アメリカのドナルド・トランプ大統領は5月30日、ペンシルベニア州西ミフリンにある鉄鋼の町で大規模な集会を開き、全ての輸入鉄鋼に対する関税を現行の25%から50%へと引き上げる方針を発表した。この新たな政策は6月4日から正式に施行される予定であり、アメリカの鉄鋼産業を「さらに強固に守る」とトランプ氏は強調した。「誰もこの関税を回避することはできない」とも語り、断固たる姿勢を示した。
鉄鋼労働者への感謝と新政策の発表
この発表は、アメリカ鉄鋼会社(U.S. Steel)が所有するモンバレー地区のIrvin Works工場で行われ、数千人の鉄鋼労働者が集まった。トランプ大統領は「あなたたちこそがこの国を築き上げた」と、現場の労働者たちに感謝の意を表した。
トランプ政権は2025年初頭の再登板以降、国家安全保障を理由に「232条項」に基づき、ほとんどの輸入鉄鋼およびアルミ製品に25%の関税を課してきた。今回の発表により、6月4日からはその税率が倍増し50%となる。
関税の対象と米国経済への影響
新たな関税は原材料だけでなく、鋼製家具やアルミ製ドア・窓枠、フィットネス器具、家電部品、鋼製調理器具、アルミ電線・ケーブルなど、多岐にわたる下流製品にも適用される。米国商務省のデータによれば、アメリカは世界最大の鉄鋼輸入国(EUを除く)であり、2024年には約2620万トンの鋼材を輸入した。2024年に関税の対象となった輸入品は289品目、総額1473億ドルにのぼり、そのうち約3分の2がアルミ製品、3分の1が鉄鋼製品だった。
この新関税の発表を受けて、米国鉄鋼業界の大手クリーブランドクリフス社(Cleveland-Cliffs Inc)の株価は時間外取引で26%急騰。投資家は新たな関税が企業の利益拡大につながると見ている。
新日鉄との協業と巨額投資――雇用創出への期待
今回の関税引き上げは、アメリカ鉄鋼会社と新日鉄(Nippon Steel)による最新の協業合意とも呼応する。トランプ大統領は演説で、この合意によりアメリカ鉄鋼会社の本社が引き続きピッツバーグに置かれること、少なくとも7万人の雇用が創出され、米国経済に約140億ドルの投資がもたらされることを強調した。
新日鉄の森高弘副会長も現地で登壇し、「我々は投資を通じて、アメリカ鉄鋼会社を世界の舞台で進化させる。共にアメリカ、そして世界最高の鉄鋼会社を目指そう」と語った。
トランプ大統領が訪れたIrvin Works工場は、かつてアメリカ製造業の象徴であり、現在も選挙戦で重要な「ラストベルト(さびついた工業地帯)」の戦略拠点とされている。専門家は、今回の政策と投資の両輪が、ブルーカラー労働者層の支持固めに寄与すると分析している。

現場の声――米国製造業復興への期待
集会には数千人の鉄鋼労働者が参加し、オレンジ色の作業着とヘルメットを身に着けた姿が目立った。多くは勤務後に駆けつけ、制服には油や埃が付着していた。彼らは「Make U.S. Steel Great Again(USスチールを再び偉大に)」などのスローガンを掲げ、会場は熱気に包まれた。
トランプ大統領は「あなたたちがこの国を築いた最も素晴らしい人々だ」と労働者たちを称賛した。鉄鋼会社の従業員マット・オブンス氏は「まさに今、私たちに必要な投資だ」と語り、クレイトン工場のシフトマネージャー、ニコル・ライト氏も「USスチールで働く価値を知っている。今回の協業は私たちの現場にとって必要な投資だ」と強調した。
政治家からの支持と有権者の関心
集会には複数の連邦議員も参加し、共和党のマイク・ケリー下院議員は「皆さんの参加がこの国に大きな勇気を与えている」と述べた。ダン・メウザー下院議員も「今日は全員がUSスチールのファンだ。実際、私たちは『米国製鉄鋼』の熱烈な支持者だ」と語った。
トランプ大統領はまだ鉄鋼政策の全容を明らかにしていないものの、支持者たちは米国製造業復興への公約実現に期待を寄せている。ノースカロライナ州からペンシルベニア州に移住したジョシュ・マクレー氏は「関税や貿易政策についてもっと知りたくて来た」と話し、「鉄鋼計画の詳細を聞きたい」と述べた。ミネソタ州中部から来たブライアン・ペルザー氏も「合併にワクワクしている。トランプ大統領には公約を引き続き実行してほしい」と期待を語った。
集会の終盤には「YMCA」の音楽が流れ、トランプ大統領は恒例のダンスで会場を盛り上げた。労働者や家族は「USスチールを再び偉大に」と書かれた標語を掲げて退場し、会場は高揚した雰囲気に包まれた。
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