イギリスのキア・スターマー首相と欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は5月19日、食品貿易、漁業、防衛協力、国境管理の4分野において合意に達したと共同発表した。
スターマー氏は、この協定を「イギリスにとって極めて重要なウィン・ウィンの合意だ」と強調。フォン・デア・ライエン氏も「歴史的な瞬間」と述べ、特にヨーロッパ刑事警察機構(ユーロポール)を通じた司法・移民分野での連携強化に期待を示した。「犯罪は国境で止まらない。だからこそ私たちの対応も止まるべきではない」と語った。
電子ゲートの利用拡大
スターマー氏によると、この協定によりイギリス市民がEU加盟国を出入国する際に電子ゲートを利用できるようになる。空港での長時間の行列を回避できるようになり、市民にとって最も体感しやすい変化の一つだという。
若者向けの移動制度「青年移動スキーム」
18~30歳の若者を対象とした「青年移動スキーム(Youth Mobility Scheme)」も新たに創設され、イギリスとEUの若者が相互に相手国で滞在・就学・就労しやすくなる制度が導入される予定。ただし、受け入れ人数や具体的な条件は今後の協議で決定される。
スターマー氏はこの制度について、人数に上限が設けられる予定で、詳細は二国間の合意で詰めていくと述べた。フォン・デア・ライエン氏も「政治的意思が明確」に示されたとし、「若者にとって朗報だ」と語った。
漁業協定の延長
漁業分野では、EUの漁船がイギリスの排他的経済水域で操業できる既存の取り決めを2038年まで延長することで合意した。BBC記者が「イギリス漁業者を犠牲にしたのでは」と質問したのに対し、スターマー氏は「これは安定的かつイギリス漁業に有利な取り決めだ」と反論。現行協定が2026年で期限切れになると、以降は毎年交渉が必要になるため、「不安定さを避ける意味でも合理的な選択だ」と説明した。
フォン・デア・ライエン氏も「英仏海峡の両岸の漁業者にとって、12年間の安定した投資環境が整う」と評価した。
食品貿易の円滑化
農産品、特に肉類や乳製品の通関手続きを簡素化するための恒久的な食品基準協定にも合意した。これにより、国境での検査や文書手続きの負担が軽減され、食品・飲料の貿易がよりスムーズになることが期待されている。
関税と将来の協力関係
イギリスとEUの双方は、関税同盟や単一市場への復帰を否定しつつも、イギリスの主権を尊重したかたちで、貿易協力や制度的対話を深化させていく方針を確認した。
欧州理事会のアントニオ・コスタ議長は「新たなページを開くときが来た。我々の目標は単一市場への復帰ではなく、隣国、パートナー、同盟国、そして友人として協力していくことだ」と述べた。
今後は、不公正貿易の是正やサプライチェーンの安定確保、通商紛争への対応などの分野で協力を強化し、高官レベルの経済対話も定期的に再開する方針で合意している。
防衛・エネルギー分野での連携強化
ロイターによると、今回の協定の柱の一つは防衛と安全保障に関する新たな枠組みの構築であり、イギリスの防衛産業がEUの1500億ユーロ規模の軍備再編計画に参加できる道が開かれるという。
また、EU防衛開発基金への参画も視野に入っており、スターマー氏は「イギリスの鉄鋼業や防衛産業が恩恵を受ける」と述べた。加えて、ヨーロッパの電力市場への再参加や、炭素排出に関する税制の簡素化などの分野でも協力が期待されている。
フォン・デア・ライエン氏は「これは両者の関係における新たな章の始まりであり、エネルギー価格やエネルギー自立といった共通の課題に連携して取り組んでいくことになる」と述べた。
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