中国 なぜ人々は死刑囚に花を手向けるのか

警察6人を殺害した死刑囚の墓参りをしただけで拘留7日=中国

2026/04/07
更新: 2026/04/07

警察官6人を殺害し死刑となった男・楊佳(よう・か)の墓に花を手向けた女性2人が、中国で拘束されたことが分かった。

「親族関係のない死者に献花した」という理由で、北京公安により7日間の行政拘留が科されたという。

拘束されたのは人権活動家の林春芬氏と李玉鳳氏で、3月26日に北京の墓地で献花した直後、警官に取り囲まれ連行された。動画には、女性が「どの法律に違反したというのか」と問いただす様子や、警官が撮影を止めようとする場面も映っている。

楊佳事件

2008年7月1日、北京出身の青年・楊佳は、上海市の公安分局に侵入し、刃物を用いて警察官6人を殺害、5人にけがを負わせた。この事件は全国に大きな衝撃を与え、4か月後の同年11月26日、楊佳は死刑を執行された。

事件の発端は2007年10月にさかのぼる。楊佳は上海を旅行中、ナンバープレートのない自転車を借りていたことで警察に拘束され、窃盗の疑いをかけられた。その際、警察から激しい暴行を受け、とくに生殖器に深刻な損傷を負った。

その後も各地で訴えを続けたが状況は変わらず、2008年7月、楊佳は上海の警察署に単身で侵入し、警察官6人を殺害、5人にけがを負わせた。重大な殺人事件であり、同年11月に死刑が執行された。

しかしこの事件は、中国社会で異例の反応を引き起こした。楊佳の「納得のいく説明が得られないなら、自分のやり方で決着をつける」(原文「你不給我一個說法,我就給你一個說法」)という言葉は、大きな共鳴を呼んだ。この言葉はいまも中国語圏で、追い込まれた状況での強い意思を示す象徴的な一言として語り継がれている。

二審の開廷日には、上海の高等裁判所前に数千人が集まり、「打倒共産党」などの声を上げて支持を示した。

ネット上では楊佳を「英雄」とする声が広がり、一時は社会現象のような注目を集めた。警察の暴力や不当な扱いに対して立ち向かった市民の象徴として受け止められた側面もあり、その存在は強い印象を残した。

さらに後年、拘束中に拷問を受けたとされる映像もネット上に流れ、当局への不信感を強めた。ただし、この映像の真偽は確認されていない。

 

拘束された楊佳の様子(ネットより)

 

死刑囚が「英雄」と見られる社会

楊佳の墓には、命日や、中国で春に墓参りをする行事「清明節」のたびに、各地から人々が訪れる。多くは、強制立ち退きや不当な扱いなど、当局に対する不満や被害を経験した人々である。

中国では公安は、市民を守る存在というより、取り締まりや弾圧を担う側として見られることも多く、日常的な不満が蓄積している。そうした中で、警察に立ち向かった人物を「英雄」と見る現象が生まれている。

実際、近年でも警察や当局に対する暴力事件が起きるたびに、加害者を「第二の楊佳」と呼び称賛する声がネット上で広がるケースが続いている。

当局はこうした象徴化を警戒し、墓地の監視や拘束を繰り返してきた。

アメリカの放送局ボイス・オブ・アメリカの報道によると、2013年の時点ですでに楊佳の墓には監視カメラを設置し、厳重な監視を行っていた。当時も天津から訪れた30人以上の陳情者や、北京の芸術家6人が墓参りを行い、公安に拘束・取り調べを受けている。

本来、殺人犯に花を手向けるという光景は、決して普通のものではない。それでもなお、人々が足を運び続ける現実は、この社会が抱える歪みの深さを物語っている。

李凌
中国出身で、日本に帰化したエポックタイムズ記者。中国関連報道を担当。大学で経済学を専攻し、中国社会・経済・人権問題を中心に取材・執筆を行う。真実と伝統を大切に、中国の真実の姿を、ありのままに、わかりやすく伝えます!