中国のロボット業界で、投資ブームと実際の需要との隔たりが浮き彫りになっている。大型契約を公表していた新興企業「無境動力」は賃金未払いと操業停止に直面。架空受注を疑う指摘も出るなか、人型から清掃・医療用まで経営難が広がっている。商用化の遅れと資金循環の問題から、バブル懸念の背景を探る。
身体で周囲を認識し行動する「エンボディドAI」を手がける中国の「無境動力」社の、賃金未払いと操業停止が発覚し、実質的経営者とも連絡が取れない。設立1年足らずで、契約と受注見込みは計約10億元(約237億円)と報じられていた。
業界関係者によると、中国ロボット業界では架空受注が横行し、需要は乏しい。この2年で倒産が相次ぎ、過熱していた市場のゆがみが表面化し、淘汰が始まった。今後2~3年で再編が進み、中堅・中小企業ははさらに苦しくなるとみられる。
大型契約を公表した「無境動力」が操業停止 賃金未払いも
無境動力(南京無境未来動力科技有限公司)は南京市江寧区でエンボディドAIや四足歩行ロボットを開発している。
従業員を名乗る人物は中国紙「毎日経済新聞」に、8月から給与が滞り、9月に住宅積立金、10月に社会保険料の納付も止まったと証言した。操業を停止し、未払い賃金は800万元(約1億8900万円)に近い。実質的経営者の崔小飛氏とは連絡が取れず、CEO兼総経理の袁海輝氏も回答を控えた。
南京市の公式微信アカウント「南京発布」は6月、同社は設立4か月で中央直属の国有企業数社と5億元(約118億円)近い受注の枠組み契約を結び、納入段階に入ったと発表していた。地方でも5億元近い受注の見込みがあり、1億1千万元(約26億円)を調達したとしていた。
中国ロボット企業に架空受注の指摘 データ収集センターとの取引構造
大型受注の発表には、実態を伴わないものが少なくない。
「梅卡曼徳機器人(メックマインド)」の創業者・邵天蘭氏は9月、微信の「モーメンツ」で、北京・上海を拠点とし、知名度も評価額も高く、中国中央テレビの「春節聯歓晩会」にも出演した一部のエンボディドAI企業の問題を指摘した。中核技術や生産設備を自社で保有せず、資金や技術、生産、販売の各機能を外部企業に依存しながら事業を展開する例もあるという。
邵氏は、こうした企業がデータ収集センターや地方政府、投資家、部品供給元との関連当事者間取引で「架空の持続不可能な売上高」を生み、「不正と資金流出を繰り返す悪循環」に陥っていると警告した。
地方政府や国有投資会社の出資で設立したデータ収集センターにロボット企業が機器を販売して売り上げを計上し、センターが収集データを同企業に販売することで資金が還流する仕組みだ。
「梅卡曼徳」は9月1日、エンボディドAIの「目・脳・手」の技術企業として初めて香港証券取引所に上場したが、初値は公開価格を下回った。
「科創板日報」によると、「水木資本」の唐勁草会長は邵氏の告発について「問題がすでに相当蓄積していることの表れではないか。実際の事例は外から見えるより多い可能性が高い」と述べた。「霊御智能」の共同創業者兼CEOも、機器を買ってデータを売り戻す手法は「ほぼ全てのデータ収集センターが採用している」と認めた。
Interact Analysisによると、2026年4月末時点で中国には稼働中・計画中の人型ロボット向けデータ収集・訓練センターが90か所以上ある。ロボットの「自動車教習所」とも呼ばれ、操作員がVR機器などで遠隔操作し、つかむ・運ぶ・組み立てるといった動作の映像や触覚、力、関節角度のデータを記録する。
人型ロボットの需要はどこに 教育・実演向けに偏る市場
実務用の受注は少ない。「MIR睿工業」が7月の人型ロボット調達案件46件を調べたところ、主な購入者は大学や職業教育機関で、教育分野が落札総額の90%超を占めた。
米IDCによると、2025年の人型ロボット世界出荷は約1万8千台で、85%超が娯楽・公演、教育・研究、案内・接客など、技術の実演や対話向けだった。製造業や倉庫・物流向けは15%未満で、多くは試験運用にとどまる。BofAグローバル・リサーチは2025年の世界出荷を約2万台、このうち中国製が95%を占めると推計している。
経済メディア「虎嗅網」は、顧客が実際の生産現場での利用を目的にロボットを購入し、納入・検収を終えたうえで、技術者の継続的な支援なしに安定稼働できることを本格的な商用導入の条件としている。その基準に照らすと、出荷済みロボットの少なくとも85%は実運用の段階に達していないという。

清掃・医療用ロボットにも経営難 破産手続きや事業撤退が相次ぐ
経営難は清掃用から手術支援用まで幅広いロボット分野に広がっている。報道と裁判所公告によると、2025年2月~26年10月までの21か月間に、少なくとも11分野で20社超が破産や解散、清算、事業部門の閉鎖に至った。
10月19日、深圳市中級人民法院で盈合ロボットの第1回債権者集会が開かれ、破産清算計画などを協議した。同社は6年で6億元(約142億円)超を調達し、美団、字節跳動(バイトダンス)、金沙江創投(GSRベンチャーズ)が株主に名を連ね、最盛期の評価額は5億ドル(約789億円)超だった。
9月初めには、プール清掃ロボットの智橙動力について、債権者が蘇州工業園区人民法院に再建型破産手続きを申し立てた。累計売上高は1億元(約24億円)に近かったが、売掛金回収難で資金繰りに窮した。
破産清算の申し立て受理も相次ぐ。6月17日には東莞市第三人民法院が、債権者が申し立てたロボット掃除機の東莞楽生機器人有限公司の案件を受理した。
5月7日には上海市浦東新区人民法院が深蘭ロボット(上海)有限公司の案件を受理した。従業員の未払い賃金などの債権は2300万元(約5億4500万円)を超える。親会社の深蘭科技は胡潤の世界ユニコーンランキングに評価額140億元(約3315億円)で名を連ね、商湯科技(センスタイム)、科大訊飛(アイフライテック)と並ぶ「3大企業」と呼ばれた。
3月4日には連雲港市海州区人民法院が、商業・公共施設向けサービスロボットの創沢智能ロボット(江蘇)有限公司の案件を受理した。同社は今年すでに4回強制執行を受けている。
1月23日には浦東新区人民法院が整形外科手術支援ロボットの上海龍慧医療、2025年10月には北京市房山区人民法院が、一時評価額200億元(約4736億円)超だった達闥股份の子会社、達闥機器人の案件を受理している。
技術と資本の二重バブルか 今後2~3年で淘汰・再編の見方
台湾の中央通信社は最近、実用化に結びつかない「技術バブル」と、虚偽の説明や粉飾で膨らんだ「資本バブル」という、中国ロボット分野の二重のバブルが完全に露呈したとする論評を紹介した。
中国信息通信研究院は10月のエンボディドAI業界報告書で、過熱と停滞が同時に進行していると指摘した。投資家や政策当局の関心は高いが、大規模導入や持続的な収益モデルの構築には課題が残り、実証実験と製品納入の間にも明らかな隔たりがあるという。今後2~3年で実質的価値のない企業や事業が淘汰され、大手への集約で中堅・中小企業の淘汰が加速し、「最後まで生き残った企業が勝者となる段階に入る」との見方を示した。
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