管理システムを提供するGreenhouseのダニエル・チャイト最高経営責任者(CEO)は、AIで作成された履歴書が増えたことで、企業が応募者の意欲や募集条件との適合性を見極めにくくなっていると指摘した。
求職者は、わずか20ドルのAIツールを使い、多数の求人に自動で応募できる。一方、企業も内容のよく似た応募書類をAIで除外するようになり、採用活動全体がかえって非効率になる「AIの悪循環」が生じているという。
チャイト氏は米誌「フォーチュン」に対し、「求職者と企業の双方が不満を抱いている。現在の採用市場は、どちらにとっても十分に機能していない」と語った。
「求職者は履歴書を送り続けているが、まるで『ブラックホール』に吸い込まれるように返事がない。いくら応募を重ねても、面接や採用にはなかなかつながらない」
求職者も企業もAIに依存 採用現場で悪循環
チャイト氏によると、AIツールを使って仕事を探す求職者は増え続けている。
「Googleで検索すると、Greenhouseに掲載されているすべての求人にAIで自動応募できるとうたうソフトウエアが見つかる。価格は20ドル程度で、購入すれば多数の求人にほぼ無制限で応募できる」
一方、企業の採用担当者は、次々に届く大量の応募書類への対応に追われている。
Greenhouseには現在、17万5千件の求人が掲載されている。1件の求人に届く応募は平均約254件で、採用担当者1人が処理する応募件数は412%増加したという。
チャイト氏によると、企業にはわずか1、2日で数百件から数千件の応募が届くこともあり、採用担当者がすべてを迅速に確認するのは難しくなっている。
さらに、多くの履歴書がAIで作成されているため、内容が似通う傾向も強まっている。企業側は、本気でその企業への就職を希望している応募者と、AIツールを使って一晩で数千件の求人に応募した人を見分けにくくなっているという。
そのため、企業は応募書類の処理をAIに頼らざるを得ない。一方、企業から返事を得られない求職者は、さらに多くの求人に応募するようになる。
チャイト氏は「私たちはこれを『AIの悪循環』と呼んでいる。求職者と企業の双方が、それぞれの課題に対処するためAIを使っているが、その結果、採用環境全体がさらに悪化している」と説明した。
応募は殺到しても適任者が見つからず
Goodwillのスティーブ・プレストン最高経営責任者は、AIが若者や新卒者向けの初級職に影響を及ぼすなか、今後、仕事探しに苦労する若者がさらに増える可能性があると警告した。
企業側にとっても、大量の応募者の中から適切な人材を見つけ出すことは、ますます難しくなっているという。
かつてGoogleのエンジニアを務め、現在は企業価値7億2千万ドルのAI新興企業Gleanを創業したアルビンド・ジェイン氏は、同社には毎日数千件の応募が届くものの、必要な人材を依然として見つけられないと語った。
ジェイン氏によると、届いた応募書類の5分の1も確認しないうちに、優秀な候補者が他社に採用されてしまうという。
ジェイン氏は、「学生は仕事を見つけるのが難しいと考えている。しかし、私たちも適切な人材を見つけることは同じくらい難しいと感じている」と述べた。
米女優のアン・ハサウェイさんも、似たような経験を明かしている。
ハサウェイさんによると、新たなスタッフを募集した際、応募者からChatGPTで書いたとみられる複数の感謝のメールが届いたという。
ハサウェイ氏は求職者に対し、「相手をうまくごまかせると思っていても、AIを使ったことがかえって見透かされているかもしれない」と警鐘を鳴らした。
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