タイ政府が、国境地帯に拠点を置く国際詐欺組織の摘発を目的に軍を投入した。その結果、これまで断片的にしか伝えられてこなかったカンボジア国境の大規模な詐欺拠点の内部が、初めて具体的に確認された。
拠点内には、警察署を装う部屋や詐欺台本、被害者の個人情報などが残されていたという。
注目されるのは、各国の捜査機関を模した「偽の取り調べ部屋」である。壁には「上海市公安局浦東分局」を名乗る看板が残されており、シンガポールやベトナムなど、国別のセットが階ごとに設けられていた。相手国に合わせて本物の公的機関を装い、恐怖で従わせるための装置だったとみられる。

机や床の上には、恋愛感情につけ込む詐欺の手口を解説したマニュアルや、標的となった被害者の個人情報が散乱していた。その中には、73歳の日本人退職者の電話番号や銀行口座の残高、また家庭内暴力の被害を打ち明けていた米国人女性の詳細なプロフィールなども含まれていた。
床には、逃走の混乱の中で置き去りにされたとみられる現金の束も残されていた。

現場はカンボジア北部の国境の町オスマチ周辺であり、タイ側が封鎖し証拠を押収した。窓には密集した鉄格子があり、過去に数千人規模を収容していた可能性があると、タイ当局は説明した。人身売買で連れて来られ、逃げられずに詐欺を強要された被害者が多かったという。
この詐欺拠点について、国連薬物犯罪事務所(UNODC)の担当者は「建物は階ごとに騙す相手の国別に分かれており、詐欺は国に合わせた台本と演出で行われていた。非常に手の込んだ仕組みだ」と指摘している。
ロイター通信は、こうした拠点が中国系組織によって運営される例が多いとも伝えている。
実際にこの拠点から生還した中国・貴州省出身の男性は、ネットカフェで知り合った人物に高給の仕事を持ちかけられ、面接と称して薬を飲まされた後、意識を失いカンボジアへ連れ去られた経緯を明らかにしている。
詐欺拠点内では死亡事件も珍しくなく、彼は激しい暴行を受けた末、命がけで建物から飛び降りて脱出したという。
この詐欺拠点はすでに破壊された。ただし、同じ手口と構造を持つ詐欺は、他の場所でも繰り返し行われている。

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