焦点:景気優先か公害対策か、中国地方政府が板挟み

2018/12/17
更新: 2018/12/17

[北京/上海 14日 ロイター] – 中国では、公害対策に携わる地方政府がジレンマに直面しつつある。景気が減速している中で、中央の環境保護省からの指示は内容には矛盾があり、この冬も徹底して大気浄化の取り組みを実行するべきなのか、それとも経済に配慮して工場の操業維持に最善を尽くすのが良いのか分からないからだ。

中国は大気や土壌、水質汚染をもたらした「あらゆる犠牲を払って成長する」という経済モデルからの決別を約束し、大気汚染のひどい地域で新たな対策に乗り出したばかりだ。

地方政府当局者にとっては、環境基準の順守は共産党指導部への忠誠心が試される重要な機会にもなっている。ところが彼らは今年、景気を腰折れさせないという課題も背負わされた。

第3・四半期の中国の国内総生産(GDP)は世界金融危機来で最低の伸びにとどまっており、環境と景気の両面でうまく対応していくのは非常に難しいだろう。

ドイツ・ボンに拠点を置き、持続可能な社会実現を目指す自治体協議会である「イクレイ(ICLEI)」の東アジア事務局地域ディレクター、Zhu Shu氏は「公害が起きている地域の政府は大気汚染物質削減に懸命に取り組んでいるが、同時に疲弊もしている」と指摘した。

地方当局は公害対策でより柔軟な姿勢を求められているとはいえ、そうしたやり方は既に混乱の素地が生まれている。当局が寛大さを見せれば成長を追い求めていると批判され、逆に厳しく取り締まると画一的な官僚主義だとみなされてしまう。

複数の専門家は、ゴールポストが常に動いているので、どうやってちょうど良い政策運営をするべきかだれも答えを持っていないと話す。

環境保護省とのつながりがある研究者の1人は、同省が地方政府を「基準達成の義務不履行」と「過剰な政策遂行」という正反対の理由で名指しで非難している状況だと説明した。

<苦しい目標達成>

中国は昨年、北部の28都市に対して冬季中に微粒子物質「PM2.5」を少なくとも15%減らすために工業生産や石炭消費などを抑制するよう命じた。

天豊証券のエコノミストチームは、多数の工場閉鎖などを含むこうした取り組みによる雇用喪失が、北京─天津─湖北省地域だけで4万人になると推計している。

今年PM2.5対策を課せられたのは最大79都市と増えた半面、削減目標は大多数が約3%とずっと低くなった。

ただロイターが公式統計を分析したところ、今年11月の79都市のPM2.5の平均濃度は69.8マイクログラムと、前年同期を14%上回った。前年から改善したのは32都市にとどまっている。

中国で最も大気汚染がひどい湖北省では、混乱をできるだけ和らげる目的で、政府が企業を環境基準の取り組みの成績順に4段階に分け、汚染物質の排出が最も多い最下位のみに工場閉鎖などの厳しい措置を適用している。

唐山市にある製鉄所の幹部は「私の理解では、大気の質が目標水準を達成している限り、当局は目こぼししてくれる。生産削減は手段であって最終的な目的ではない」と語った。

それでも昨年目標を達成できなかった地域は、より大幅な生産削減を迫られるだろう。

例えば晋城市は、第1・四半期に経済が落ち込んだものの、汚染物質の排出が増えているため、引き続き少なくとも市内の半数の工場閉鎖を計画中だ。

また悪天候によって目標を達成できなくなる都市も出てくるだろう。国有の環境系シンクタンクの幹部は、江蘇省は天候不順で今年のスモッグの量が5─10%増えてもおかしくないと予想している。

中央政府による公害対策指令は昨年、一律的に適用され、企業は汚染物質を排出していてもいなくても生産削減を迫られたため、多くの地域で工業活動に支障をきたした。

その反省を踏まえ、李干傑・環境保護相は状況に応じたよりきめ細かな対応を約束。今年は自治体は独自の目標設定が認められ、環境基準違反企業の生産をただ減らす代わりに、基準達成を支援することも促されている。

もっとも多くの地方経済はなお石炭や鉄鋼といった産業に依存しており、新たな法令制定や基準引き上げ、課税などを通じて企業によりクリーンな生産態勢を確立させるという政府の方針は機能していない。

イクレイのZhu氏は「このジレンマを根本的に解決する方法は、産業構造の修正だ。遅かれ早かれ、これは中国が直面し、対処しなければならない問題と言える」と述べた。

(Muyu Xu、David Stanway記者)

 

12月14日、中国では、公害対策に携わる地方政府がジレンマに直面しつつある。写真は中国の国旗。河北省で昨年2月撮影(2018年 ロイター/Thomas Peter)

 

Reuters
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