移民の子供と教育 フランス暴動と埼玉の類似点

2023/07/23
更新: 2023/07/23

フランス大暴動の原因は移民への「差別」?

6月末からフランスの全土で暴動が起き、7月中旬になっても散発的に騒乱は続く。6月に17歳のアルジェリア系の少年が職務質問から逃走し警察官に射殺されたことがきっかけだ。暴徒の中心は10−20歳代の男性、失業状態にある移民・難民の2世、3世だった。

この原因を移民や難民への「差別」とする報道や解説が内外で多い。しかし、その分析は表面的すぎないか。差別への抗議ならば、映像や報道で示された破壊や暴力をする必要はないし、デモで足りる。暴動自体が狙いだった可能性もあり、教育面の問題も指摘されている。差別はあるだろうが、移民たちの抱える問題はもっと大きいはずだ。

イスラム思想研究者の飯山陽氏の『イスラム2.0』(河出新書)によれば、西欧各地に若い北アフリカ、中東のイスラム系移民が集住し、警察・行政が活動できない「ノー・ゴー・ゾーン」と呼ばれる地域がある。フランスの暴徒たちは銃器や武器をこうした地域に隠していたらしい。居住する国の教育を受け入れず、同化しない若い世代が、治安悪化の原因になっている。

これは対岸の火事なのか。実は日本でも同じことが起きる懸念がある。

学校に行かない クルド人の子供たち

私は5月から、埼玉県南部に集住するトルコ国籍のクルド人と地域住民とのトラブルの問題を伝えてきた。彼らの多くは「トルコ政府の迫害」を理由に日本に来たと語り、約2000人以上いるとされている。15歳以下の子供たちも多く、特に川口市、市ではその子供達の行動が問題視されている。

川口市、蕨市の人々から、その子供達の問題を聞いた。子供たちには将来の可能性があるので、私は否定的な報道をしたくない。しかし、懸念すべき状況が起きており、誰も伝えないので紹介してみよう。

クルド人らしい子どもたちが学校に行かずに街中をうろついている光景に私は出くわした。ごみを散らかしていたり、大人の見守りがない状況が多々見受けられた。

10歳のクルド人らしい子供たちが一人でペットボトルや缶を蹴っていた。その子供に「学校どうしたの。ゴミを散らかしてはいけないよ」と話しかけた。私に目をやり、自転車に乗って無言で去っていった。夕方、マンションのベランダでクルド人らしい女の子が5−6人たむろしていた。転落しないか心配になった。

「クルド人の子供たちが怖い」。地元の人が証言した。ごみを散らかして騒ぐ10歳ぐらいの子供を注意すると、取り囲まれてにらまれ、唾を吐かれたという。商店からの万引きもあるという。公園で遊ぶ幼児たちも問題行動をする。日本人の子供からおもちゃをとる、遊具を独占する、うるさい、暴力をする。その場にいるクルド人の親に日本人の親が抗議すると、無視するか「日本語わからない」と避けるのだそうだ。

昼間市内を歩く子供。ゴミを放置したので注意をすると私に目をやり、去っていった。(石井孝明撮影)

言葉を使えない子供たち

在日クルド人社会に詳しい人の話を聞いた。

在日クルド人の男性は、日本語を習得しないまま日本に入国する。そして、親族の解体業で働き、子供を呼び寄せる。

親たちは日本語を習得せずに日本に入国し、子供を呼び寄せるケースが多いとのこと。親が教育に熱心でない結果、在日クルド人の子供の多くはクルド語、トルコ語、日本語のいずれの言語能力も中途半端になり、学校の勉強についていけない事例が見られる。これが、子供たちの不登校や非行に繋がっている可能性がある。

「子供たちがかわいそうです」とその人はいう。在日クルド人の男の子は小学校高学年から親族経営の解体業で働き始める。子供が建設業で働くのは危険だ。女の子は親族の子供の子守りをさせられ、早めに結婚させられる。家父長の力が強い文化の中で、家と一族に束縛され、苦しんでいるという。もともと在日クルド人社会は閉鎖的なコミュニティだ。言葉の問題もあって、子供たちはその中で固まっているという。

初等教育を受けない危険

初等教育を受けない子供たちは、社会で必要なスキルを習得できず、自己の生活を維持する上での問題を生じさせる可能性がある。これは在日クルド人の子供だけでなく、一般的にも言える事実だ。

日本でもどの国でも、学校をドロップアウトしてしまう子供はいる。しかし、移民の場合はその悪影響はより深刻だ。社会で生きるために必要な言葉の能力を高められず、自分の生きる社会についての常識やルールを学ぶ機会が少なくなる。

こうした学ばない子供たちが、フランスで、暴徒の何割かを構成しているようだ。そして小さい規模だが、在日クルド人社会で同じことが起きつつあるのかもしれない。

これは、その移民の子供達が不幸になるばかりではない。こうした人々と接することで、受け入れた社会の人々は、トラブルが発生し不幸になることもあるだろう。

異文化・異民族の子供たちには、日本社会の基本ルールや日本語を徹底的に教えることが求められる。また、違法行為や迷惑行為は許されないという教育も必要だ。その前提の上に、共生が成立する。子供も例外であるべきではない。違法行為、迷惑行為は、子供の時から許してはいけない。

日本は対策不十分 移民の教育問題もその一つ

川口市は日本で、最も外国人の多い市だ。中国人、インド人、在日韓国・朝鮮人などの他の民族集団には子供も多い。他の民族集団はトラブルがあるものの在日クルド人ほどの問題にはなっていない。親は日本企業や飲食業に勤めて合法的に居住し、子供は教育機関に通わせる。子供たちは多言語話者になっている。教育をしっかり行う機会があれば、子供たちの可能性は増える。多文化共生も行いやすくなる。

これまで、私は少子高齢化の進む日本が移民や難民を受け入れることは必要だと考えていた。また難民も道義的な問題から受け入れるべきと思っていた。しかし、在日クルド人問題を追って、考えを変えた。日本側に移民・難民の受け入れ体制がまったくできていない。その一つが移民の子供に関する教育だ。

埼玉県南部の公立学校では、教師たちは外国人の子供たちの教育に尽力していると聞く。しかし、移民側に日本への同化や協調の意思がなければ、教育現場は難しい運営を強いられるだろう。移民の受け入れの段階から教育の提供まで、国のグランドデザインが必要だが、現状、日本にはそれがない。

問題が顕在化する前に、移民の教育問題に真剣に向き合うべきだ。日本の教育を受けない労働者は、将来的に社会問題を引き起こしかねない。子供達も不幸だ。

対策が不十分であれば、日本でも遠くない将来、フランス同様の問題が発生する可能性があるだろう。

ジャーナリスト。経済・環境問題を中心に執筆活動を行う。時事通信社、経済誌副編集長、アゴラ研究所のGEPR(グローバル・エナジー・ポリシー・リサーチ)の運営などを経て、ジャーナリストとして活動。経済情報サイト「with ENERGY」を運営。著書に「京都議定書は実現できるのか」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞社)など。記者と雑誌経営の経験から、企業の広報・コンサルティング、講演活動も行う。
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