トランプ政権の税制改革で中国企業は米補助金の対象外となり、再エネ資産の売却と撤退が加速。工場や技術は米側へ移転する一方、日本では中国依存のサプライチェーンと安全保障リスクが改めて浮上している。
2025年以降、中国によるアメリカでの再生可能エネルギー投資は、およそ90億ドル(約1兆4400億円)相当が中止・停止、またはアメリカ投資家に売却された。2022年と2023年には、こうした事例は確認されていなかった。
イギリスの経済誌『エコノミスト』は、この動きの背景として、2025年に成立したアメリカの税制改正法「ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル法」を挙げている。この法律は、クリーンエネルギー分野における中国の影響力の抑制を目的としている。
現在、アメリカの投資家が中国企業から資産を引き継ぐ動きが進んでいる。関係者によると、一部の資産は最大で40%程度の値引きで取引されているという。
調査会社ロジウム・グループによると、2022年以降、中国のクリーンエネルギー関連の対米投資プロジェクトの半数以上が中止・停止、または延期されている。
トランプ税制改革で補助金対象外に
これまでアメリカのクリーンエネルギー市場は、中国企業にとって有力な投資先だった。2022年から2024年にかけて、中国企業はおよそ155億ドル(約2兆4800億円)の投資を表明しており、それ以前の4年間の約9倍に上る。
『エコノミスト』によると、中国メーカーにとって海外市場は、中国国内の採算の厳しい競争を避ける場でもあった。特にアメリカでは、バイデン政権のもとで電池や太陽光関連分野に対する補助金が手厚く、投資先としての魅力が高まっていた。
その結果、アメリカの太陽光モジュールの年間生産能力はおよそ1.5倍に増え、2025年には65ギガワットに達した。このうち、中国系メーカーが約25ギガワットを占めている。
しかし、トランプ氏が大統領になって、2025年に成立した税制改正により、中国と関係のある企業は補助金の対象外となり、状況は大きく変化した。
法律には、いわゆる第45X条が含まれており、太陽光モジュールは1ワット当たり7セント、電池は1キロワット時当たり35ドルの税額控除が設けられていた。
中国の大手トリナ・ソーラーがテキサス州ダラスに建設した年産5ギガワット規模の工場では、この制度により年間最大3億5000万ドル(約560億円)の支援が見込まれていた。
この工場はおよそ100万世帯分の電力需要に相当する生産能力を持ち、約1200人が働いている。1日当たり2万枚の太陽光パネルを生産し、アメリカ全体の生産量の約1割を占めている。
同社は2024年に工場を建設したが、稼働開始から間もなく関連する知的財産権をシンガポール企業に売却し、その後アメリカ企業のT1 Energyがライセンスを取得した。
クリーンエネルギー関連のシンクタンク「Ember」によると、アメリカでは初めて太陽光発電の割合が石炭を上回り、電力の12.8%を占めた。石炭は12.2%だった。 写真はカリフォルニア州にある太陽光発電施設。(2026年6月17日)(Mario Tama/Getty Images)
米税制改革が招いた中国企業撤退の連鎖
補助金を受けられない場合、アメリカ企業との競争は難しくなるとみられている。
中国の工業企業ボーウェイは2026年4月、上海証券取引所への提出資料で、補助金の打ち切りによりノースカロライナ州の工場が赤字になったと明らかにした。
また、制度変更に伴う不確実性から、太陽光関連の施工業者や金融機関の一部が、中国資本のメーカーとの取引を見直す動きも出ている。
『エコノミスト』は、法改正によって数十億ドル規模の資産や技術がアメリカ側に移転していると指摘している。
アメリカのコーニング社は2025年、アリゾナ州の年産2ギガワット規模の工場を買収した。ボーウェイ社も2026年5月、ノースカロライナ州の工場を2億5400万ドル(約406億円)で売却しており、建設費を下回る水準だった。
一方で、一部の中国企業は現地企業との合弁などを通じて、補助金制度への対応を模索している。
アメリカ政府は、中国やロシアなどの事業者を「懸念される外国主体(FEOC)」に指定している。規則では、中国企業の出資比率は25%以下とされ、技術や調達面でも制限が設けられている。
また、中国から調達する原材料の割合は50%以下とされ、2030年までに15%に引き下げられる予定である。
ユーラシア・グループは、これらの規制の運用は厳格だと指摘している。
さらに、中国政府も海外投資に関する関与を強めており、技術輸出の制限などを含む新たな規則が施行される見通しである。
再エネ供給網の再編と脱中国依存の現実
中国企業の資産を引き継いだ投資家の間では、中国への依存を減らす動きがあるが、実現は容易ではないとみられている。
太陽光パネルの主要原材料である多結晶シリコンの約95%は中国で生産されている。関係者は調達先を明らかにしていないが、中国以外からの確保が競争力の鍵になるとしている。
こうした中、業界では政府による支援を求める声も出ている。
T1 Energyの幹部は、中国からの輸入品に対する関税の引き上げが必要だとの考えを示し、国内産業の競争力維持の重要性を指摘した。
同社はテキサス州オースティンで電池工場の建設を進めており、ダラスの施設と連携させる計画である。
また、別の企業もフロリダ州ジャクソンビルの工場で生産能力の拡大と電池事業への参入を検討している。
日本に広がる中国依存と安全保障リスク
日本の再エネ分野における中国系企業のプレゼンスは、「製造拠点」よりも「サプライチェーン支配」と「開発・運営への参入」が特徴である。太陽光パネルは2024年時点で国内出荷の約95%が海外製であり、そのうち8割超が中国製とされ、セル・モジュールだけでなくアップストリームのポリシリコンからウェハーまで中国企業が世界シェアの8割以上を占め、日本もその供給に強く依存している。住宅用では長州産業など国産メーカーが一定シェアを維持する一方、産業用・メガソーラー分野は低価格の中国製が主流となっている。
事業運営面では、中国国有企業の上海電力日本が青森・栃木・茨城・大阪・山口などでメガソーラーや風力事業を展開し、FITを通じて日本の再エネ賦課金が中国系事業者の収入につながる構図が生じている。
山口県岩国の基地近接案件や核燃料施設近傍の風力計画などから、環境問題に加え安全保障リスクへの懸念が高まっている。
風力では、中国の明陽智能社が富山沖の洋上風力案件にタービンを供給し、洋上分野への中国メーカーの初参入も始まっている。ただし、アメリカのように日本国内に巨大なセル・モジュール工場を構えるケースは少なく、多くは「中国本国等で製造し、日本では販売・開発拠点を置く」モデルである。
政策面では、経済安全保障推進法や外為法により、発電など基幹インフラへの外国資本参入は事前審査の対象となり、中国系を含む外資の案件は安全保障上のチェックを受けている。
さらにメガソーラー乱開発やサイバーリスクへの懸念から、政府は「メガソーラー対策パッケージ」で環境・安全・景観の規制強化や設備のセキュリティ要件を導入し、2027年度以降は地上設置の新規FIT/FIP支援を原則終了する方針である。
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