情報BOX:皇太子への権限移譲進むサウジアラビアの情勢

2017/11/11
更新: 2017/11/11

[8日 ロイター] – サウジアラビアは、過去3年間にサルマン国王からムハンマド皇太子への権限移譲が進み、野心に燃える若き皇太子が経済改革から隣国イエメンとの紛争まであらゆる課題で主体的な役割を担っている。

サウジ情勢で押さえておくべきポイントは以下の通り。

<王室の内紛>

ムハンマド皇太子は6月、サルマン国王のおいのムハンマド・ビン・ナエフ氏に代わり皇太子の座に就いた。国王に近い筋によると、ナエフ氏は過去に受けた襲撃で体内に破片が残り、その影響でモルヒネやコカインの中毒に陥っており、「皇太子廃嫡は国家の利益に適う」という。

ロイターはナエフ氏の薬物中毒を独自には確認できなかった。

<汚職取り締まり>

皇太子は先週末に汚職の取り締まりに乗り出し、11人の王子や現職閣僚らを拘束した。

サウジ国民の多くは、権力者の間にはびこる公金横領に鉄槌を下したと、今回の取り締まりを歓迎しており、トランプ米大統領も支持を表明した。ただ、西側当局者の間からは、部族内や王室内から反発が起きるのではないかと懸念する声も聞かれる。

<イエメン問題>

皇太子は2015年3月に隣国イエメンに対する軍事攻撃を開始した。サウジ率いる連合軍は、イランとつながりのあるイスラム教シーア派武装組織「フーシ派」を標的としており、これまでの軍事攻撃で1万人以上が死亡している。

アラビア半島の最貧国であるイエメンは、数百万人が飢えやコレラ感染に見舞われている。

<対カタール関係>

 

皇太子は、テロリストを支援し、イラン寄りだとカタールを批判し、同国の孤立化政策を主導している。

一方のカタールはこうした非難を退け、サウジの独裁的な支配層から距離を置いていることがサウジの不興を買ったと主張している。

<対イラン関係>

サウジとイランは以前から中東地域の盟主の座を争ってきたが、サルマン国王とムハンマド皇太子が対イランのイスラム教スンニ派連合を形成する取り組みを進めたことで関係が一段と悪化した。

皇太子は7日、イランがイエメンの「フーシ派」にミサイルを供給しており、これはサウジに対する「直接的な軍事的侵略」に当たるとの考えを示した。

さらに皇太子は、イランの影響下にあるレバノンのシーア派組織ヒズボラを威嚇し、レバノンでもイランとの争いを繰り広げている。

<アラムコの株式公開>

サウジは国営石油会社サウジアラムコの約5%株式を来年新規公開(IPO)する計画だ。アラムコ株のIPOは、皇太子が掲げる経済改革計画「ビジョン2030」の柱と位置付けられている。

アラムコのIPOによる調達額は最大1000億ドル程度となる見込み。ただ、2兆ドルとされるアラムコの企業価値に懐疑的な見方や、IPOが先送りもしくは棚上げされるのではないかとの憶測も流れている。

<経済改革>

「ビジョン2030」は巨額財政赤字の圧縮を目的にスタートしたが、石油以外の成長や雇用を生む新たな分野はまだ創出できていない。計画には民間投資呼び込みや民営化促進、世界最大の政府系ファンド設立なども含まれる。女性の労働参加率を引き上げることも目的の1つだ。

燃料や水、電気に対する政府補助の段階的な削減は既に始まったとはいえ、こうした引き締め策は国民の受けが悪い。原油安のあおりでサウジ経済は減速しており、既に緊縮策の一部は見直しや先送りとなっている。

<社会・文化の変化>

サウジはイスラム教スンニ派の中でもコーランの教えに厳格なワッハーブ派に属し、男女同席やコンサート、映画などを禁じている。

皇太子の力が強まるとともに権限が若い年齢層に移っており、社会面や文化面に変化が生じている。来年からは女性が車を運転できるようになり、スポーツイベントへの参加も認められる。

イスラム教聖職者が絶対的な権威を有してきた教育、裁判所、法曹といった部門でも改革が始まっている。

<NEOM>

皇太子は先月、ヨルダンやエジプトにまたがる新ビジネス・産業都市「NEOM」の建設構想を打ち出した。石油依存からの脱却が狙い。

プロジェクトは5000億ドル規模で、面積は2万6500平方キロメートルに及ぶ。電力はすべて再生可能エネルギーで賄い、エネルギーや水、バイオテクノロジー、食品、先端的な製造業、エンターテインメントなどの産業を誘致する。

Reuters
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