ロシアのドローン生産 中国依存が深化 エンジンから炭素繊維原料まで

2026/10/29
更新: 2026/10/29

ロシアによるウクライナ侵攻では、長距離ドローンが都市やインフラを攻撃する主力兵器となっている。しかし、制裁を受けるロシアは、ドローンを全て国産で製造する体制を確立できていない。部品やエンジン、原料の調達から技術支援まで、幅広い分野で中国への依存を深めている。こうした依存は、調達費用の増加など、ロシアに新たな負担をもたらしている。

原料の調達も中国頼み

ウクライナ安全保障協力センター(USCC)が入手し、9月にアメリカの政治専門メディア「ポリティコ」に提供した文書によると、中国の国有企業「吉林化繊集団」は、ロシア国営原子力企業「ロスアトム」傘下の「アラブガ・ボロクノ」に、炭素繊維の原料となるポリアクリロニトリル(PAN)前駆体46トンを出荷した。

前駆体とは、炭素繊維に加工する前の原料である。文書によると、この貨物は民生用の繊維製品として申告していた。関連文書には、2022年以降、同様の入札がほかに少なくとも8件記録されている。

これらの記録から、ロシアのドローン生産を支える中国からの供給が、部品だけでなく原料にも及んでいることが分かる。ロスアトムが目指してきた原料の自給も、実現していないことがうかがえる。

「ゲラン」「ガルピヤ」に中国製エンジン 技術者の支援も

ウクライナ国防省情報総局(HUR)のデータによると、ロシア政府による「シャヘド(Shahed)」型ドローンの発注数は、2024年の約1万2千機から、2026年には10万機以上に増加した。ジェットエンジンを搭載した新型の「ゲラン4」「ゲラン5」の生産も、月産約3千機に達している。

ロシアの「ゲラン」には、中国製の模倣エンジンが使われている。イランの原型機が搭載していたドイツ製エンジンを模したもので、航法モジュールやモデムも中国製である。

別の攻撃用ドローン「ガルピヤ(Garpiya)」には、中国企業「廈門リンバッハ」が製造したエンジンが使われている。アメリカは2024年10月、ロシアと完成した兵器システムを共同開発した中国企業を初めて制裁対象に指定した。同社もその一つである。

中国製の模倣エンジンは、産業用冷却設備として申告され、継続的にロシアへ運ばれている。中国人技術者もロシアの「クポル」社を繰り返し訪れ、ドローンの試験や人材育成を支援している。

欧米が輸出規制の対象としている軍需物資については、ロシアの輸入量の約75%を中国からの輸入が占める。前駆体の輸入も、ドローンの製造に欠かせない原料を中国に頼るロシアの実情を示している。

炭素繊維が左右するドローンの軽量化と長距離飛行

炭素繊維は、機体を軽くするために使われる。ドローンが燃料や爆薬を積んで1千キロ以上飛行する上で重要な役割を果たし、レーダーで探知されにくくする効果もある。炭素繊維を使わなければ機体が重くなり、飛行できる距離を短くするか、積める燃料や爆薬の量を減らさなければならない。

炭素繊維の性能は、前駆体の品質が大きく左右する。研究では、炭素繊維の強度などと前駆体の品質に密接な関係があるとしている。前駆体は、一般的な炭素繊維の生産コストの約半分を占める。航空宇宙分野で使われる高品質の炭素繊維では、その割合が4分の3を超える。

前駆体の生産には、高分子化学や、原料を繊維状にする紡糸などの専門技術が必要である。ロシアは2021年時点でも、前駆体の8割近くを中国からの供給に頼っていた。

「ゲラン2」の胴体と主翼には、炭素繊維製の骨格が使われている。ジェット推進の新型「ゲラン5」は、機体内部のフレームに炭素繊維製の外板、主翼、尾翼を取り付けた構造である。

ロシアによるウクライナ侵攻を受け、欧米は2022年に制裁と輸出規制を導入した。これにより、ロシアは欧米や日本から高品質の炭素繊維を調達できなくなった。ウクライナ経済安全保障評議会の2025年の報告書によると、2024年1~9月にロシアが輸入した炭素繊維のうち、中国企業からの供給が重量ベースで72%を占めた。

一方、中国は炭素繊維の生産能力を急速に拡大し、世界最大の生産国となった。2025年には世界の生産能力の半分以上を占め、吉林化繊集団は世界最大の炭素繊維メーカーとなっている。

ロスアトムの国産化に壁 工場稼働後も中国から原料輸入

ロスアトムは2021年11月、中国への依存から脱却するため、アラブガに前駆体工場を建設した。設計上の年間生産能力は5千トンである。

しかし、貿易データによると、工場の稼働後も中国製の前駆体の輸入は続いていた。2022年3月~25年1月にかけて、アラブガ・ボロクノは吉林化繊集団傘下の2社から、中国製の合成繊維糸を約3千トン、総額2140万ドル(約33億7800万円)輸入した。

炭素繊維1トンを生産するには、前駆体が2~2.5トン必要である。年間輸入量を約1千トンとすると、製造できる炭素繊維は約400~500トンとなる。これは、アラブガ・ボロクノの2022年の年間生産量407トンに近い。

単純計算では、中国から輸入した前駆体だけで、同社の2022年の生産量に相当する炭素繊維を製造できることになる。中国からの原料供給が、ロスアトムの炭素繊維生産を大きく支えていることが分かる。国内工場が稼働しても、中国からの輸入への依存は続いている。

2022年以降、ロシアでは炭素繊維の需要が急増した。2024年初め、ロスアトム傘下の「ウマテックス」は、民生用の複合材料市場が拡大しているため、炭素繊維工場がフル稼働していると説明した。その一方で、アラブガではドローンの生産も拡大していた。

2026年5月、ロシア政府はアラブガ・ボロクノの生産ラインの増設と、これに伴う前駆体生産施設の建設を承認した。稼働は2027年を予定している。中国からの輸入が続くなか、ロシアは国内の生産能力を増強しようとしている。2021年の工場稼働だけでは、中国への依存を解消できなかった。

中国依存で調達費用が増加 光ファイバーの供給にも影響

中国への依存は、調達費用の増加にもつながっている。キーウ経済大学のデータによると、2025年にロシアが中国から購入した、戦場での活動に欠かせない物資の価格は、中国がほかの顧客に提示した価格を約300%上回った。依存が深まるほど、価格や取引条件で中国側が優位に立つことになる。

光ファイバーも、その一例である。サランスクにあるロシア唯一の光ファイバー工場は、2025年春にウクライナのドローン攻撃を受け、操業を停止した。このため、ロシアは供給を全面的に中国に頼らざるを得なくなった。

前線へのドローン供給を維持するため、ロシアは中国への依存を深めている。調達価格の上昇は、戦費を押し上げる要因にもなっている。

一方、ロシアは国内の繊維生産を守るため、アラブガ・ボロクノを重点的に防護する施設に指定した。ウクライナの長距離ドローンによる攻撃に備え、工場周辺には防護ネットも設置している。

軍需拡大が民生向け生産を圧迫 工場への攻撃リスクも

ドローン生産などの軍需の拡大は、民生向けの生産にも影響を及ぼしている。アラブガ工場の炭素繊維は、当初、民間航空機や、ロスアトムが製造する核燃料用遠心分離機に使われる予定だった。しかし、2030年には同工場の生産量の最大89%が、防衛関連企業向けに充てられる見通しである。

ウクライナが長距離ドローンによる攻撃を急速に拡大するなか、ロシアでは炭素繊維の安定供給にも懸念が生じている。アラブガ・ボロクノをはじめとする工場は、すでにウクライナのドローンの攻撃圏内に入っている。

李平