自民保守、「核抑止戦略」策定へ提言 求められる「日本式核共有」

2023/05/13
更新: 2023/05/13

自民党の保守系グループ「日本の尊厳と国益を護る会」(青山繁晴代表)は12日に会合を開き、米軍の核戦力で日本の抑止力を高めることを念頭に、政府に対し「核抑止戦略」の策定を行うよう提言することを決めた。ウクライナ戦争で核の脅威が高まるなか、故・安倍晋三元首相などは「核共有」について議論するよう呼びかけてきた。

核抑止戦略の策定にあたっては、「非核三原則」のうち「持ち込ませず」の原則を見直すとした。「日本版核共有」を推進し、「核シェルター」等の国民保護策の検討も求める。「現実的な核抑止があって、初めて核兵器保有国の核軍縮が現実化する」と「護る会」の山田宏幹事長は記した。

高まる核の脅威

戦後、世界各国は核戦争を防ぐため、核軍縮を進めてきた。しかし、力による現状変更の試みを続ける中国とロシアの台頭により、周辺諸国は核の脅威にさらされている。

麻生太郎副総理兼財務相(当時)は2021年7月5日、「中国が台湾に侵攻すれば(日本にとって)存立危機事態」になると発言した。その6日後、中国の「民間軍事評論家」からなるグループ「六軍韜略」は動画を発表し、「我々が台湾を解放させる際に、日本が武力介入すれば、我々は最初から核爆弾を連続的に使用し、日本が無条件降伏するまで使う」と主張した。

中国の呉江浩駐日大使は4月28日の会見で、「台湾有事は日本有事」との見方では「日本の民衆が火の中に連れ込まれることになる」と述べた。軍事専門家の鍛冶俊樹氏はエポックタイムズへの寄稿で、大使の発言は中国共産党の強行姿勢を体現するものだと指摘した。

ロシア軍の核抑止部隊はウクライナ戦争後、高度警戒態勢に入った。BBCの報道では、ロシアのプーチン大統領は2022年12月7日、核戦争の脅威が高まっていると発言。「我々は狂ったわけではない。核兵器が何なのか分かっている」としつつ、ロシアは世界で最も高度な核兵器を持っていると主張した。

首相経験者が再考呼びかけ

核の脅威に対応すべく、故・安倍晋三首相をはじめとする政界の重鎮は核共有の議論を行うよう呼びかけてきた。

故・安倍晋三元首相は昨年3月3日、清和政策研究会(当時の安倍派)の会合で講演し、核兵器を保有する隣国に囲まれた日本は米国と核兵器を共有する政策について「議論を封じるべきではない」と述べた。「非核三原則を国の方針に定めた歴史の重みを噛み締めつつ、現実のなかで国民と国の独立を守り抜いていくのか、脅しにも屈せず日本の尊厳を守っていくのか。議論をしていくのは当然だと思う」と強調した。

講演する安倍晋三元首相。資料写真。2021年12月撮影(清雲/大紀元)

日本経済新聞によると、菅義偉前首相は同年3月2日のインターネット番組に出演した際、核共有政策について「日本は非核三原則は決めているが議論はしてもおかしくない」と述べた。高市早苗政調会長は同日の定例会見で、有事の際には原子力潜水艦が日本に寄港し給油するケースをあげ、核兵器の「持ち込ませず」に例外を認めるべきだと提案した。

G7広島で「核武装は議論しない」

岸田政権は「非核三原則」に基づき慎重な姿勢を示している。5月9日に発表された英タイムズ紙独占インタビュー記事の中で、岸田首相は「世界の非核化に取り組んでいる」ことを強調し、まもなく開かれるG7広島サミットでは「核武装は議論しない」と述べた。

1945年の原爆投下で複数人の親戚を失った岸田氏は、祖母の膝の上で聞かされた戦後の表現しがたい光景が「私の記憶に鮮明に刻まれている」「この幼い頃の経験が、核兵器のない世界を求める私の追求の大きな原動力だ」と語った。

日本を取り巻く厳しい安全保障環境下で岸田政権は防衛予算をこの5年間で60%拡大させ、国内総生産(GDP)比2%目標を達成しようとしている。しかし、核シェアリングへの慎重姿勢は変えていないようだ。

昨年2月28日の参院予算委員会で野党議員の質問に対し、首相は「自国防衛のために米国の抑止力を共有する、という枠組みを想定しているものならば、非核三原則を堅持する我が国の立場から考えて、認められない」との認識を示した。

唯一の被爆国として、日本政府は核共有に慎重な姿勢を示している。写真は原爆犠牲者を弔う流し灯篭 (Photo by PHILIP FONG/AFP via Getty Images)

なお、核兵器の「持たず、作らず、持ち込まさず」をうたった「非核三原則」は、米ソ冷戦下の1971年に国会で採択された。

「日本式核共有」とは

冷戦終結間際の1987年、米ソ両国はデタントの一環として、射程が500キロから5500キロの弾道ミサイル・巡航ミサイルの保有を禁止するINF(中距離核戦力)全廃条約に調印した。しかし、条約に加入していない中国は核弾頭搭載可能な中距離弾道ミサイルを保有し、日本全域をその射程に収めている。

INF全廃条約が失効した翌日の2019年8月3日、エスパー米国防長官(当時)は「中国に対抗してアジアに中距離ミサイルを配備する」と明言した。前出の鍛冶氏によれば、トランプ政権がINF全廃条約を延長せず、事実上破棄したのは台湾防衛のためだという。

鍛冶氏によれば、中国への抑止として中距離核ミサイルを配備するならば、沖縄などの米軍基地が最適な場所となる。そのような米国の意図を汲み取った安倍氏は、出演したテレビ番組で「核共有」の議論を「タブー視」してはいけないと主張した。

防衛研究所の高橋杉雄・政策研究部防衛政策研究室長は過去に、日本独自の核共有を検討すべきだと指摘している。北大西洋条約機構(NATO)の核共有は、冷戦期の試行錯誤を経た結論だとして、「理想型ではなく唯一のモデルでもない」と述べた。「核弾頭を物理的に置かなくとも、拡大抑止や安心供与の強化の仕方も考えられる。それを『日米同盟の核共有』と呼べばよい」と見解を示した。

鍛冶氏は非核三原則について、「見直さない限り、核シェアリングは不可能」との見方を示した。核拡散防止条約により、日本が独自の核兵器を持つことはできないが、「米国の核兵器を持ち込み、これを日米で共同管理することはできる」と指摘した。

政治・安全保障担当記者。金融機関勤務を経て、エポックタイムズに入社。社会問題や国際報道も取り扱う。閣僚経験者や国会議員、学者、軍人、インフルエンサー、民主活動家などに対する取材経験を持つ。
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