中国が野生動物の食用利用禁止へ、「医療目的」は例外か

2020/05/22
更新: 2020/05/22

[上海 21日 ロイター] – 22日に開幕する中国全国人民代表大会(全人代、国会に相当)は、野生動物の食用利用を禁止するため、法制化を進める見通しだが、毛皮の取引や医薬品としての利用は今後も続くとみられる。

中国政府は、新型コロナウイルスの発生源が湖北省武漢市の市場で販売されていた野生動物だった可能性が高いとみて、1月下旬に野生動物の取引を暫定的に禁止。その後、全人代常務委員会が2月に、野生動物の食用利用を法律で禁止する方針を示した。

これを受け、野生動物の養殖が盛んな湖南省と江西省は今週、飼育されている動物をできる限り野生に戻す方針を表明。猟師や養殖業者の転職を支援することも明らかにした。

ただ両省は、毛皮の取引については新たな措置を講じておらず、科学・医学目的の野生動物の取引を継続できる余地も残した。

動物愛護団体ヒューメイン・ソサイエティー・インターナショナルの中国政策専門家ピーター・リー氏は、これについて、異種間のウイルス感染を招いた取引が続く恐れがあると指摘。飼育業者は医薬品として野生動物を販売するようになるだろうとの見方を示した。

<取り締まり強化>

規制当局は1月以降、生鮮市場やオンラインでの野生動物の販売を取り締まっており、上海ではトカゲ、クジャク、ホッキョクギツネを販売していたオンラインショップなどが処分を受けた。

ただ、中国の伝統医学である「中国医学」に関連する野生動物由来の商品の販売は続いており、法的な曖昧さや需要の根強さが浮き彫りになっている。

中国医学ではコウモリの糞でつくった「夜明砂」という薬が視力回復剤などとして利用されるが、取引業者によると、コウモリの糞を採取して販売することは現在も可能。

コウモリは新型コロナのほか、中東呼吸器症候群(MERS)、重症急性呼吸器症候群(SARS)の感染源となった可能性が指摘されている。

全人代常務委員会は、野生動物の食用利用を法律で禁止する方針を示したが、医療目的の取引は引き続き容認する意向。ただ、中国医学では両者を区別できない。薬効があるとされているから、野生動物を食べるのだ。

中国医学は世界保健機関(WHO)からもお墨付きを得ているが、薬効が証明されていないとの批判や、絶滅危惧種がさらに減るとの懸念も出ている。

リー氏は「中国医学では1980年代以降、肌の健康、不妊治療、長寿、がん治療などの目的で野生動物を食べる動きが広がった」と指摘する。

<監視強化か>

中国の政治家の間では、野生動物に代わる人工の原材料を探すことを製薬会社に義務付けるべきだとの声も出ている。

実際、薬として利用されるジャコウジカやトラの骨は、すでに人工の原材料で代用されているが、製薬会社によると、中国政府が新型コロナの治療薬として推奨した「痰熱清」の主原料であるクマの胆汁に代わる人工原材料を商業生産できるようになるには何年もかかるという。

クマの胆汁を販売している養殖施設は、1月に導入された野生動物の取引禁止措置の対象外。動物愛護団体からは残酷だとの批判が出ている。

新たな法整備で、製薬業界にどのような影響が出るかは不透明。政府は少なくとも承認・監視体制を強化する意向を示している。

David Stanway

Reuters
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