米通商代表部(USTR)は7月23日、日本や中国、EUなど60か国・地域からの輸入品に10~12・5%の追加関税を課す最終決定を発表した。24日に失効する一律10%関税に代わる措置である。
日本はEU、台湾、韓国、スイスとともに別区分に置かれ、適用除外とならない特定の産品について、最恵国税率(MFN)を差し引いた上で10%または12・5%が課されることになる232条関税の対象品目である自動車、自動車部品、鉄鋼などは全面的に適用除外となる。
今回、USTRは課税理由として、各国が強制労働産品の輸入禁止措置を導入・執行していないという点を上げた。
外国の措置や慣行が不合理または差別的で米国の商業に負担を与えるとUSTRが判断した場合に、独自に対抗関税を課せる米通商法301条は本来、相手国の措置が米国の商業を害する場合に発動されるが、人権が関税率の根拠として全面的に用いられた例は、ほとんど前例がない。
強制労働産品の輸入禁止措置について、ここ30年間、どこの国も何ら触れることがなかった。
1996年、WTOシンガポール閣僚宣言は、労働基準の所管を国際労働機関(ILO)とした上でこう明記した。
「我々は、労働基準が保護主義的な目的で用いられることを拒否し、各国、とりわけ低賃金の途上国の比較優位が決して疑問に付されてはならないことに合意する」
監視する機関に力はなく、力を持つ機関は監視しない。しかしこの構造が2026年から30年間続き、人権は価格に反映されない外部性として放置された。
結果は数字に表れている。ILOによれば、強制労働に従事する人は2021年に2760万人と2016年から270万人増え、違法利益は年間2360億ドルと2014年から37%増えた。CSR、ESG、認証制度と「取り組み」は無数に生まれたが、被害は増大した。効かなかったのは、コストにならなかったからである。
グリアUSTR代表は「トランプ大統領は、数十年にわたる道義的説得がグローバル・サプライチェーンから強制労働を根絶できなかったと認識している」と述べた。
今回の措置では価格に直接影響を及ぼす。しかも課税対象は企業ではなく国であり、法制化がそのまま減免の道になる。
カンボジアなどは今回の措置の提案後に強制労働産品の輸入禁止措置を新たに導入した。30年動かなかったものが、数か月で動いた。
2022年9月、日米欧の貿易・労働担当閣僚は共同声明でこう述べた。
「強制労働を含む基本的な労働の権利の侵害は、我々の世界貿易システムにおいて不公平な競争上の優位性を得るために決して使用されるべきではない」
声明は「そうする道徳的義務がある」とし「既存のギャップに対処する意図がある」と結んでいた。しかし日本において、強制労働産品の輸入禁止法制は現在、存在しない。
強制労働の発生源と、その流入を止めなかった国が近い扱いを受ける設計は一貫性を欠く。監視コストを実際に負うのは中間工程国であり、被害者への裨益は制度上どこにも保証されていない。一方的措置の常態化は、WTO体制をさらに空洞化させる。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。