中国・北京で、またも不可解な光景が広がった。歩道橋の中央が柵で区切られ、「監視員専用スペース」が新設されたのである。そこに立つ監視員は、行き交う人々をじっと見張るという役目を負わされていた。もともと広くはない橋の中央に隔離スペースを設けたため、両側の歩道はさらに狭くなり、行き交う人々に大きな不便をもたらしている。
(新設された歩道橋の「監視員専用スペース」、北京)
しかも軍事パレード当日の9月3日には、この「特等席」に武装警察が登場し、なぜか消火器まで持ち込まれた。過去に橋の上で横断幕と同時に火が使われ、通行人や車両の注目を集めた抗議があったためとみられる。その記憶がよほどトラウマになっているのだろう。橋の真ん中にまで監視員を置くという過剰ぶりは、市民の目に「王朝末期の特有現象」と映った。

この光景は瞬く間に海外SNSで拡散した。「橋に番人を置くなら、次はトイレにも人を立てるのか」「ミサイルより怖いのは市民の横断幕一本」と皮肉が飛び交い、「安定維持費が国防費を超える理由がこれでよくわかった」との声も広がった。恐れる対象が外国の軍隊ではなく、自国民の一枚の布切れであることを、世界中が笑いとともに見抜いたのである。
そもそも橋に監視員を配置するきっかけは、2022年の「四通橋事件」だった。北京市内の陸橋・四通橋で彭立発(ほう・りつはつ)氏が「独裁者を罷免せよ」「自由を取り戻せ」と書かれた横断幕を掲げ、火を焚いて注目を集めた前代未聞の抗議行動は、中国国内外に衝撃を与えた。それ以来、政権は橋を「危険な場所」とみなし、見張りを立たせることが常態化した。

だが、いくら取り締まりを強めても抗議は止まらない。8月末には重慶で巨大な反共スローガンがビルに投影され、さらに各地の公衆トイレの壁やドアには反政府メッセージが書き込まれる「トイレ革命」が広がりを見せている。

そして当局が必死に消して回るその落書きこそ、政権がいかに末期的な恐怖に囚われているかを雄弁に物語っている。橋に掲げられた布切れ一枚やトイレの落書きに震え上がる時点で、この体制が崩れ落ちる日は遠くない。

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