アメリカ経済 2000年の崩壊直前の「ドットコム」時代に酷似

大手テック企業に隠されたAIバブルの実態

2025/12/29
更新: 2025/12/29

人工知能(AI)への投資が加速する中、一部のアナリストはインターネット初期の「ドットコム」時代と、その後に続いた市場崩壊との類似性を指摘し始めている。

ウォール街にとってはデジャヴのような瞬間だ。画期的なテクノロジーが人々の想像力を掻き立て、資本がなだれ込み、まだ到来していない未来の約束に対して極めて高い評価額(バリュエーション)が付けられ始めている。

AI支出が加速し、一握りの巨大企業が収益を独占する今、金融業界の内部関係者は、AIブームが「資産価格が実際の価値を超える」という市場バブルの領域に踏み込んだのではないかと問い始めている。

AIによって最も恩恵を受け、かつ損失を被る可能性も高い業界は、AI関連で過去最高の収益を報告している。S&P 500指数の上位5社は、AIに巨額の投資を行っているテック大手だ。さらに、金融データ、分析ツールを提供するグローバル企業・ファクトセット(FactSet)によると、2024年第4四半期にはS&P 500のうち241社が収益報告の中でAIに言及しており、これは過去10年間で最多の数字である。

投資の専門家は、これを潜在的な問題だと指摘する。報告された収益のうち、どれだけが真にAIによるもので、どれだけが他の収益に紛れ込んでいるのか、という点だ。

米国の独立系金融コンサルティング会社「フィル・フィナンシャル・コーポレーション」のオーナーで著者でもあるポール・ウォーカー氏は、エポックタイムズに対し次のように語った。「現在、AIの将来性に関する物語が株価を押し上げている。それらの物語が収益の失望へと変わるとき、価格は下落するだろう」

「ほとんどの投資家が気づいていないのは、市場がいかに集中しているかということだ。いわゆる『マグニフィセント・セブン』が、近年のS&P 500およびラッセル1000の上昇分の約60%以上を牽引している」と彼は言う。「言い換えれば、人々が考えているほど分散投資はなされていない。それらの銘柄がつまずけば、同じテック大手を組み込んだインデックスファンドを投資家が投げ売りするため、パニックは瞬く間に広がるだろう」

マグニフィセント・セブンには、アルファベット、アマゾン、アップル、メタ・プラットフォームズ、マイクロソフト、エヌビディア、テスラが含まれる。

一部のアナリストは、AIバブルは2026年も成長を続けると予測している。世界最大級の金融情報ポータルサイト・Investing.comが報じた独立系マクロ経済調査会社「キャピタル・エコノミクス」のジョナス・ゴルターマン氏の説によれば、AIを取り巻く環境は現在、「バブルの典型的な特徴の多く」を備えており、そこには「業界内および投資家の間でのAIの可能性に対する誇大な信奉」が含まれているという。

JPモルガンの最近の分析では、市場バブルの大部分は一定のパターンに従い、しばしば「世界が劇的な変化を遂げている」という投資家のテーゼ(仮説)から始まると指摘されている。

「信奉者たちは将来の需要を満たすために生産能力を構築する。信用が広く供与されることでバブルが形成され始める。融資基準の悪化とレバレッジの増大が、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)と市場評価の間に乖離を生じさせる。そして、ファンダメンタルズが最終的に勝利しバブルが崩壊するまで、ますます多くの投資家が群衆に加わるのだ」とその分析は述べている。

アップルは2025年6月9日、カリフォルニア州クパチーノの本社で開催された年次イベントで、人工知能(AI)システム「Apple Intelligence」のアップグレードを発表した。アップルはS&P 500構成企業の中で、AIに多額の投資を行っている上位5社に数えられる Josh Edelson/AFP via Getty Images
 

バブルの中

現在のAI投資のレベルと、2000年のドットコム崩壊に至るまでの状況との比較がなされている。

12月のGISレポート(シンクタンク「Geopolitical Intelligence Services:地政学インテリジェンス・サービス」が発行している地政学および経済分析のレポート)によると、オラクル社の株価は9月に36%急騰した。同社の報告された収益が予想を下回ったにもかかわらずだ。株価が跳ね上がったのは、オラクルがAI主導のクラウド収益が2030年までに1440億ドルに達するとの見通しを発表したためである。これは1992年以来最大の単日上昇率であり、同社の時価総額を推定2500億ドル押し上げた。

1990年代後半、インターネットの新興企業(ドットコム企業)への投機と巨額の資金提供により、NASDAQ総合指数は1995年1月の751から2000年3月には5048以上に押し上げられた。しかし、多くの企業が約束した収益を上げられなかったため、市場は2000年3月から2002年10月の間に75%以上暴落した。その間に5兆ドル以上の時価総額が失われた。

OpenAIのCEO、サム・アルトマン氏は8月、ITニュースメディア「The Verge」に対し、「投資家全体がAIに対して過度に熱狂しているかと言われれば、その通りだ」と認めた。その上で、「バブルが起きる際、賢い人々でさえ、わずかな真実の種を過大評価し、我を忘れて熱狂してしまうものだ」と語った。

短期売買に特化したポータルサイト「DayTrading.com」のチーフアナリスト、ダン・バックリー氏は、現在の状況は「まだ1999年のようではないが、1998年に似ている」と言う。

OpenAIのCEOサム・アルトマン氏は、2023年11月6日にサンフランシスコで開催されたOpenAI DevDayイベントで講演した Justin Sullivan/Getty Images

「真のバブルというのは、その技術が重要だと証明される『前』ではなく、むしろ証明された『後』に形成されるものだ。なぜなら、それまでは様子見をしていた投資家たちが、『これは本物だ』と確信した途端、一斉に市場へなだれ込むからだ」と彼はエポックタイムズに語った。

バックリー氏は、AIはその一線を越えたと考えており、現在の市場フェーズはより危険であるとしている。「価格設定はさらに引き延ばされ、金融・財政政策はAIの構築をさらに支援する可能性がある。各国政府も関与し始めている。彼らは金銭的なリターンにはそれほど敏感ではなく、AIを地政学的なパワーの源泉と見なしているからだ」

企業がAIの未来に投じている金額は桁外れだ。ゴールドマン・サックスの12月18日付の報告書によれば、大規模なクラウド基盤を持つ「ハイパースケーラー」と呼ばれるテック大手は、2025年第3四半期だけで1060億ドル(約16兆円)もの設備投資を行った。米国の独立系調査・データ分析機関「JDPグローバル」によると、大手テック企業による今年のAI関連支出は、全体で推定3640億ドル(約55兆円)に達するという。

こうした巨額投資に対し、ゴールドマン・サックスは投資家の姿勢が慎重に変化していると分析している。「ここ数ヶ月、AI大手の株価は明暗が分かれている。投資家は、AIインフラへの投資が利益を圧迫していたり、借金で投資資金を賄ったりしている企業からは資金を引き揚げ始めた」というのだ。今や投資家は、「AIにいくら使ったか」ではなく、「その支出が実際にどれだけの収益に結びついたか」という明確な証拠を示す企業を厳しく選別している。

独立系の資産運用・投資助言会社「アペックス・インベストメント・グループ」のプリンシパル・パートナー、ペドロ・シルバ氏は、「投資家側と企業側の両面で、AIとドットコム熱狂の間にはいくつかの重要な類似点がある」と指摘する。

2025年9月16日、サンフランシスコで人工知能(AI)企業の広告看板。AI企業の広告看板は市内各地や州間高速道路80号線沿いに出現している Justin Sullivan/Getty Images

「投資家側では、ニュースで毎日耳にするという理由だけでAIに参入したがっている」とシルバ氏は言う。「企業価値が適切か、あるいは将来的にどのようなリスク(逆風)があるかといった本質的な調査は、今の市場ではほとんど行われていない。投資家はただ『AI関連』という看板があり、株価が大きく伸びてさえいれば、それだけで喜んで投資に加わろうとするのだ」

企業側も同様だという。「企業は、投資収益率(ROI)が即座に、あるいは明確に見込めるかどうかにかかわらず、AIに費やさざるを得ない。組織のリーダーとしてAIに投資しないことは職務放棄のように思われるが、新技術の活用法が常に明確であるわけではない」

先行きを考える

バックリー氏によれば、AI投資のリターンに関する報告は、現金の裏付けよりも将来の構想に依存しているという。

「プログラミング支援などの分野で見られる効率化は本物であり、驚異的ですらある。しかし、投資の熱狂は、収益の裏付けが取れる段階をはるかに超えて加速してしまった。 AIそのものが稼いでいるのか、既存の製品に組み込まれているだけなのか、それとも将来への期待に過ぎないのか。その実態を判別するための明確な情報は、企業側から提示されていないのが現状だ」。

彼は、AIに関連する市場の減価が個人に与える影響は、その人の所得や貯蓄がどれだけテクノロジーに関連しているかに大きく依存すると指摘した。

個人投資家向けの金融・投資情報サービス会社「The Motley Fool」によると、現在テックセクターだけでS&P 500の34%を占めている。分散型ポートフォリオを持つ平均的な米国人投資家にとって、それは投資の約3分の1が、良くも悪くもAIの影響を受ける可能性があることを意味する。

バックリー氏は次のように分析している。 「現在のAI投資は、開発の規模を拡大し続けた者こそが、市場を支配できる』という信念に支えられている。そのため、利益率の低下や金利上昇といった、これまでの経済サイクルで重視されてきた要因よりも、むしろ『AIは無限に成長する』という物語(ナラティブ)そのものが疑われることこそが、巨額の支出を止める決定打となるだろう。

 

2025年11月19日、ニューヨーク証券取引所のフロアで働くトレーダーたち Michael M. Santiago/Getty Images

AI分野での投資引き揚げが起きれば、投資家は自分の資産が減るのを目の当たりにすることになる。だが、本当に恐ろしいのは、それが単なるテック業界の不調にとどまらず、社会全体が『景気後退が始まった』と誤認し、さらなるパニックを引き起こすことだ」

シルバ氏は、投資家がAI投資の縮小をより重大な事態と読み違え、性急な決断を下す可能性があると警告した。彼は、トップ5のテック巨人が米国経済そのものと同一ではないと強調するが、S&Pの収益における彼らの過大な比重がその印象を与え、広範な株式売りを誘発する恐れがある。

ウォーカー氏によれば、株式市場は大きな変化を繰り返しながらも、長期的には一貫して成長を遂げてきた。

大局的な視点が不可欠であると説く彼は、「今をときめく市場の主役が、将来は『かつての失敗事例』として教科書に載るかもしれない」と指摘する。だからこそ、特定の銘柄に固執せず、冷静に市場を俯瞰し続けるべきだと説いている。

ウォーカー氏は次のように助言している。「いつ暴落が起きるかを予想したり、どのAI企業が勝ち残るかを選別しようとしたりしてはいけない。代わりに投資家がすべきなのは、自分が許容できるリスクに見合った資産配分(ポートフォリオ)を組み、定期的にそのバランスを整える(リバランス)ことだ。

例えば、資産の40%を株で持つと決めているなら、市場が暴落した時はパニックになるのではなく、安くなった株を買い増して元の40%に戻すべきだ。 逆に市場が過熱している時は、買いを控える(あるいは増えすぎた分を売る)。『いつどうなるか』という予測よりも、こうした『決めたルールを守る規律』こそが、最終的には常に勝利をもたらすのだ」

南アメリカを拠点とする記者です。主にラテンアメリカに関する問題をカバーしています。