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空母ジョージ・ワシントンの「失われた6年」 米海軍を揺るがす造船の危機

2025/09/22
更新: 2025/09/22

アメリカ海軍は2023年5月25日、米ニミッツ級原子力航空母艦・ジョージ・ワシントン(CVN-73)が再配備されることを発表した。実に6年ぶりの展開であり、当初4年で想定された炉心交換・包括修理などのオーバーホール(RCOH)を2年延長した影響で再配備が遅れた。

配備に向けた海上での航行テストと10か月にわたる検査・認証を経た後、南アメリカ周辺で試験配備、その後米空母ロナルド・レーガンと交代する形で日本の横須賀へ前方展開した。

28億ドル(約4千億円)にのぼる包括修理を経て、空母ジョージ・ワシントンは前線に復帰した。修理そのものは無事終了したが、計画延長に伴う兵士の犠牲もあった。また、修理の延長は、造船をめぐって海軍が抱える問題を示唆している。

問題の一つは、ジェラルド・R・フォード級原子力空母の建造計画だ。費用超過、信頼性の問題に加え、フォード級空母建造の遅れが空母ジョージ・ワシントンの整備期間延長に大きな影響を与えた。フォード級空母建造の遅れは、限られたリソースを取り合うニミッツ級空母の整備・改修にも悪影響を及ぼしている。

2017年8月4日、空母ジョージ・ワシントンはニューポート・ニューズ造船所にドック入りし、就役半ばにあたるRCOHを開始した。核燃料交換、推進システムおよび戦闘システムの更新、艦内インフラのアップグレードなど、2600万人時(人間1時間あたりの作業量)におよぶRCOHが行われ、帆柱(メインマスト)から数千のバルブ、ポンプ、数マイルにおよぶ配管にいたる全てを交換した。しかし、工期は予定された4年から6年へと延長された。

2年遅れた原因の1つに、米海軍が優先的に進めていたフォード級空母の建造計画による制約があった。空母ジェラルド・R・フォード(CVN-78)の建造に始まったフォード級空母の建造は空母開発の大きな飛躍と持てはやされ、最新の電磁カタパルトシステムやアレスティング・ギア(着艦用の制動装置)、より高い出撃率、建造から引退までの総合費用の低さが特徴であった。

しかし、開発・建造段階で問題が浮き彫りとなり、当初の計画よりも大量のリソースが必要となった。それゆえ、空母ジョージ・ワシントンの整備・改修に割くべきリソースが不足した。

状況はさらに深刻だった。2014年当時、アメリカ海軍は新型のフォード級空母の性能に期待を寄せたために、ジョージ・ワシントンを退役させるつもりだった。海軍は、ジョージ・ワシントンを退役させることで、フォード級空母の建造資金を確保しようとした。これらの議論が資材の事前確保とスケジュール設定を含む空母のRCOH計画を遅らせ、ジョージ・ワシントンの整備・改修を決定した時にはすでに工期の遅れが出始めていた。

アメリカ海軍が12隻所有していた空母のうちの1隻を時期尚早にも退役させる決定を下してから10年以上が経過した今でも、空母ジェラルド・R・フォードは期待されていた性能を発揮できていない。実際、2017年に就役して以来、電磁式カタパルトやアレスティング・ギアなどの空母性能の根幹に関わる部分については、信頼性の問題が依然として解決していない。

設計面での致命的な欠陥も指摘している。2022年のアメリカ議会調査局の報告書によると、ニミッツ級空母は4本のカタパルト射出装置のうち1本が故障した場合に残りの3本は使用可能なのに対し、フォード級空母はカタパルト装置が1本でも故障すれば修理のために残りの3本も使用不可となる。

信頼性と持続性の問題に加え、完成が数年遅れているフォード級空母の建造費用も高騰している。実際、空母ジェラルド・R・フォードの建造総額は想定の105億ドル(約1兆5千億円)から150億ドル(約2兆2千億円)に膨れ上がった。参考までに、最新のニミッツ級空母の費用総額は62億ドルであった。さらに、最近の運用試験ではフォード級空母がニミッツ級空母に匹敵するどころか、ニミッツ級空母より30%高い出撃率を誇るという性能に深刻な疑念が投げかけられている。

空母ジェラルド・R・フォードは2017年に就役し、2022年に配備を完了した。フォード級空母の計画がスタートして実に14年後である。現在建造中のフォード級空母ジョン・F・ケネディ(2代目)は、就役年を当初の2025年から2027年に、空母エンタープライズは2029年に後ろ倒しとなった

新型空母建造と旧型空母の整備・改修を一手に引き受けたニューポート・ニューズ造船所はそのリソースを圧迫され、資材不足と技術的ハードルに直面している。フォード級空母の建造に必要とされる熟練労働者、専門エンジニア、造船ドックは、ニミッツ級空母のオーバーホールでも当然必要となる。

それに加え、他のニミッツ級空母の維持のためにRCOH中の空母ジョージ・ワシントンの部品を取り外すこともあった。全てはフォード級空母の生産に伴って資材供給が逼迫し、アメリカ海軍の需要を満たせなかったことに起因する。

こうして、空母ジョージ・ワシントンのRCOHはさらに遅れた。無論、新型空母の建造に莫大なリソースがかかることは周知の事実だが、元アメリカ海軍作戦部長のマイケル・M・ギルデイ氏は2011年、フォード級空母に未検証の新技術を23も組み込んだことでリスクが増加し、建造ペースが下がり、費用が高騰したと指摘した。

労働力不足と老朽化するインフラに苦しんでいた造船産業がフォード級空母の建造でさらに余裕を失い、空母ジョージ・ワシントンのRCOHにおける非効率性やコスト増加を招いた形だ。

そこに、技術的な問題が追い打ちをかけた。調査によると、空母ジョージ・ワシントンのコンディションは予想より悪化し、老朽化したタービン発電機はさらなる修理を必要とした。新型コロナウイルスの流行で労働力の減少とサプライチェーンの混乱が発生し、これらの問題に拍車をかけた。

空母ジョージ・ワシントンの整備延長は単に予算や軍事力だけの問題ではない。RCOHの延長によってジョージ・ワシントン乗組員の生活・仕事条件は悪化し、食糧やレクリエーション、精神的サポートが制限された。2023年までに乗組員の85%が海を全く見ることなく、精神的健康が蝕まれる環境下で働き続けた。乗組員のうち11人が自殺、そのうち9人は銃によるものだった。

フォード級空母の建造によるリソースの圧迫がRCOHの遅れを引き起こした。良い知らせは、空母ジョージ・ワシントンの整備・改修が終了し、居住環境やメンタルヘルス支援が充実したことだ。悪い知らせは、問題が明白だったにも関わらず改善が先延ばしになったことだ。

こうした課題がありながらも、空母ジョージ・ワシントンは2023年5月に修理を完了し、海上航行テストを無事成功させた後に、海軍が心待ちにしていた強力な戦力として艦隊に復帰した。現在は日本の横須賀港を拠点として、中国や北朝鮮の脅威に対抗すべくインド太平洋でアメリカ海軍のプレゼンスを支えている。

しかし、空母ジョージ・ワシントンを襲った6年の苦しい歳月は、アメリカ海軍の造船リソースが不十分であること、そして信頼に欠ける技術が詰め込まれた艦船を設計・建造することは他の艦船や整備・改修計画に悪影響を与えうることを浮き彫りにした。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
国防改革を中心に軍事技術や国防に関する記事を執筆。機械工学の学士号と生産オペレーション管理の修士号を取得。