パナマ運河管理局(ACP)は、運河両端に新設予定の港湾について、開発・運営権の入札を進めている。2025年末までにプロセスを完了させる計画で、特定企業への一極集中を避けつつ、多様なオペレーターの参入を促す方針だ。今回の入札では、中国最大の国営海運企業「中遠海運(Cosco)」の参加を認めず、当局は中国勢の影響拡大を明確に拒んだ。
中遠海運を排除し競争環境確保へ
ACPのリカウルテ・バスケス・モラレス局長は、中遠海運とイタリアの地中海航運(MSC)が既存港湾の利権を巡る競争で優位を握っていると指摘し、過度な寡占化を防ぐ必要性を強調した。今回の売却対象は運河両端の未開発地で、落札企業は港湾施設の建設と20年間の運営を担う仕組みである。
大西洋側の候補地はパナマのイーラ・テルファス(Isla Telfers)周辺で、この地域では天然ガスターミナルの建設も進められている。局長は「コンテナ輸送能力の拡充と公正な競争環境の構築が不可欠だ」と述べ、国内外からの幅広い事業者の参入を歓迎する姿勢を示した。
米欧企業と中国の攻防
新港湾の売却は、国際的な港湾利権取引が活発化する中で進められている。アメリカ資産運用大手ブラックロック(BlackRock)とMSCは2025年3月、香港の長江和記実業(CK Hutchison)が保有する港湾権益を取得することで合意した。これにより、バルボア港とクリストバル港という運河出入口の主要港の運営権が移る見通しで、長江和記が展開する世界各地の港湾支配構造にも影響を与える可能性がある。
MSCはすでに運河北側の太平洋港を握っている。背景には米中間の地政学的緊張があり、中国共産党(中共)政府はパナマに対し、中遠海運のパートナー参加や株主参入を認めるよう強く働きかけてきた。しかし、パナマ当局は国家主権と市場の多様性確保を優先し、特定勢力の一方的な関与を拒む姿勢を鮮明にした。
ヨーロッパ勢も入札に関心
新港湾プロジェクトにはヨーロッパの大手海運企業も関心を寄せている。デンマークのマースク・グループ(A.P. Moller-Maersk)傘下のAPMターミナルズやフランスのCMA CGMが入札に加わる見込みだ。マースクは2025年4月、パナマ運河鉄道会社を買収し、運河沿線約75キロの鉄道網を取得。これにより、太平洋と大西洋を結ぶ物流輸送力の強化を図っている。
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