5月27日、ブラジル労働検察庁は、中国の自動車メーカーBYDを相手取り、同社が中国人労働者を「奴隷のような環境」で働かせていたとして、公共民事訴訟を起こしたと発表した。
ロイターによると、BYDの現地工場の建設を請け負っていた金匠建設ブラジルと通和智能設備ブラジル2社が、計220人の中国人労働者を雇用。その労働・生活環境は劣悪で、パスポートの没収、賃金の差し押さえ、事前許可制の外出制限などを行っていた。
2024年12月、当局はバイーア州で進められていたBYDの工場建設を停止。検察官は「国際的な人身売買の被害者だ」と指摘した。
労働局は記者会見で「彼らの作業環境は、ブラジルの最低安全基準すら満たしていない」と非難し、「奴隷同然」と断じた。
これを受け、検察はBYDおよび2社に対し、約4500万ドルの損害賠償を請求。さらに、中国人労働者への個別補償や、違法行為1件あたり8800ドルの罰金(労働者の人数分)を科すよう求めている。
注目すべきは、BYDの広報担当は中国国内向けには「海外勢力による中国への中傷だ」と反発する一方、ブラジルでは「人権を尊重し現地法を遵守している」と主張し、調査に協力の意思を示している点だ。さらに、宿泊費の負担などの対応も見せつつ、問題の責任を下請けの金匠グループに帰属させようとする姿勢も見られる。
フランス国際放送(RFI)は、BYDの内外での対応の違いを現地メディアが早々に指摘したと報じた。両社はともに中国・深圳に登記、金匠はこれまでも国内外で多数のBYDの工場建設を請け負ってきた。
また、SNS上では「BYDの総裁の親族が金匠に勤務していた」との投稿が拡散し、一部では「金匠はBYDの実質的な子会社ではないか」との見方も出ている。こうした構造は、特に海外事業を展開する中国企業において、よく見られる手法だとの指摘もある。
ブラジルはかつて奴隷制度が存在していた歴史があり、強制労働や人身売買に対する意識が高い。政府は「奴隷労働通報窓口」を設けており、通報があれば即調査を行っている。今回の事件も、工事現場での怪我の多発をきっかけに労働組合が通報し、当局が中国人労働者をホテルへ保護したという経緯がある。
中国企業による海外での強引な労務管理には、かねてより批判があった。国内では「996」(朝9時~夜9時、週6日労働)など過酷な働き方が当然視されるが、他国では違法とみなされることも多い。
ある中国のSNS投稿では「給与遅配やパスポート没収なんて普通のこと。宿舎や水質なんてどうでもいい。ブラジル人は過敏すぎる」と揶揄する声もあったが、この記事はすぐに削除された。中国国内では当然とされる労務慣行が、他国では倫理的に問題視されることも少なくない。
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