【ニュースレターが届かない場合】無料会員の方でニュースレターが届いていないというケースが一部で発生しております。
届いていない方は、ニュースレター配信の再登録を致しますので、お手数ですがこちらのリンクからご連絡ください。
中国 利益優先の医療が生んだ不信 中国で相次ぐ医師襲撃の背景

中国の病院でまた医師刺傷事件…なぜ患者が医者を襲うのか?

2025/12/17
更新: 2025/12/17

かつて中国では、医の道は「徳」を根本とするものであった。明代の詩人・楊慎が詠んだとされる詩の一節が伝わっている。

「但願世上人無病、寧可架上藥生塵(世の人が病にかからないことを願う。棚の薬にはほこりが積もってもかまわない)」

医とは本来、人の命を救い、苦しむを抑えるための営みである。しかし、共産党統制下の中国では、個人の生命や尊厳よりも党や体制の利益を最上位に置く価値観に基づいているため、医療体制そのものが「命より利益」へと傾き、多くの病院が本来の使命であるはずの人命救助より収益を優先するようになってしまった。

必要以上の検査や投薬を課す「過剰医療」も横行し、患者の医療への不信は積み重なっている。こうした状況を背景に、12月8日午前10時ごろ、江西省南昌市の病院で「また」医師が襲われた。

現地警察の発表によると、中国・江西省の南昌大学第一附属病院で男(59)が診察中に持ち込んだ果物ナイフで医師らを襲撃し、医師と実習生の2人が負傷。いずれも命に別状はないとされる。

ただし、この発表は、事件がSNS上の投稿によって拡散し、世論の関心を集めた後にようやく出されたものであり、その内容も概略的な説明にとどまっていた。この対応に対し、現地では「世論に押される形で後追い的に公表したにすぎないのではないか」との批判の声も上がっている。

警察の発表では「命に別状はない」とされたが、本紙の取材で明らかになった現実は、はるかに深刻だった。主任医師は大動脈を切られる重傷を負い、実習中の大学院生も右手の腱が断裂するなど、2人とも日常生活や今後の医療活動に大きな影響が出かねない重症だった。

事件を目撃した陳さん(仮名)は、「現場は診察室の中で、床一面に血が広がっていた。主任医師は大量に出血しており、実習生の指の傷も深かった」と語る。男は刃物を体に隠したまま診察室に入り、病院の警備体制にも問題があったとみられる。

事情に詳しい王さん(仮名)も、「主任は大動脈を切られた。実習生は右手の腱が断裂し、今後手術ができなくなる可能性もある」と証言している。

別の目撃者である林さん(仮名)は、「医師は十数か所を切られていた」と話し、看護師から聞いた話として、「2か月前に男の家族がこの病院で治療を受け、帰宅後に亡くなった。そのことが男の不満の背景にあったのではないか」と語った。ただし、この点はあくまで現場での伝聞であり、警察が動機として確認したものではない。

林さんは当時の状況について、「叫び声が響き、子どもを抱いて物陰に身を潜めました。刃物がこちらに向けられるのではないかと、本当に恐ろしかった」と振り返る。人々が安心して身を委ねるはずの診療の場は、その一瞬で暴力の場へと変貌した。

【社会的背景】

中国では近年、医師と患者の間のトラブルが増え続けている。
その背景には、

・利益優先の診療体制
・過剰な検査や治療
・高額な医療費
・説明不足や不透明な判断
・治療結果への不満

といった複数の要因がある。

病院側は収益確保を迫られ、患者側は「金だけ取られる」という不信を強める。この不信が積み重なることで、怒りが医師個人へ向かい、事件が起きやすい状況が生まれている。

江西省南昌市で起きた医師襲撃事件は、単なる個人の暴走ではなく、中国社会に広がる医療不信の表れである。利益を優先する医療体制が改まらない限り、患者と医師の溝は深まり、同様の事件は今後も繰り返されるだろう。

 



患者が増えて「おめでとう」 中国の病院の「お祝いポスター」に非難殺到

「医は仁術」など、もう昔話。病人が増えて「おめでとう」と祝う時代。中国で、医徳はどこへ消えた?

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!