トランプ米大統領と南アフリカ共和国(以後 南アフリカ)のラマポーザ大統領は21日、ホワイトハウスで会談し、南アフリカにおける白人農家への扱いを巡って激しく対立した。
会談冒頭、トランプ氏はラマポーザ氏について「多くの場面で非常に尊敬されている人物だが、一部では物議を醸す存在でもある」と述べた。さらに、「彼が私に電話をかけてきた。どこで私の番号を知ったのかは分からないが、私は応じた」と語り、会談が突然決まった経緯を明かした。
会談中、トランプ氏が「アフリカーナー(白人南アフリカ人)へのジェノサイド」を示すとする映像を提示した後、空気は一層張り詰めた。ラマポーザ氏はこの主張を否定し、「南アフリカではそのようなジェノサイドは起きていない」と反論した。「我々は、米国と南アフリカの関係を再構築するためにここに来たのだ」と述べ、関係改善への意欲を示した。代表団には、実業家のヨハン・ルパート氏、プロゴルファーのアーニー・エルス氏、レティーフ・グーセン氏らが同行していた。
一方、トランプ大統領は「アフリカについては多くの苦情が寄せられている。問題が山積している。今日はその点を話し合う」と述べた。
トランプ政権は2025年2月、南アフリカへの対外援助を全面的に停止する大統領令を発令。白人農家に対する「暴力の助長」や、「アメリカと同盟国に対して敵対的な姿勢を取る行為」や、さらに「ハマスではなくイスラエルを国際司法裁判所でジェノサイドの加害者として非難した」事や、イランとの商業、軍事、核分野における関係強化など「アメリカと同盟国に対する攻撃的な姿勢」を理由に挙げている。
トランプ氏はまた、南ア政府による人種差別的政策から逃れる白人系南アフリカ人(アフリカーナー)の再定住支援プログラムを推進している。先週、このプログラムに基づき、最初のグループとなる約60人の白人が亡命者としてアメリカに到着した。
ラマポーザ氏は2018年より大統領職にあり、与党アフリカ民族会議(ANC)の党首を務めている。今年11月には、南アフリカのヨハネスブルグでG20サミットを主催予定であるが、アメリカ政府は参加を見送る方針を表明している。
ルビオ国務長官は2月5日、Xに「私はG20サミットには出席しない」と投稿。南ア政府が民間財産の収用を進め、サミットを「連帯・平等・持続可能性」といった理念の推進に利用していると批判した。さらに「これは多様性、公平性、包括性(DEI)と気候変動政策の押し付けである」と主張し、「私の職務は、アメリカの国益を守ることであり、反米国家を支援することではない」と述べた。
ルビオ氏はその後も、大統領・外相を含め、米政府としてG20に一切参加しない方針を改めて強調している。
外交専門家のマイケル・ウォルシュ氏は、このタイミングでの会談について疑問を呈し、「南ア政府が外交方針を根本的に転換する兆しは見られない。先月、(南ア)国際関係・協力省がイランとの連帯を公然と示している」と指摘した。
米・南ア関係の悪化とその背景
アメリカと南アフリカの関係はバイデン政権時代から悪化傾向にある。2022年以降、米政府は南アフリカがイラン、ロシア、中国と連携を深めていると非難している。
事情に詳しい関係者によれば、今回のラマポーザ氏の訪米は、アメリカによる制裁措置を回避するための「最後の試み」であるという。現在、アメリカでは、南ア経済を国際経済システムから切り離す、いわばイランへの制裁と類似した措置の導入も検討されている。
2023年2月には、南アがロシア・中国と合同軍事演習を東海岸で10日間実施し、これはロシアによるウクライナ侵攻1周年と重なって国際的批判を浴びた。
また、2022年12月にはロシアの貨物船がケープタウン近郊の海軍基地で武器を積載したとされ、2023年5月、ブリゲティ駐南アメリカ大使が南アがロシアに武器を供与していると主張した。
同年12月には、南ア政府が国際司法裁判所において、イスラエルによるパレスチナ・ガザ地区での軍事行動をジェノサイド(大量虐殺)とする訴えを提起し、アメリカとの関係をさらに悪化させた。
南アフリカは中国とも強い経済的つながりを維持しており、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)のメンバーでもある。
ウォルシュ氏は、「南アの一連の行動は、アメリカの国家安全保障や外交政策の利益と根本的に矛盾しており、米政界では超党派で懸念が共有されている」と指摘する。
5月20日には、テッド・クルーズ上院議員はXで、「ラマポーザ氏は中国との関係を深め、国際司法裁判所ではイスラエルを攻撃する極端な立場を取っている。これはイスラエルだけでなく、アメリカ政府関係者をも法的リスクにさらす行為である」と強く批判。
「トランプ大統領が南ア政府に政策の転換を求め、応じなければ責任を問うと確信している」と述べた。
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