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高市首相対中路線は「強硬発言と実務的抑制」 対話とリスク管理の併存体制へ=評論家

2025/10/23
更新: 2025/10/23

自民党総裁の高市早苗氏が21日、日本第104代首相に正式に選出され、日本史上初の女性首相となった。高市氏はアベノミクスを引き継ぐのか。対中強硬派として知られる高市氏の対中政策は、さらに厳しさを増すのか注目されている。

専門家は、「高市経済学」が適切な方向性を見極めて実行されれば、成功の可能性があると分析。また、タカ派とされる高市首相は対中姿勢で厳しい発言を続ける可能性があるものの、動きは控えめになるとの見方も出ている。

共同通信が22日に発表した世論調査によると、高市内閣の支持率は64.4%となり、前任の石破茂氏や岸田文雄氏の初動支持率を上回った。

新首相の高市氏は就任直後から外交の初試練に直面する。トランプ米大統領は27日から訪日する予定で、28日に高市首相と会談する方向で調整している。これはトランプ氏の再選後、初の日本訪問となる。今回の会談では、前任の石破茂首相が合意した、日本による総額5500億ドル規模の対米投資を軸に、自動車関税の引き下げを米国側が受け入れるという枠組みが引き継がれる見通しだ。

報道によると、高市内閣は、米国産大豆やLNG、フォードのF-150ピックアップトラックなどを含む「米国製品の大型調達パッケージ」を来週のトランプ氏との会談に合わせ提示する方向で調整を進めている。

木原稔官房長官は記者会見でこの方針を明らかにし、日米首脳会談は28日に開催する方向で調整が行われていると述べた。会談では、日米同盟の強化と「自由で開かれたインド太平洋」の推進が主要議題となる見通しだ。

高市首相は21日の就任記者会見でも、「 日米関係は同盟国として、日本の外交安全保障政策の基軸である」と強調した。

ロイター通信は22日、高市氏が就任早々、物価上昇に直面する家計を支援するため、大規模な景気刺激策を打ち出す方針だと報じた。政府関係者によると、新たな経済対策の規模は昨年の920億ドルを上回る可能性があり、総額は13.9兆円に達する見通しだ。

21日、日経平均株価は上昇基調を強め、取引時間中には史上最高値となる4万9945.95円を記録した。

これについて、台新新光フィナンシャルグループのチーフエコノミスト、李鎮宇氏は、国策研究院主催の「2025年日本首相指名選挙と日台関係への影響」をテーマにした座談会で、高市氏の首相就任により日本株は5万円台に迫り、多くの産業が一斉に成長軌道に乗りつつあるだろうと指摘した。

経済政策において高市氏は、金融緩和・財政出動・構造改革という「アベノミクスの三本の矢」を継承するとともに、自身の名を冠した高市経済学を打ち出している。李氏は、高市氏は安倍元首相という「巨人の肩の上に立っており」、その「新三本の矢」はアベノミクスの単なる延長ではないと分析する。

李氏の考えでは、高市氏の第一の矢は「安全保障産業資本主義」の構築であり、防衛予算の拡大や官民連携による軍事技術の研究開発を推進し、「防衛こそが成長エンジンである」と位置づけるものだ。

第二の矢は「デジタル防衛経済圏」の構築である。経済安全保障担当相や総務相を歴任した高市氏は、テクノロジーこそ安全保障の核心であると認識しており、日本は国家安全保障、産業、科学技術の三位一体体制を整備し、5G、AI、半導体のサプライチェーン自立化を強化し、「守りも攻めも可能な経済体制」を目指すとする。

第三の矢は、日本維新の会が長年推進してきた「関西大開発」すなわち「大阪副首都構想」である。関西湾岸地域でのインフラ整備や都市再開発を通じて、リニア中央新幹線の大阪延伸などを実現し、地方経済の再生だけでなく、日本国内の経済再均衡の「モデル地域」とする構想だ。

高市氏は選挙公約で、ガソリン税・暫定税率の見直し、給付付き税額控除の創設、海外からの投資の審査強化、さらには「反スパイ法」の制定などを掲げている。

政治経済評論家の呉嘉隆氏は、大紀元とのインタビューで「高市氏はガソリン税の上乗せ措置を撤廃し、中間層の可処分所得を増やそうとしている。これは減税によって経済を刺激するという米共和党の理念と共通しており、トランプ大統領の『大きくて美しい法案』もチップや残業代を非課税とするものである」と述べた。

呉氏はさらに、日本はすでにデフレ局面を脱し、緩やかなインフレに入っていると指摘した上で、「いま必要なのは金利政策の正常化であり、防衛体制の正常化、さらには国家体制そのものの正常化であり、憲法改正も含まれる」と語った。

呉氏は「日本が直面している喫緊の課題はインフレ対策と雇用創出だ。雇用創出にはAI産業への投資を通じて新たな成長エンジンをつくり、日本経済を活性化させると同時に内需を高め、適度なインフレを維持し、金利正常化へとつなげることが重要だ」と述べた。

そして、「高市氏が日本の現状に適切に対応し、正しい方向性をつかむことができれば、成功する可能性は十分にある」と強調した。

高市氏の当選は、日本政界における「ガラスの天井」を打ち破り、憲政史上初の女性首相が誕生したという歴史的意義を持つだけでなく、日本の政策路線が強硬な保守派へと舵を切る象徴的な出来事と捉えられている。

共同通信が最近実施した世論調査によると、回答者の53.6%が「高市早苗氏の首相就任により、日中関係は悪化する」との見方を示した。

中国共産党外交部の郭嘉昆報道官は21日午後の定例会見で、「高市早苗氏の当選は日本の内政である」としつつ、「日本側には『日中間の四つの政治文書』の原則を順守し、歴史問題や台湾問題などに関する政治的約束を守るよう望む」と述べた。

中共の官製メディアは、高市氏を「女性版安倍」とする見出しで、右翼的な保守政治家として否定的に論じている。高市氏が閣僚在任中にたびたび靖国神社を参拝し、憲法改正や自衛隊を「国防軍」へ改組することを主張してきた点を強調し、外交・安全保障政策における対中強硬姿勢を警戒する論調が目立つ。

新華社の高級記者が立ち上げたとされる公式アカウントは最近の投稿で、高市氏は短命政権に終わる可能性があり「1年続けば上出来、2年続けば奇跡だ」との辛辣な論評を掲載した。

地政学・経済専門家である何偉龍氏はフォーブスへの寄稿で、高市氏は中共の軍拡や経済的威圧に繰り返し警鐘を鳴らし、重要技術の対中流出を防ぐ規制強化を訴えてきたと指摘。台湾支持の明確な立場は中共の警戒を招いていると分析する。

さらに何氏は、公明党の離脱により、より右派色の強い日本維新の会が連立政権に加わることで、高市氏の下で自民党は一層右傾化し、日本の政治勢力図が根本から変わる可能性があると述べた。

一方で、慶應義塾大学政策・メディア研究科の神保謙教授は、シンガポール紙「聯合早報」に対し、高市政権下で日中関係が試練に直面するのは確かだが、両国の経済的相互依存と地域の安定維持という現実を踏まえれば、就任初期においては過度な対立を避ける可能性が高いとの見方を示した。

「予想される展開としては、発言の上では強硬な姿勢を示しつつも、実際の行動は控えめになるという構図だ。台湾や安全保障に関しては強硬な発言が増えるかもしれないが、貿易や地域経済枠組みにおいては引き続き関与を維持するだろう」と述べた。

また、台湾国立中山大学の劉奇峯教授は国策研究院の座談会で、「高市氏は『中国共産党による技術浸透こそ日本の経済安全保障の核心的課題である』と認識している」と指摘。そのため、米国の「フレンドショアリング(友好国への生産委託)」政策と歩調を合わせ、日本はサプライチェーンの再構築を進めると分析した。さらに、高市氏は対中政策において「対話」と「管理」を併用する二重戦略をとると見込まれている。

斐珍