パンデミック前夜の中国で何が起きたのか 映画『超限戦』が埼玉県で上映 観客「ナチスと重なる」

2026/11/04
更新: 2026/11/04

新型コロナウイルスのパンデミックを背景に、科学と国家権力、情報統制、そして人間の尊厳を描いた映画『超限戦』(The Unrestricted War)の上映会が10月31日午後、埼玉県さいたま市で開かれた。日本での上映は、10月25日の東京に続き、今回が2回目となる。

カナダ在住のYan MA監督が手がけた『超限戦』は、2025年のカナダでの劇場公開を皮切りに、米国や台湾でも上映されてきた長編劇映画。当日は多数の参観者らが来場し、作品を鑑賞した。

同映画は、新型コロナウイルスの世界的流行という現代的な出来事を背景に、科学や権力、情報統制、個人の倫理といったテーマを描いた衝撃の作品。主人公は、中国でバイオテクノロジー関連の研究に携わるカナダ人ウイルス学者の男性(劇中名・ジム)と、その中国人の妻ソフィー。2人はある日突然、理由も告げられないまま身柄を拘束される。ジムは自らの研究試料を持ち出すよう迫られ、やがて原因不明の病が人々の間で広がり始める。

物語は、武漢での新型コロナ発生や、コロナの伝染性を告発した医師の死去、香港での抗議活動など、近年の実際の出来事を織り込みながら展開していく。

監督・共同脚本を務めたヤン・マー氏は中国出身でカナダを拠点とするプロデューサーで、ロブ・W・キング氏と共同で脚本を執筆した。主演はディラン・ブルース氏とナディア・ハッタ氏で、ユニ・パク氏やラッセル・ユエン氏ら俳優陣も出演している。

映画のタイトルにもなっている「超限戦」という言葉は、1999年に中国軍の空軍大佐だった喬良氏と王湘穂氏が発表した著書『超限戦』(Unrestricted Warfare)に由来する。

同書では、従来のように軍隊が武器を用いて戦うだけでなく、経済、金融、情報、メディア、サイバー、心理、外交など、軍事以外のさまざまな手段も組み合わせて政治的な目的を達成しようとする、新しい時代の戦争の在り方が論じられている。

具体的には、経済活動を通じた圧力、金融市場への影響、情報発信による世論形成、サイバー空間への攻撃、心理的な働きかけなど、社会のさまざまな領域が国家間の競争や対立の舞台になり得るという考え方だ。

つまり、現代の戦争は必ずしも目に見える軍事衝突だけではなく、経済や情報、社会生活など、日常のさまざまな場面にまで広がる可能性があるという問題意識である。この概念は、今日の国際社会で議論される情報戦やハイブリッド戦を考える上でも、一つの重要な視点となっている。

映画『超限戦』は、こうした問題意識を背景に、新型コロナウイルスのパンデミックという世界的な出来事を物語に取り込み、科学、国家権力、情報統制、個人の自由と倫理が交錯する状況を描いている。

カナダから米国、台湾へ 国際的な反響

本作は2025年5月、カナダで劇場公開された。トロントやカルガリー、バンクーバーなどで上映され、北米の観客に作品を紹介する機会となった。

同年7月31日には、米国ワシントンの連邦議会議事堂があるキャピトルヒルで上映イベントが開催された。上映後には監督や国際政治、安全保障などに関わる専門家らによるパネルディスカッションも行われ、パンデミックと情報統制、国家安全保障などについて意見が交わされた。

また、北カリフォルニアのミルピタス市立図書館でも上映会が開かれ、観客との座談会が実施された。映画を通じて新型コロナウイルスをめぐる問題を改めて考える機会になったとの感想や、情報と権力の関係について関心を持ったという声も紹介されている。

台湾では2026年5月22日に劇場公開された。公開に先立ち、台北では台北弁護士会の人権委員会による上映会が行われ、法律や人権に関わる関係者らが参加する座談会も開催された。

さらに、同年4月には台湾東部の台東でも特別上映が実施された。

観客「ナチス・ドイツの支配が重なって見えた」

映画を鑑賞した男性は、中共の権力体制や人権問題について強い危機感を示した。「中共体制とナチス・ドイツの支配が重なって見えた」と述べた。映画で描かれた権力による人々の支配や裏切りの構図に衝撃を受けたといい、「このような恐怖の独裁体制は許してはいけない」と話した。

また、法輪功学習者やウイグル人らに対する迫害、臓器収奪にも懸念を示し、「人間の命が本当に軽く扱われている」と批判した。

その上で、日本も中国の人権問題について経済関係に左右されず声を上げるべきだとし、「人権の問題で、下手に妥協してほしくない」と語った。

映画の中で印象に残った場面として、主人公の妻が物語の重要な局面で関わっていたことを挙げた。映画を通じて中共政権の影響力や安全保障上の問題を考えたといい、日本でのスパイ防止法の制定も必要だとの見解も語った。

カナダから米国、台湾、そして日本へ。国際的に上映の機会が広がる映画『超限戦』。主催者によると、今後も国内各地での上映を検討しているという。

エポックタイムズ記者。日本の外交・防衛をはじめ、国内外の時事問題を中心に執筆しています。