弱者いじめ?専門家「党大会前の米中対立を回避」ペロシ氏訪台めぐり

2022/08/09
更新: 2022/08/09
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ペロシ米下院議長の台湾訪問への報復として、中国政府は米台に対し制裁措置を発表した。ただ、専門家は、一連の制裁措置は台湾を念頭に置いたもので、米国に実質的な影響を与えないと指摘した。今年秋に党大会を控えている中国共産党は、米国とのさらなる対立を回避したい思惑がある。米ボイス・オブ・アメリカ(VOA)が6日報じた。

台湾に相次ぐ報復措置

ペロシ氏が台湾訪問を終えた3日、中国商務部(省)は台湾への天然砂輸出を止めると発表した。台湾からの柑橘類、タチウオ、冷凍アジの輸入も停止した。

中国側はペロシ氏の訪台前に、すでに台湾の食品会社100社あまりからの輸入を一時中止していた。

台湾経済部(省)は、この2年間に台湾で使われた天然砂のうち、海外産は全体の1%未満であるため、中国側の輸出停止は「影響がない」とした。

しかし、農家や企業は莫大な損失を被るとみられる。台湾の農林漁業を管轄する農業委員会は2日、中国側の制裁措置は台湾産のはちみつ、茶葉や水産物に大きな打撃を与える見通しだと示した。

昨年以降、中台関係の悪化で中国側は、台湾産パイナップルやハタなどの輸入を停止した。

米中台関係を研究する米ラマポ・カレッジ・オブ・ニュージャージー(Ramapo College of New Jersey)のディーン・チェン(Dean Chen)政治学准教授は、「台湾の重要な輸出先である中国は、経済・貿易活動を武器に台湾を抑えたい」と述べた。

チェン氏は、中国が台湾に圧力をかけることは「常態化している。今後、圧力はさらに強まるだろう」と指摘。

米台ビジネス協議会のルパート・ハモンド・チェンバース(Rupert Hammond-Chambers)会長は、「台湾企業は中国側の圧力に苦しむいっぽうで、ある程度中国側の脅しに慣れている」と述べ、ダメージは限定的であるとの考えを示した。

米国に制裁なし

ペロシ氏の台湾訪問で米中両政府が応酬を強めるなか、中国側は米国が「主な挑発者で、危機を作り出した」と非難するにとどまり、米国に対し実質的な経済制裁を加えていない。

中国外務省は5日、ペロシ氏と直系親族に制裁措置を講じると発表したものの、具体的な内容はなかった。

一部の米メディアは、中国の電気自動車(EV)用電池メーカー、寧徳時代新能源科技(CATL)が北米生産工場の建設計画を延期したと報道した。CATLは当初、米国またはメキシコで数十億ドル規模の資金を投じて、生産工場を作ることを検討していた。

米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、CATLは米中間の緊張の高まりを受け、批判を避けるために計画を延期した。関係筋は、同社が工場建設計画を公表するのは9月末以降になるとした。

米中台関係において、中国は批判の矛先を常に台湾に向けている。ルパート・ハモンド・チェンバース会長は「中国はいつも台湾を抑圧し、台湾人活動家らを脅迫してきた」と批判した。

「中国が米国に対して『全責任を負うようになる』と恫喝しても、これが実際には何を指すのかわからない。中国がペロシ氏の訪問に対抗し、台湾の人々に対して経済的、政治的、軍事的に圧力をかけるのは間違いないことだ」

「これは中国政府の典型的な対処法だ。彼らは台湾に対して報復するが、米国の利益を損なうような行動をとらない」と同会長は語った。

ディーン・チェン准教授は、中国政府は自らの利益から、米中関係をさらに悪化させるつもりはないとの認識を示した。

「言葉で恫喝しても、敵対感情があっても、中国政府は反米感情の過熱化を回避したい。特に、今秋開催予定の党大会で、習近平氏は3期目の続投を狙っている。中国共産党は、米中関係が一段と混乱するのをどうしても避けたい」

台湾半導体への制裁なし

台湾の調査会社トレンドフォースは4月下旬、今年台湾の半導体受託生産の世界シェア(売上高ベース)が66%に達すると予測した。2021年から2ポイント拡大。世界的な半導体不足が続いているため、台湾への依存度の高さが鮮明になった。

中国の報復措置対象のなかに、現時点で半導体産業は含まれていない。

ロイター通信によると、中国税関当局の統計では、今年上半期の台湾からの輸入額は前年同期比7.3%増の1225億ドルとなった。このうち、半導体と電子部品が最も多い。

米資産運用会社、ウィズダムツリー・インベストメンツ(WisdomTree Investments)の専門家、任麗倩氏は「産業別でみると、今回中国の報復措置は控えめだと言える。半導体産業が制裁措置の対象になっていないのは、中国、台湾、米国の共通利益に合致するためだ」と語った。

「米国はサプライチェーンの問題で半導体の入手が難しくなっている。台湾経済にとって半導体は不可欠な重要産業である。また中国も先端の半導体技術を台湾に頼っているからだ」

制裁強化か

いっぽう、ルパート・ハモンド・チェンバース氏は「党大会を控えている中国指導部は、対台制裁を強化しない」と推測。

「習近平氏は、党大会の開催期間中に台湾海峡を巡る国際情勢の悪化を目にしたくないだろう。習氏は今『終身制』に力を注ぐ必要がある」

中国共産党が国内の民族感情を煽った結果、一部の愛国主義者が現在、中国政府は「弱腰だ」と不満を抱き、米国などにより強硬な対応を求めている。この圧力の下で習近平政権は米台に対して打撃を強めざるをえないと考える専門家もいる。

ディーン・チェン准教授は、「党大会というタイミングもあり、政治的正当性の観点から、習政権にとって米台への制裁措置を徹底的に行うことが非常に重要になる」と話した。

「でなければ、中国人は政府の(台湾統一への)意欲と決心に疑問を抱くようになる。中国はいずれ、より強硬な制裁措置を実行するに違いない」

張哲
張哲