ドイツで中共スパイ摘発 大学技術流出に警戒

2026/06/04
更新: 2026/06/04

ドイツ政府は最近、中国共産党(中共)による国内の大学でのスパイ活動に対し、異例の大規模捜査に踏み切った。連邦刑事局と各地の検察当局は、5つの州で大学、住宅、勤務先を一斉に捜索し、中共当局のために情報収集を行った疑いで夫婦の2人を逮捕した。

この事件により、中共が西側諸国の軍民両用技術を組織的に狙っている問題が、改めて浮き彫りになった。

夫婦がミュンヘンを拠点に情報収集

逮捕したのは、いずれも中国系のドイツ国籍を持つXuejun C.とHua S.である。ドイツ連邦検察庁の発表によると、2人は長年ミュンヘンを拠点に活動していた。ドイツの大学や研究機関が持つ航空宇宙技術、情報技術、人工知能分野の情報を収集していた疑いがある。

2人は通訳や企業関係者など、複数の立場を使い分けていた。Xuejun C.はミュンヘン北部に高級住宅を所有する一方、中国・武漢で自動車電子システム会社を経営していた。同社は対外的には「ドイツの有名自動車メーカーの元社員が創業した」と説明していた。

Xuejun C.はまた、2014年に設立した独中の「技術・教育・文化交流」協会では理事を務め、 技術者交流や学術連携を通じた対外ネットワークの構築にも関与していた。登記情報には、複数の理事の主な任務として「技術移転」と記していた。

2人はこの協会を利用してドイツ人研究者との接点を作り、「高額報酬」や「一般市民向け講演」を名目に、ドイツの科学者を中国へ招いていた。だが、教授らが現地に到着すると、聴衆は一般市民ではなく、中共の国防関連機関や軍需企業の関係者だったという。

民間交流を装い、研究者を軍需関係者と接触させる手法は、中共の情報工作としばしば指摘されていた。

アーヘン工科大学にも捜査

今回の事件では、ドイツを代表する理工系大学の一つ、アーヘン工科大学にも注目が集まっている。

同大学は、捜査員がキャンパスで証拠収集を行ったことを認めた。捜査は、同大学で先端ドローン技術を研究する教授にも及んだ。教授は2021年のコロナ禍と2022年初めに、オンライン学術講演を2回行っていた。聴講者は中国企業や研究機関の関係者だった。現在、この教授は容疑者ではなく、証人として扱われている。

ドイツの調査報道機関CORRECTIVは2024年、アーヘン工科大学と中共軍、または軍関連機関との協力関係を報じていた。少なくとも19人の教授が中国側と協力関係を持っていて、中国から多額の資金が同大学に流入した。

中共による技術窃取への警戒

ドイツ連邦憲法擁護庁(BfV)と連邦情報局(BND)は、今回の事件は孤立した個別事案ではないと警告している。北京が西側諸国で進める、広範な技術窃取戦略の一部だという。

ドイツの情報機関は以前から、中国は衛星技術や半導体分野で遅れを取っており、スパイ活動を通じて技術格差を埋めようとしていると指摘してきた。

中共は、大学や研究機関、企業、留学生などのネットワークを利用し、軍事転用が可能な先端技術の獲得を進めている。その重要な窓口の一つが、「国防七校」と呼ばれる中国の7大学である。北京航空航天大学、ハルビン工業大学、南京理工大学などが含まれ、これらの大学は中共の国防工業部門と深い関係を持っている。

中国の法律では、中国国民には国家情報活動への協力義務が課されている。ドイツの情報当局は、機微技術に接する留学生や企業関係者が、中共大使館や領事館に研究や業務の進捗を報告するよう求められるケースがあるとみている。

また、中共の国家奨学金を受けて海外に渡る一部の留学生についても、出国前に国家への協力を約束する契約を結ぶ場合があるという。こうした仕組みにより、西側の大学では研究成果の流出リスクが高まっている。

実際の事例もある。ドイツのある医療技術企業が開発した特殊合金が、中国人博士課程学生によって持ち出され、その後、中国で特許を出願したという。この合金は本来、医療器具の滅菌に使うものだが、軍事専門家は、艦船のステルス性能向上に応用できると指摘している。台湾海峡情勢が緊張する中、こうした技術流出は西側の軍事関係者が警戒を強めている。

ドイツ政府の対応に批判

ドイツ政府は、2016年以降の独中研究協力について、敏感技術分野に関する年次統計を持っていないことを認めた。政府によると、こうした研究協力は通常、機微性に応じて体系的に分類・集計していない。

そのため、独中共同研究のうち、どれだけが軍事転用の可能性を持つのか、中国人研究者がどの程度関与しているのか、政府は十分に把握していない。中共国家留学基金管理委員会(CSC)の支援を受けている学生数についても、包括的な統計はないという。

緑の党の連邦議会研究政策担当報道官、アイシェ・アサル氏は、連邦政府の研究安全保障への対応について「動きが遅く、態度は曖昧で、決意も不足している」と批判した。さらに「この事件を孤立した事案として扱うべきではない。氷山の一角である可能性が高い」と述べた。

アサル氏は、敏感分野の研究協力や軍民両用技術のリスクをめぐり、ドイツの大学が十分な支援のないまま対応を迫られていると指摘した。政府が統一的な研究安全保障の仕組みを整備しなければ、ドイツが築いてきた技術的優位は中共の軍需産業に流出し続けるおそれがあると警告した。

同氏はまた、政府が2025年12月に「国家研究安全保障プラットフォーム」を設立すると約束していたものの、現時点で本格的な実施には至っていないと指摘した。

さらに、ドロテー・ベーア連邦研究相が新設の国家安全保障会議に加わっていないことにも疑問を呈した。この会議は首相府に置かれ、今後の国家安全保障政策の中核になるとみている。しかし、研究・科学技術政策を所管する閣僚は参加していない。アサル氏は、研究安全保障の重要性を考えれば、この体制には疑問が残ると示した。

学術自由と安全保障の両立

ドイツはヨーロッパ有数の研究大国として、長年にわたり国際協力を重視してきた。しかし、中共主導の組織的な技術収奪に直面する中で、従来の開放的な研究協力のあり方は見直しを迫られている。

学術の自由を守りながら、重要技術の安全をどう確保するか。ベルリンはいま、その難題に直面している。

今回のスパイ事件は、緊張を増す独中技術関係の一断面にすぎない。地政学情勢の変化に伴い、ヨーロッパ各国では、中共との科学技術協力を見直す動きが強まっている。

王亦笑