9月8日の閣議後記者会見で、小泉進次郎防衛相は、退職した自衛官とその家族を支援する新組織「退職自衛隊員・家族支援庁(仮称)」の創設に意欲を示した。2027年度(令和9年度)予算の概算要求に設置経費を盛り込んだうえで、「どのような最新装備品や武器を持っても、人を大切にしない自衛隊に未来はない」と強調した。
装備の高度化が安全保障論議の焦点となるなか、小泉氏が重視したのは人員基盤の強化である。自衛隊員の確保を「政府を挙げて取り組むべき至上命題」と位置づけ、現役隊員の処遇改善にとどまらず、任務を終えて退職した隊員や、日頃から隊員を支える家族への支援にも取り組む考えを示した。「外ばかり見ていないで、まず今いる人を大切にする」との発言には、採用難が続くなか、現役隊員とその家族への支援を重視する姿勢が表れている。新庁構想は、小泉氏が重点的に進める政策の一つでもある。
自衛官の充足率88.1% 約3万人不足という現実
小泉氏が人員確保策に力を入れる背景には、自衛隊の人的基盤を巡る厳しい状況がある。防衛省の資料によると、2025年度末(2026年3月末)時点の自衛官の現員は約21万7700人で、1981年度以降で初めて22万人を下回った。定員約24万7000人に対する充足率は88.1%で、前年度から約1ポイント低下した。少なくとも1998年度以降で最も低い水準となり、定員を約3万人下回っている。
特に課題となっているのは、新規採用の低迷である。2023年度は採用計画に対する充足率が過去最低の51%となり、部隊の基礎を支える任期制自衛官の候補者では約3割にとどまった。少子化により、主な募集対象である18〜26歳の人口は減少している。民間企業との人材獲得競争も厳しさを増している。
一方で、長射程ミサイルの配備や共同訓練の増加などにより、自衛隊に求められる任務は拡大している。任務が増える一方で、人員の確保が追いついていないことが、現場の負担を重くする要因となっている。
110人規模の新組織 2027年度の設置を目指す
新設が検討されている支援庁は、約110人規模とする案が想定されている。退職後の再就職支援や給付金の充実に加え、負傷を理由に退職した隊員への支援、病気などに関する相談体制の整備、年金・給付金に関する対応、家族への支援などを一元的に担う構想である。
これまで、防衛省内局の各課や陸上・海上・航空自衛隊の関係部署に分かれていた機能を集約し、退職者と防衛省をつなぐ窓口を明確にする狙いがある。
小泉氏は、退職した隊員とのネットワークや連絡体制を、これまで隊友会などの団体に委ね、防衛省・自衛隊として主体的に取り組んでこなかったことを課題として挙げた。退職者やその家族の社会的地位の向上を含む支援策についても、不十分だったとの認識を示している。退職後の生活や再就職を含む支援体制を見直す必要があるとの問題意識がうかがえる。
防衛費8兆8908億円 AI・無人機と「人への投資」を両立
小泉氏は、自衛隊が隊員を大切にする組織であることを示すことが、採用の拡大や離職の抑制につながるとの考えを示した。退職者への支援を充実させることは、将来の入隊希望者に対し、自衛隊が退職後も隊員を支える組織であると伝えることにもなる。
会見では、退職者への再任用の呼びかけを強化する方針や、従来の発想にとらわれない採用手法の必要性にも言及した。
新庁構想は、7月21日に閣議決定された「骨太の方針」にも、「新たな庁の設置を含め取り組みの強化を検討する」と明記された。政府方針として一定の後押しを受けている。
防衛省全体の2027年度(令和9年度)概算要求は、過去最大となる約8兆9000億円である。無人機やAIを活用した新たな防衛力の整備と併せ、隊員の確保や処遇改善など、人への投資を防衛力の基盤を支える重要な柱の一つと位置づけた。
新組織設置に残る課題
もっとも、支援庁の設置には課題も残る。政府内には、将来的な予算や人員の確保を懸念し、庁の設置は複数の選択肢の一つにすぎないとする慎重な見方もあると報じられている。
新たな組織を設けるには、それ自体に人員と経費が必要となる。人員不足への対応を目的とした組織の新設が、かえって限られた人員の配分に影響する可能性もある。新組織の役割を明確にし、既存組織との連携や業務分担をどう設計するかが問われる。
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