中国では、精神病院が人を治す場所ではなく、人を従わせ、社会から消すための装置として使われている。
役所や警察に不満を訴え、引き下がらなかっただけで「精神に問題がある」とされ、隔離される。入る前は理不尽に声を上げていた普通の人でも、いったん精神病院に入れられれば、薬物投与や拘束、圧力の中で声を失い、退院する頃には何も言えなくなる。日本人の常識では想像しがたい現実が、いまも中国にはある。
その実態を裏づける出来事が、大連市と宜昌市で相次いで明らかになった。
遼寧省大連市で2025年12月22日、ある女性が、飲食店での口論後に「気分が不安定」と警察に判断され、精神病院に送られたと訴えている。搬送先は大連第七人民医院だ。女性は、精神病ではないとする医療機関の鑑定書があったと主張するが、警察は病院側に「店を壊した」と説明したという。女性はこれを事実ではなく、警察が虚偽の説明をしたと訴えている。

病院内で女性が「自分は病気ではない。電話をさせてほしい」と求めると、看護師は「警察が精神病だと言えば、あなたは精神病患者だ」と述べ、警備員を呼んで女性を拘束したとされる。女性はベッドに縛り付けられ、3日3晩にわたり十分な飲食も与えられず、携帯電話を没収され、外部との連絡を断たれた。
その後、女性は行政が運営する一時保護施設である大連救助站に移された。女性は、ここで「記録のため」として裸の写真を撮るよう求められ、再び拘束される恐怖から拒めなかったと訴えている。
一方、湖北省宜昌市では、住宅管理の苦情を行政に伝えた60歳の女性が、翌日警察に連行され、警察官への暴行という重い罪名を付けられて精神病院に送られ、43日間拘束されていたことが分かった。この件は後に「犯罪に当たらない」として撤回されたが、強制入院について当局から十分な説明はなかった。
二つの事件に共通するのは、暴力犯罪ではなく、不満を口にし、引き下がらなかったことが引き金になっている点だ。
中国では、精神病院が治療の場というより、当局が外部との接触を断ち、都合の悪い市民を黙らせるための常套手段として使われてきた。精神に問題があると一度見なされれば、本人の訴えは信用されず、家族も「刑事責任を避けるためだ」と説得され、同意書に署名させられる。
なお、本文で取り上げた大連市と宜昌市の2件はいずれも、本人がメディアに訴えたり、訴訟を起こしたり、ネット上で体験を明かしたことで初めて外部に知られ、注目を集めた事例である。裏を返せば、声を上げられなかった人、途中で黙らされた人、精神病院の中で沈黙させられた人々の実態は表に出ていない。今回明らかになったのは、氷山の一角にすぎない可能性が高い。

これまで中国では、精神病院に入れられる前はごく普通に話し、抗議し、理路整然と訴えていた人が、退院後には別人のようになって戻ってくる例が繰り返し見られてきた。こうした変化は公式メディアではほとんど扱われず、多くは家族や友人のSNS投稿によって断片的に知られてきた。
そのため中国社会では「精神病院に入れられたら終わりだ」という認識が冗談ではなく現実として共有されている。どれほど正常な人であっても、退院する頃には本当に精神を壊された状態で戻ってくる。そう本気で理解されているのが実情だ。
入院前は声を上げていた人が、退院後には沈黙する。その変化は回復ではない。精神病院が、人を治す場所ではなく、人を従わせ、消すための装置として機能している現実が、これらの告発から浮かび上がっている。


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