中国経済の減速と政策の不確実性が、外資企業の信頼感を大きく揺るがした。5月28日に、中国EU商会が発表した「2025年商業信心調査」によると、73%のEU企業が、中国での事業運営の難易度が上昇したと回答し、これは調査開始以来の最高値となった。報告書は「経営環境の悪化が新常態となりつつある」と指摘し、規制強化や地政学的リスクの高まりを背景に、多くのEU企業が、中国市場の投資上の魅力に嫌気がさす現状が浮き彫りとなった。
歴史的高水準の経営難度、EU企業の悲観強まる
2014年から同調査は、中国での事業環境に関するEU企業の意識を継続的に調べてきたが、今年は過去最高の73%が「中国での経営が難しくなった」と回答した。これは4年連続で記録を更新しており、中国のビジネス環境が年々厳しさを増していることを示す。
一方で「状況が改善した」と感じている企業はわずか5%にとどまり、これも過去最低の水準となった。今後2年間の中国市場の成長や収益見通しについて、楽観的と答えた企業は、それぞれ29%、12%といずれも調査開始以来の最低値を記録し、さらに、60%の企業が今後の競争圧力に対して、悲観的な見方を示しており、中国市場の外資企業に対する魅力が、急速に低下している現状が明らかとなった。
規制・市場障壁が信頼感を損なう
調査によれば、63%の企業が市場参入制限や規制障壁のために、中国でのビジネスチャンスを逃した経験があると回答し、これも過去最高を更新した。2023年から5ポイント上昇しており、今後5年間で規制障壁がさらに増えると予想する企業が多数を占め、また、44%の企業が「外資と中国本土企業の間で、公平な競争が困難だ」と答え、制度的不平等が依然として、深刻な課題であることが浮き彫りとなった。
報告書は、中国市場が「一つの経済体に二つの制度が併存する」状況にあると指摘し、特に情報技術、医療機器、法律分野では、外資企業が現地化要件や規制の不透明さに長年苦しんでいるとされ、さらに、公共調達政策における「中国産品優先」志向が、外資企業の事業空間を一層狭めているとの声も多い。
価格競争と過剰生産が利益を圧迫
中国共産党当局が特定産業への補助金政策を通じて、産業拡大を推進する中、多くの企業で生産能力が市場需要を大きく上回り、特に電気自動車やハイテク製造業でその傾向が顕著になっている。これにより激しい価格競争が生じ、企業の利益が大幅に圧迫され、EU商会会長のイェンス・エスケルンド氏は「利益率が縮小する中、すべての企業にとって非常に厳しい状況だ」と述べた。エスケルンド氏はまた、中共政府が内需拡大を図っているものの、供給過剰を抑制できなければ企業の信頼回復は難しいとの見方を示した。
地政学的リスクと政策圧力
米中・中欧間の貿易摩擦の激化により、企業活動の「政治化」が進んでいる。2024年には52%のEU企業が中国での事業運営において政治的圧力が増したと答えた。さらに、47%の企業が「米中関係の緊張が中国でのビジネスに大きな影響を及ぼす」と予想し、37%は「中欧間の摩擦も今後の発展に影響する」と見た。
エスケルンド会長は、EU企業が貿易・投資の利益配分において不公平感を強く持つと指摘した。
市場開放と公平なルールが信頼回復の鍵
商会は、EU企業の中国市場に対する信頼を取り戻すためには、「真の市場開放」「法規の公平性」「政策の透明性」が不可欠だと強調した。これらが実現しなければ、外資撤退や技術流出の流れが、今後も続く可能性が高いと警鐘を鳴らした。
今回の調査結果は、中国経済の減速と政策の不透明さが、外資系企業の信頼と投資意欲を大きく損なった現状を如実に示した。EU企業の間では「中国市場の悪化が新常態」との認識が広がっており、今後の中国経済と外資企業の関係性に大きな課題を投げかけた。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。