オピニオン 上岡龍次コラム

逃げ道が無いロシアと国連の暴走

2023/03/25
更新: 2023/03/25

 

敗戦国だと断定されたロシア

国家間の戦争で軍隊による犯罪行為が行われた場合は当事国の軍法会議で裁かれるのが通例。何故なら法律は国内限定なので国外に持ち出すことは相手国の国家主権を否定する行為になる。だから軍隊が国外で活動する場合は国内法を軍人に対して適用できない。代わりに国外で活動できる軍法会議で裁くことが通例になっている。

さらに騎士道・武士道から交戦した者に対して敗北の屈辱を与えても名誉を侮辱しないことがマナーだった。このため敗戦国の国王・政治家・軍人を戦争犯罪人として裁いた例は第二次世界大戦まで無い。代わりに敗戦国を自国に組み込むか敗戦国の国王・政治家を代理人として統治させており、実際に世界帝国を築いたモンゴル軍は実行している。だが反乱を起こすと国王・政治家を皆殺しにするか滅亡させることで対応した。つまりアメとムチで戦勝国は対応している。

3000年の戦争史を見ると第二次世界大戦後から交戦国の人間を戦争犯罪人として裁くことが始まっている。これはアメリカが行った東京裁判が典型例で、経験則に反する行為が今も続いている。何故なら国際社会の暗黙の了解が原因で、国際社会では強国に都合が良いルールが平和となる。時の強国はアメリカだから国際社会は従うだけ。

国連は第二次世界大戦の戦勝国のための組織として始まった。だから国連の概念はアメリカの概念が反映されている。国際刑事裁判所(ICC)はその一つで戦争犯罪人を裁くことが目的の組織。そんな国際刑事裁判所(ICC)はプーチン大統領に対して戦争犯罪の責任を問う逮捕状を出した。ロシアは即座に反発しプーチン大統領を逮捕する行為は宣戦布告と見なしている。

国連の暴走

国連は第二次世界大戦の戦勝国が集団指導体制で世界を管理することが目的だった。だがイギリス・フランスは国力が劣るので発言力が低下。中国は内戦で地位が曖昧。そんな中で残ったのはアメリカとソ連だった。本来は戦勝国による集団指導体制なのだが戦勝国同士で対立し国連は東西冷戦の舞台に変化していく。

戦勝国同士が対立して東西冷戦が始まると国連は次第に戦勝国から離れ独自に機能する様になった。これは戦勝国が世界から金を集めて国連に給料を払うのではなく、世界が国連に渡すことが原因だった。こうなると国連は独自に機能するので独自の平和を模索するようになった。その行き着いた先が国際刑事裁判所(ICC)でありプーチン大統領に対して戦争犯罪の責任を問う逮捕状を出している。

これは国連から見てロシアが敗北すると確信したからプーチン大統領に逮捕状を出したと推測する。だがロシアの敗北は確定していないからロシアは即座に反発している。ロシアは国際刑事裁判所(ICC)の検察官らを刑事捜査していると公表。何故なら国連による国家主権を否定する行為だから対抗したのだ。

国家主権
外交二権:外交・軍事
国内三権:行政・立法・司法

国家主権は外交二権と国内三権に区分されている。国外に持ち出せるのは外交と軍事だけ。だから軍隊による国外の戦争犯罪は当事国の軍隊で軍法会議として裁かれている。だが国内法を相手国に持ち込むと相手国の国家主権を否定する行為になるので国際社会では回避している。

国家主権を否定するのは何故?行政の下で立法が法律を作り司法が法律を実行する。だから国内法を相手国に適用すると相手国の国内三権を全て否定する。これが理由で適用しないことが通例なのだが、国連は暴走してロシアの国家主権を否定することをした。だからロシアは刑事捜査を開始しており対抗だけではなく報復が示唆されている。

端的に言えば国連の暴走がロシアの国家主権を否定する行為に至った。国家が国民に人権を与えるから国家が消滅すれば国民は無人権になる。だから国家は国家が消滅しない目的で戦争をする。だが国連はロシアの国家主権を否定したのでロシア人を無人権にする流れを作ろうとしている。これが理由で刑事捜査に至ったのだ。

 

逃げ道が無いロシア政府と軍人

国際刑事裁判所(ICC)はプーチン大統領だけを裁くのではない。ロシアの政府関係者にも逮捕状が出ているから、ロシア政府と軍人は東京裁判が自分にも適用されると認識するはずだ。仮にロシアが敗北すれば国際刑事裁判所(ICC)は東京裁判をロシアで再現するだろう。その時はロシア裁判と呼ばれるかもしれない。
 
仮に戦後にロシア裁判が行われたとすれば、ウクライナに侵攻した現地部隊の軍人は全員有罪になる。さらに戦争を指導した軍司令部・政府高官・民間の企業経営者も有罪になるだろう。実際にウクライナで戦争犯罪が実行されたのは事実だが、これはロシア軍の軍法会議で扱われる世界。だがロシアの国家主権を否定するなら東京裁判方式で有罪と絞首刑の嵐になるだろう。

 

外交交渉できない世界

国家の戦争目的は全面戦争・限定戦争・制限戦争の3区分。全面戦争は部族間抗争・国内戦争で行われている。アメリカであれば国内戦争である南北戦争が全面戦争に該当する。人類は戦争を止められなかったが経験則から可能な限り戦争を回避する様になった。さらに戦争を可能な限り小さくする様になった。その経験から人類の戦争は限定戦争に行き着いている。

だから3000年の戦争史では政治の延長として戦争が行われ戦争は政治の一つだった。この場合は敵国の軍隊を撃破することで相手国を交渉のテーブルに着かせることができる。だが全面戦争は政治の破断だから交戦国の政権を否定する。こうなると外交交渉は不可能であることを意味している。だが国際刑事裁判所(ICC)はプーチン大統領に逮捕状を出したことでロシアに対して全面戦争を仕掛けたのだ。こうなるとロシアは全面戦争で対抗するしか道を選べない。

戦争目的
全面戦争(All-out war) :交戦国の政権を否定する
限定戦争(Limited war) :戦争目的が限定されている戦闘と交渉
制限戦争(controlled war):政治が軍事に介入する

戦争の結果
全面戦争:勝利者が有る戦争(敵国の滅亡)

限定戦争:勝利者が有る戦争(政治の延長としての戦争)

制限戦争:勝利者無き戦争

 
国連とは第二次世界大戦の戦勝国のための組織。つまり国連はロシアを敗戦国と確信してプーチン大統領を裁く道を選んだ。これは弱者を集団でリンチする行為。これでロシアに対して和平交渉を求めても拒否されるのは明らか。国際刑事裁判所(ICC)こそが和平交渉を奪うのだから世界平和の敵と言える。

 

アメリカの制限戦争は通用しない

アメリカは第二次世界大戦でドイツと日本に対して全面戦争を実行した。当時は限定戦争が通例なのでアメリカの全面戦争は理解の外だった。だが国際社会は強国に都合が良いルールだから戦後の世界は従った。だが全面戦争を実行したアメリカは戦争の酷さに驚き制限戦争に移行している。これは後の朝鮮戦争・ベトナム戦争が典型例。

 

制限戦争論:キッシンジャー(アメリカ)
「交渉と戦闘は段階的に推進すべき。戦略の目的は敵政治意志の譲歩であって敵軍の撃破ではない」

 

アメリカは反省して戦争規模を小さくすることを選んだが何故か経験則である限定戦争ではなく理屈の制限戦争を選んだ。制限戦争は政治家が軍人に対して戦場の大きさを命令している。さらに軍隊による戦闘は相手国の譲歩が目的なので、負けもせず勝ちすぎない規模で実行させる。このため制限戦争は軍事的合理性からかけ離れているので軍事作戦が外交から干渉と拘束を受けると勝利できない結果になった。実際に朝鮮戦争・ベトナム戦争では勝利無き戦争になった。

 

ロシア :政治の破断である全面戦争
アメリカ:政治の延長である制限戦争

 

ではアメリカがロシアと和平交渉は成立するのか?その答えは“成立しない”になる。何故ならロシアは敗北すれば戦争犯罪人として裁かれることは明らか。最悪の場合は死刑なら敗北を認めない。最悪の場合は威嚇としてウクライナに核兵器を撃ち込むことで戦後の身を守るか、世界に核兵器を撃ち込んで報復する選択になる。ロシアがウクライナに核兵器を撃ち込めば脅しになり戦争犯罪人として裁くことは難しい。何故ならプーチン大統領を逮捕するなら世界に向けて核兵器を撃ち込むからだ。

 

強者に媚びる国連機関

国連は世界平和のための組織ではなく第二次世界大戦の戦勝国のための組織。これが戦勝国同士で対立したから国連は暴走した。このため国連は世界から甘い汁を吸う立場だから信用できない。

国際刑事裁判所(ICC)が真に国家規模の犯罪を許さないなら、中国によるチベット・東トルキスタン・香港・法輪功学習者への人権弾圧を無視しない。それどころか国際刑事裁判所(ICC)は習近平に対して逮捕状を出すはずだ。何故なら世界は習近平によるウイグル人への強制労働を認めた。ならば習近平に対して逮捕状を出せるが実行していない。この理由は中国の覇権が強大で報復されるからだ。

国際刑事裁判所(ICC)は強者には媚びて弱者に対して虐めを行なう組織。だからプーチン大統領には逮捕状を出してチベット・東トルキスタン・香港・法輪功学習者への人権弾圧を無視するのだ。それどころか今ではロシアから逃げ道を奪い核戦争の可能性を高めた。

さらに国際刑事裁判所(ICC)はウクライナ政府と3月23日にICC事務所設置に向けた協力協定を結んだ。これでウクライナとロシアは相手国の政権を否定する全面戦争になったので外交交渉は不可能となり何方かの国が消滅するまで戦争が続く可能性を示している。核戦争の可能性まで高め戦争を悲惨にするのだから、こうなると国際刑事裁判所(ICC)は世界の迷惑機関に成り下がった。

 

この記事で述べられている見解は、著者の意見であり、必ずしもエポックタイムズの見解を反映するものではありません。
 

戦争学研究家、1971年3月19日生まれ。愛媛県出身。九州東海大学大学院卒(情報工学専攻修士)。軍事評論家である元陸将補の松村劭(つとむ)氏に師事。これ以後、日本では珍しい戦争学の研究家となる。
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