米中両国 世界貿易の動脈を巡り熾烈な攻防

2026/08/19
更新: 2026/08/19

アメリカが海軍再建に658億ドルを投じ、艦艇数を現在の291隻から2031年までに450隻へ増強する計画を打ち出す一方、世界の海上交通路を巡る防衛協力を強化している。中国共産党(中共)政権を封じ込めるアメリカの戦略は、海上輸送路を迂回する中共の広大な陸上ネットワークと対峙している。

アメリカの海洋覇権と、中共が進める大陸型の対抗戦略。その地政学的な綱引きが激しさを増している。

アメリカ 海上交通の「要衝」を掌握

第2次世界大戦後、アメリカは重要な海上交通路や狭い海峡などの「チョークポイント(海上要衝)」を確保し、航行の自由と安定したアクセスを維持する戦略を取ってきた。ホルムズ海峡やマラッカ海峡などを押さえることで、アメリカと同盟国の経済、サプライチェーン、軍事的な機動力を守り、敵対勢力による交通遮断を防ぐ狙いがある。

その思想的基盤となったのが、米海軍軍人アルフレッド・セイヤー・マハン(1840〜1914年)だ。1890年に著した『海上権力史論』は、現在も米国の海洋戦略に大きな影響を与えている。

マハンは、国家の繁栄は海洋の支配にかかっており、海上交通や海軍が通過せざるを得ない狭い海峡などを掌握することが重要だと論じた。

貿易は近代国家の生命線であり、交易を守る、あるいは遮断する能力を持つ国が国家の命運を左右する。世界的な影響力を維持するには、優勢な艦隊を集中運用することが不可欠であり、海峡や運河などの要衝を少数の兵力で押さえるだけでも、相手国の貿易や兵站全体を脅かすことができるという考え方だ。

アメリカの「チョークポイント戦略」

トランプ政権の2025年国家安全保障戦略では、中共との大国間競争を最大の脅威として位置づけており、海上要衝の掌握が一貫した戦略の柱となっている。

アメリカは日本、グアム、フィリピン、シンガポール、ディエゴガルシア島、バーレーン、ジブチ、地中海などに前方基地や軍事的なアクセス拠点を確保している。台湾海峡、マラッカ海峡、ホルムズ海峡、バブ・エル・マンデブ海峡などの重要航路に迅速に対応できる態勢を整えるためだ。

中でも台湾は決定的な戦略拠点と位置づけられている。台湾を中共が支配すれば、中共は第1列島線を掌握し、日本への海上交通路を脅かすとともに、潜水艦を太平洋へ進出させやすくなる。このため、オーストラリア、イギリス、アメリカによる安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」なども、こうした事態を念頭に置いている。

日本、アメリカ、インド、オーストラリアの4か国による「クアッド」や、インドネシアとの新たな主要防衛協力パートナーシップ(MDCP)も、マラッカ海峡周辺での監視能力や海上交通の遮断能力の共有を目的としている。

中共が輸入する原油の大半はマラッカ海峡を通過する。アメリカは、この海上輸送への依存を中共の戦略的弱点とみなし、圧力を維持しようとしている。

経済・通商政策も同じ論理を有する。2025年の関税政策は国内経済への負担を伴う一方、中国の製造業が世界的なサプライチェーンに依存し、その多くが海上の要衝を通過している点を利用するものでもある。経済的圧力と海上での圧力を組み合わせる狙いだ。

また、ヨーロッパからインド洋に至る各地の港湾に対する中国企業の投資をアメリカが警戒しているのも、商業的な拠点が将来、中共海軍の前方展開を支える施設となるためだ。

こうした戦略を実行するには、敵国の商船や軍艦の航行を脅かし、必要に応じて海峡を物理的に封鎖できる能力が必要になる。海軍や潜水艦、機雷、地上発射型ミサイルなどがその手段となる。

要するに「海上要衝を封鎖し、包囲する」という戦略である。マハンの思想に基づく海洋戦略は、一つの海峡を押さえるだけではない。世界各地に重複する海上封鎖網を構築し、相手に逃げ道となる海上航路を与えないことを目指す。アメリカの同盟網も、こうした構想に沿って形成されている。

中共 陸路で「マラッカのジレンマ」を回避

これに対し中共は、いわゆる「マラッカのジレンマ」を強く意識してきた。中国の原油輸入の75~80%がマラッカ海峡を通過するとされ、アメリカがこの海峡を脅かせば、中国のエネルギー供給が大きく揺らぐためだ。

中共は、アメリカが支配する海上交通路への依存を減らすため、大陸を重視する戦略を進めている。

その理論的背景にあるのが、イギリスの地政学者ハルフォード・マッキンダーが唱えた「ハートランド理論」だ。海軍の力が及びにくいユーラシア大陸内部を支配することが決定的な戦略的優位につながるとする考え方である。

この視点から見ると、中共の「一帯一路」は、海上のチョークポイントを迂回するための戦略とも捉えられる。アメリカを含む海洋勢力が支配する海上交通路への依存を減らすため、陸上インフラ網を整備するものだ。

仮に米海軍がマラッカ海峡を封鎖、あるいは封鎖を示唆すれば、中共は中東からの原油輸入や欧州市場へのアクセスに大きな打撃を受ける。そこで中共は、一帯一路を通じて代替ルートの構築を進めている。

代表例が、新疆ウイグル自治区とアラビア海沿岸のグワダル港を結ぶ「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」だ。さらに中央アジアからイランを経由してヨーロッパへ至る鉄道網、ミャンマーやスリランカからジブチに至る港湾拠点の連携、ロシア北極圏を通る北極海航路への投資なども進めている。

壮大な構想である一方、一帯一路のすべての計画を中共政権が実現できるかどうかは不透明だ。中共による巨額融資を通じた「債務のわな外交」に警戒感を強める国も増えている。

ただ、中共は陸上国家にとどまらない。中共海軍は史上例を見ない規模で急速に拡張し、艦艇数では米海軍を上回っている。空母や海外基地、長距離対艦ミサイルの整備も進め、第1列島線周辺でアメリカが海上支配を維持するためのコストを引き上げようとしている。

中共の戦略は、アメリカによる封鎖を受けにくい陸上の経済回廊を構築するとともに、西太平洋の海上要衝に対抗できる海軍力を整備し、さらに重要な海峡沿いの国々への影響力を高めるという「二重構造」になっている。

米中対立 海と陸の戦略競争へ

米中対立は、冷戦後では初めて、挑戦国が明確な二重戦略を持つ大国間競争となっている。

中共は一帯一路によって陸上経路を整備し、アメリカが築いてきた海洋支配への依存と脆弱性を減らす。同時に、急速な海軍力の増強によって、将来的には海上要衝そのものを巡ってアメリカと競争することを目指している。

トランプ政権がグリーンランドやGIUKギャップ(グリーンランド―アイスランド―イギリス間の海域)に関心を示し、パナマにおける中共の港湾アクセスに反発し、フィリピンに米軍のさらなる駐留を求め、インドネシアとのMDCPを進め、台湾への関与を強めているのも、こうした戦略的認識の表れとみている。

表現には混乱もあるものの、アメリカが第2次世界大戦後に築き上げてきた「海上要衝の支配」というマハン型の戦略網が、初めて本格的な圧力にさらされているとの認識は一貫している。

ただ、アメリカの対応が十分かどうかはなお不透明だ。アメリカの造船能力は中共政権に後れを取っており、海上要衝を維持・防衛するために必要な艦艇を迅速に建造できなければ、海洋戦略そのものが機能しなくなる。

さらに、貿易や関税を巡る対立は、海洋戦略を支える上で不可欠な同盟国との関係を損なう危険性もある。アメリカの造船能力への外国からの投資は、こうした二つの問題を同時に解決する手段となるだろう。

Stu Cvrk
米国の退役軍人。退役時の階級は大尉。米海軍で30年にわたり現役・予備役を問わずをさまざまな任務に就き、中東や西太平洋での豊富な作戦経験を持つ。海洋学者およびシステムアナリストとしての教育と経験を積み、米海軍兵学校を卒業。兵学校時代に受けた古典的なリベラル教育は、自身の政治評論の重要な基盤となっている。