「なんでこんなに軽い判決なんだ? もし殴られたのはあなたの旦那でも同じ判決を出すのか?」
「こんな判決をする人に良心なんてあるわけがない」
中国・山東省臨沂市(りんぎ- し)の農村で、判決に不服な55歳の女性が裁判官にこう怒りをぶつけた直後、裁判所の複数の警官に連行され、その日のうちに罰金10万元(約200万円)と15日の拘留を言い渡された。
夫を金槌で殴られたにもかかわらず、加害者は懲役3か月と賠償わずか2.5万元(約52万円)。判決の軽さに憤った一言が「侮辱」とされ、裁判官の逆鱗に触れたのである。
ところが裁判官が処分の根拠にした法律は、本来「裁判の最中に騒いだり秩序を乱した場合」にしか適用できない条文だった。だが女性が声を上げたのは、すでに判決が終わった後の執行部屋(判決後に強制執行や支払い命令を扱う部署・窓口)の中。弁護士は「最初から適用できない条文を無理やり持ち出し、処罰の口実にしたのは明らかだ」と批判する。
ネット上では「加害者の暴力より、被害者の言葉の方が重く裁かれるとは信じられない」「司法ではなく私刑だ」と批判が殺到した。世論の圧力を受け裁判所は罰金を撤回し謝罪したが、拘留の補償も裁判官の責任追及もない。
同じ頃、雲南省では教育局幹部の人事をめぐり、父親がSNSで「副県長も責任を取るべきだ」と書き込んだだけで4日間拘留される事件も起きた。9月20日、世論の反発で処分は撤回され謝罪に追い込まれたが、市民の素朴な言葉が権力の都合で罪に仕立てられる構図は共通している。
金槌で殴られた傷よりも、裁判官の耳に届いた一言の方が重く裁かれる。SNSの発言一つで拘留される。この国に「法治」の看板を掲げる資格はあるのだろうか。


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