地元政府や警察の不正を訴えようと、北京の中央政府を頼った市民が、逆に北京の警察に捕まり、金で「売られる」。しかも、不正を暴く証拠を持つ人ほど高値がつくという。
まるで人身売買のような話だが、これは中国で実際に起きている。
なぜ、救済を求める市民が「商品」にされてしまうのか。その背景には、中国ならではの事情がある。
中国には、地元政府や警察の不正、理不尽な扱いを受けた市民が、上級機関に救済を求める「陳情(中国語:信訪)」という制度がある。地元で問題を解決してもらえず、最後の望みをかけて北京まで訴えに行く人も少なくない。
ところが、北京までやって来た市民を、北京の警察が拘束し、金銭と引き換えに出身地の地方政府へ引き渡している。
山東省の陳情者、趙爽さんは本紙の取材に対し、北京の警察が陳情者を1人当たり数千元から数万元(数万円から数十万円)で地方政府に「売っている」と語った。
地方政府の担当者が現金を持参し、その場で北京の警察に金を払い、引き換えに陳情者を連れ帰ることもあるという。まさに人身売買のような取引だ。
なぜ、地方政府はそこまでして地元住民を連れ戻すのか。
中国では、住民の不満が北京の中央政府にまで伝わると、地元幹部の管理能力が問われ、昇進に響くおそれがある。そのため、問題そのものを解決するより、陳情者を連れ戻して訴えを封じ込めることが優先されるという。
しかも趙さんによれば、地元幹部の不正を暴く有力な証拠を持つ人ほど、高値で引き取られることもある。
米国に亡命した元軍人の呉立新さんによると、陳情者の取り締まりには政府から多額の予算が投入されている。北京の警察が陳情者を捕まえ、地方政府が取り締まり予算から金を払って引き取る。その金の一部は地元の役人にも還流し、警察や地方幹部が利益を得る仕組みになっているという。
呉さんは、10年、20年と訴え続けても問題が解決されず、救済を求めたまま亡くなった人を何人も知っているという。中には、数十年にわたって陳情を続け、最後はその道中で命を落とした人もいた。
市民は人生をかけて救済を求め、政府は問題を解決する代わりに、その苦しみを金もうけの道具にしている。
日本では想像もつかない理不尽な現実である。

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