高市政権 各国へ政務三役を総動員 FOIP・拉致・重要鉱物で連携拡大

2026/09/10
更新: 2026/09/10

高市早苗首相は9月9日、この夏、各府省庁の政務三役が行った海外出張の成果について報告を受けた。政府は府省庁の垣根を越え、政務三役を各地に派遣して政権の重要課題を相手国に直接伝えてきた。「戦略的な外交を一体的に推進する」とする高市政権の方針が、就任後初めての夏に本格的に運用した形である。5月の大型連休に続き「政務三役総ぐるみ外交」の第2弾と位置づけ、その狙いと課題が浮かび上がった。

高市政権 政務三役を総動員する「一体外交」

高市政権は全政務三役に対し、所管の枠を超えて政権の重要課題を相手国に伝えるよう指示してきた。訪問先についても、「国益の観点から重要な地域を広くカバーできるよう」、内閣全体で調整するという。

外務省に限らず、国土交通、厚生労働、防衛、経済産業、財務、農林水産の各省の政務三役までを外交の担い手として位置づけ、首相の方針の下で政府一体となって外交課題に取り組む考え方である。

憲政史上初の女性首相として2025年10月に就任し、2026年2月の衆院選で自民党が単独で3分の2を超える316議席を獲得して第2次内閣を発足させた高市氏は、「世界の真ん中で咲き誇る日本外交」を掲げてきた。今回の総括は、その方針が府省庁横断でどこまで浸透しているかを測る機会でもある。

進化したFOIPで「自律性」と「強靱性」を発信

茂木敏充外相は一連の外遊で、進化した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を推進し、各国の「自律性」と「強靱性」の強化に向けた協力を深め、共に強く豊かになる姿勢を示した。

金子恭之国土交通相は、マレーシアのサイフディン内相らに対し、マラッカ・シンガポール海峡を安全かつ安定的に利用できる環境を確保することが極めて重要だと説明し、海上保安分野での協力強化を求めた。世界の海上輸送の要衝である同海峡の安定は、原油をはじめとする日本向け海上輸送の安全確保に直結する。

拉致問題の即時解決をASEANとの外交議題に

茂木外相はASEAN+3外相会議で北朝鮮の核・ミサイル開発に言及し、拉致問題の即時解決に向けた理解と協力を要請した。議長声明には、拉致問題の即時解決を求める内容が盛り込まれた。

上野賢一郎厚生労働相も、フィリピン、韓国、タイの労働担当相に対し、拉致問題について継続的な理解と協力を求めた。小泉進次郎防衛相は、オーストラリアのマールズ副首相兼国防相と会談し、既存の防衛協力の進捗を確認するとともに、今後の協力強化に向けた方向性を協議した。

重要鉱物とエネルギーの供給網を強靱化

今夏の一連の活動に共通する大きな軸は、エネルギーと重要鉱物の安定確保である。

茂木外相はASEAN+3外相会議で、高市政権が掲げる「パワー・アジア」(アジア・エネルギー・資源供給力強靱化パートナーシップ)の下、エネルギー供給体制の強化と調達先の多角化を進める考えを示した。議長声明にも、同枠組みを含む協力の重要性を明記した。

「パワー・アジア」は、中東情勢の緊迫化に伴う原油価格の上昇を受け、高市政権が4月に打ち出した構想である。アジア地域のエネルギー・資源供給力とサプライチェーンの強靱化を目的に、総額約100億ドル(約1.6兆円)規模の金融面での協力などを柱としている。

赤澤亮正経済産業相はアメリカで開かれたG20イノベーション相会合で、日本の石油・重要鉱物の備蓄制度が、AIや製造業のサプライチェーン強靱化に資すると強調した。ラトニック商務長官との会談では、アメリカ産原油について、十分な供給量と価格競争力を確保することが重要だと伝えた。両者は、重要鉱物の供給網強靱化に向けた協議を続けることで一致した。

赤澤氏は「中東情勢に伴う重要物資安定確保担当」も兼務しており、エネルギーや重要鉱物の供給網強靱化は、同氏が担う重要な政策課題の一つである。

経済安全保障担当の小野田紀美内閣府特命担当相は、オーストラリア側と重要鉱物・エネルギーの供給網強靱化に向けた連携を確認した。片山さつき財務相もG20財務相・中央銀行総裁会議で、供給網の多角化と強靱化の重要性を訴えた。議長声明には、エネルギーなどのバリューチェーンが円滑に機能することが、世界経済の成長に資するとの趣旨を記した。

農産品輸出と戦没者慰霊

山下農林水産副大臣は、ブルネイの経済担当調整相に対し、日本産食品の輸出促進への協力を求めた。

また、上野厚生労働相ら5人の政務三役が、5か国で各国政府が建立した戦没者慰霊碑を訪れ、献花した。別の5人も、計4か国の慰霊碑などを訪問した。戦後80年の節目を迎えるなか、慰霊も政権が進める対外活動の一環と位置づけられている。

特定国依存の低下へ 調達先多角化を模索

今夏の一連の活動を俯瞰すると、FOIP、海上交通路の安全、エネルギー、重要鉱物という個別課題をつなぐ政策的な軸として、経済安全保障が見えてくる。特定国への過度な依存を避け、供給網を分散し、強靱化する取り組みである。

重要鉱物の精錬・供給で中国が大きな地位を占めていることや、マラッカ・シンガポール海峡を含むシーレーンをめぐる地域情勢を踏まえると、今回の取り組みには、特定国への過度な依存を抑える狙いがあるとみられる。

もっとも、政府の報告は中国など特定国を名指ししていない。特定国への言及を避けながら、供給網と安全保障面での連携を進める手法は、高市政権の経済安全保障政策を反映したものといえる。

政務三役を総動員する一体的な外交には、限られた首相の時間を補い、政権の重要課題を幅広く相手国へ伝えられる利点がある。一方、閣僚外交が発信の量を重ねるだけに終われば、実質を伴わない成果の羅列となるおそれもある。