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激変する中国 「生きたければ払え」──命の瀬戸際で値切れますか?

重症児の緊急搬送に56万円の請求 領収書も出さぬ中国の救急車の実態とは

2025/06/20
更新: 2025/06/20

日本では無料で呼べる救急車だが、しかし隣国・中国では、呼ぶ前にまず財布の中身を確認しなければならない。命を救うはずの救急搬送が、いまや「高額請求ビジネス」と化し、世論を揺るがしている。

道徳の低下と商業主義の蔓延により、医療とビジネスの境界が曖昧になりつつある中国社会。これまでも大紀元は、過剰医療や賄賂医療の問題を報じてきたが、今回注目を集めたのは、重症児の緊急搬送に対して、信じがたい額の料金が請求された事件である。

発端となったのは、江西省に住む唐(とう)さんの告発だった。重い心臓病を患う息子の病状が悪化し、地元の公立病院では対応できないとされ、約800キロ離れた上海の民間病院への転院が必要になった。しかし主治医が手配した救急車のドライバーから提示されたのは2.8万元(約56万円)という耳を疑う金額だった。

唐さんは「高すぎる」と感じつつも、息子の命を優先し、やむなく了承。まず半額を中国のSNS「微信(ウィーチャット)」経由でドライバーに送金し、搬送完了後に残金も支払った。しかし、領収書は一切発行されず、不信感を抱いた唐さんは、地元の衛生当局に苦情を申し立て、ネット上でも告発したことで事件が表面化した。

報道を受けた現地当局によると、同様の搬送であれば、通常は1.1万元(約22万円)前後が相場であり、今回の請求額はその倍以上。つまり、根拠のない「言い値」がまかり通っていたことになる。

SNSでは「これは医療ではなく恐喝だ」「火事場泥棒と同じ」「命の足跡(人の生涯)に値札をつけるのか」といった怒りの声が広がり、当局は問題の業者に返金を命じた。

 

問題の救急車内の様子。(動画よりスクリーンショット)

 

しかし、今回の件は氷山の一角にすぎない。中国では救急搬送に関する全国的な料金基準が存在せず、「ECMO(体外式膜型人工肺)」などの高度設備付き搬送と通常搬送の区別も明確にされていない。また、「非緊急搬送車」の定義もあいまいで、無資格業者が救急車を装って営業し、中途で料金を釣り上げる事例も報告されている。

さらに、公立病院の救急車には、設備面や地域制限の問題があり、越境搬送ができないケースも多い。そのため、重症患者の搬送は、民間業者に依存せざるを得ない構造があるにもかかわらず、紹介経路の透明性や価格の監視体制は存在しない。患者家族には「選択肢」があるように見えて、実際には「提示された額を飲むしかない」という、極めて不公平な構図が横たわっている。

日本では無料で当たり前に使える救急車が、中国では「金を出さなければ動かない命の輸送車」となっているのが現実だった。

今回の事件は、単なる料金トラブルではない。「医療の公共性」が欠落し、「監督不在」が常態化する中で、最も弱い立場にある市民が代償を強いられるという、深刻な制度上の欠陥を浮き彫りにした。

この事件が私たちに問いかけたのは、「搬送料金の妥当性」ではない。命の扱いそのものだ。

 

イメージ画像。中国安徽省の病院。写真は2014年に撮影されたもの( TR/AFP/GettyImages)

 

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!