チベット土石流 袁紅氷氏 中共の略奪的な資源開発を批判

2026/09/05
更新: 2026/09/05

チベットの吉隆国境検問所を襲った大規模な土石流の発生から9日が経過した。中国共産党(中共)当局によると、チベット側ではこれまでに31人が死亡し、531人が行方不明となっている。

オーストラリア在住の法学者、袁紅氷氏は大紀元の取材に対し、中共は長年、チベットの天然資源を略奪的に開発してきたと指摘した。災害発生後も人命や財産の保護より政権維持を優先し、人的・物的被害を隠していると批判した。

500人超が行方不明 被害実態なお不透明

災害は8月26日午前に発生した。中共によると、ネパール国内の高地で大規模な氷河と岩石の崩落が起き、崩落物が谷を高速で流れ落ちる。その後、土石流となってチベット側の吉隆国境検問所を襲った。

官製メディア新華社は9月4日、同日午後6時までにチベット側の死者が31人に増え、行方不明者は531人になったと報じた。当局は現在も、犠牲者や行方不明者の名簿を公表していない。

AP通信によると、中共官製メディアの一部を除き、記者はチベットの被災地に入って取材することができない。官製メディアの報道は指導部の指示や救援活動に重点を置き、犠牲者や行方不明者、その家族の声を伝える報道は少ない。

一方、ネパール当局は死者や行方不明者の情報を随時更新し、メディアによる被災地取材も認めている。ネパール当局の集計では、死者は1294人、行方不明者は5053人、救助された人は1万3095人に上る。

袁氏は、中共が大規模災害に対応する際、「人命や財産の救済よりも、まず政権の統治上の利益を考える」と指摘。そのため、人的被害や財産被害が隠されることになるとの見方を示した。

袁紅氷氏「チベットで略奪的な資源開発」

袁氏は、中共がチベットの天然資源に対し「植民地主義的かつ略奪的な姿勢」を取ってきたと批判した。チベットの長期的な発展や生態系の保全よりも、短期的な経済利益や政治目的を優先しているという。

また、習近平政権の発足後、中共はチベットの水資源をインドやバングラデシュに圧力をかける戦略的手段として利用しようとし、ヤルンツァンポ川など南アジアへ流れる河川の上流で大型ダムの建設を進めていると指摘した。

袁氏は、中共によるチベットの水資源開発について、現地の持続可能な発展ではなく、政治的、地政学的な目的に利用されているとの見方を示した。

さらに、大規模な水利事業や資源開発がチベット固有の生態環境を損なっていると指摘。これに気候変動や氷河の融解、雪線の上昇が重なり、高原地域の生態系や地質災害のリスクを高めているとした。

1985年以前、チベットでは大規模な貯水池開発はほとんど行われていなかった。

ドイツ在住の水利専門家、王維洛氏は最近、YouTube番組「方菲時間」で、中共が1985年のチベット自治区成立20周年に合わせてヤムドク湖水力発電所の建設を進めた際、パンチェン・ラーマ10世が反対したと説明した。パンチェン・ラーマ10世の死後、建設計画は進めら。

王氏によると、現在チベットには約150か所の貯水池がある。水力発電だけでなく、農業用の灌漑にも利用されているという。

王氏は、灌漑事業を進める目的の一つとして、遊牧生活を送っていたチベット人の定住を促し、当局による行政・人口管理を容易にする狙いがあるとの見方を示した。

また、チベットは標高が高く、急峻な地形が多いうえ、地震活動が活発な断層帯に位置すると指摘。一部では天然の氷河湖を貯水池として利用しており、過去に何度も大規模な補修や補強が行われた施設もあるとして、高原地帯での水利施設の安全確保は大きな課題だとした。

王氏は、チベットの山岳地帯では高低差が大きく、貯水池や堰止湖が決壊すれば、水や土砂が一気に下流へ押し寄せ、甚大な被害につながると指摘した。

また、豪雨や氷河崩落などの自然現象が災害の引き金になる一方、断層が集中する地域で十分な地質調査を行わずに大規模開発を進めることも、被害を拡大させる要因になると指摘した。特に、国境検問所などの施設を災害リスクの高い河川沿いに建設することに疑問を呈した。

王氏は、こうした災害について「自然災害である一方、人為的な要因もある」との見方を示した。

パンチェン・ラーマ10世 ダム建設に反対

1980年代に中共がチベットで進めた水利開発について、袁氏はパンチェン・ラーマ10世が強く反対していたと述べた。

袁氏によると、ラーマ10世はチベット仏教の信仰に基づき、貯水池の建設が神聖な山や湖の宗教的な環境や静けさを損なうと懸念していた。また、人為的な開発がチベットの自然環境を破壊することも危惧していたという。

パンチェン・ラーマ10世は1989年1月28日、チベット自治区シガツェで急死した。中共は、連日の過密な日程による過労で心臓発作を起こしたことが死因だとしている。

一方、袁氏はこの説明に疑問を呈している。自身が得た情報を基にした著書『殺佛 十世班禅大師蒙難真相』で、パンチェン・ラーマ10世の死は自然死ではなく、政治的な暗殺だったと主張している。

袁氏によると、その背景にあったのはダム建設への反対ではなく、ラーマ10世がダライ・ラマのチベット帰還を望み、両者が協力してチベットの宗教活動を発展させることを目指していたことだったという。袁氏は、こうした政治姿勢を当時の鄧小平政権が容認しなかったとみている。

さらに袁氏は、当時の鄧小平・中共中央軍事委員会主席や陳雲・中共中央顧問委員会主任らが、ラーマ10世を排除する方針を決め、当時チベット自治区党委員会書記だった胡錦濤が実行を担い、共青団チベット自治区委員会副書記だった胡春華が協力したと主張している。

ただし、これらの主張を裏付ける独立した資料は確認されていない。

パラーマ10世は死去する数日前、中共のチベット統治政策を公に批判していた。

ラジオ・フリー・アジア(RFA)が当時の中共の報道を引用して伝えたところによると、ラーマ10世は、中共による30年間のチベット統治について「チベットが払った代償は、発展によって得た利益を上回った」と述べていた。

過去にも洪水被害 事前に指摘されていた危険性

吉隆国境検問所周辺の河谷で大規模な災害が起きたのは今回が初めてではない。

2025年7月には、氷河湖の決壊による洪水で中国とネパールを結ぶ友誼橋が流失し、複数の行方不明者が出た。国境検問所の交通や貨物輸送も一時停止し、今年1月に通関が再開した。

2025年7月8日未明、吉隆国境検問所付近で発生した洪水により友誼橋が流失し、17人が行方不明となった(ネット画像)

 

その後、成都理工大学の研究者が衛星画像などを分析したところ、友誼橋上流の流域には55の氷河湖があり、総面積は約3.39平方キロに上ることが分かった。

研究者は当時、氷河湖決壊による洪水が再び発生する恐れがあるとして、上流域での洪水警報体制を強化するとともに、流域内の氷河湖について詳細なリスク評価を行う必要があると警告していた。

袁氏は、研究機関がこうした危険性を報告書で指摘していたにもかかわらず、中共の官僚機構の対応が遅く、行政の硬直化によってリスク情報が適切に処理されなかったと批判した。

また、習近平が官僚に絶対的な忠誠を求め、繰り返し大規模な粛清や綱紀粛正を進めた結果、官僚の間に「寝そべり(何もしない、怠慢)」の風潮が広がったと指摘。ネパールなど周辺国で危機が発生しても、「余計なことはしない方がよい」と考え、問題を放置する官僚が増えているとの見方を示した。

袁氏は、中共は人道や人権よりも、一党支配を維持する政治的利益を優先していると批判した。

さらに中共を「政治マフィア」と表現し、「大規模な災害や重大事件が起きた際、中共政権が最初に行おうとするのは、国家ぐるみのうそによって平穏を装い、問題を覆い隠すことだ」と述べた。

徐亦揚
駱亞