9月24日夜、トランプ米大統領とメラニア夫人は、訪米した中国共産党党首の習近平夫妻を迎え、ホワイトハウスのイーストルームで公式晩餐会を開いた。会場には、イーロン・マスク氏、エヌビディアのジェンスン・フアン氏、AMDのリサ・スー氏、アップルのティム・クック氏、OpenAIのサム・アルトマン氏、グーグルのスンダー・ピチャイ氏、メタのマーク・ザッカーバーグ氏、アマゾンのジェフ・ベゾス氏らが顔をそろえ、アメリカのテクノロジー企業を中心に経営者が多数出席した。
一方、公表された名簿に中国の企業経営者は見当たらなかった。事前にはBYDやシャオミ、CATL(寧徳時代)の経営者が同行する可能性も報じられたが、23日の習近平の到着時に、その姿はなかった。
なぜ出席しなかったのか。筆者は主に四つの理由があると考える。
米中関係は協力から対立へ
習近平が国家主席として初訪米した2015年9月、最初の訪問先はシアトルだった。ボーイングの工場を視察し、同社製航空機300機の購入を発表。アリババ、テンセント、百度(バイドゥ)、レノボ、ハイアールなどの経営者15人を伴い、米中企業家座談会や米中インターネットフォーラムにも出席した。経営者らとの集合写真は「3兆ドル(約472兆500億円)の価値がある」といわれ、米経済誌『フォーブス』は中国共産党の「ハイテク外交」と評した。新華社通信は1万1800字超の成果一覧を公表し、49項目のうち約20項目が金融や貿易に関するものだった。経済協力を掲げ、企業経営者が関係構築を後押しする訪問だった。
それから11年。2018年には米中貿易戦争が始まり、2020年にはアメリカが中国にヒューストンの総領事館閉鎖を命じた。両国関係は国交樹立以来の低水準に落ち込んだ。トランプ氏の二つの政権期を通じ、アメリカは重要分野で中国依存を減らす政策を進めている。2026年2月末時点で、財務省外国資産管理室(OFAC)の制裁対象の中国企業・団体などは1087件、商務省産業安全保障局(BIS)の規制対象は1106件、国防総省の「軍事関連企業」リスト掲載は134件に上る。半導体サプライチェーン、AI、航空宇宙などでも規制が強まっている。
今回の訪米後、新華社発表の「米中が合意した8項目の成果」はわずか500字余りだった。「米中は第二次世界大戦の同盟国だった」とする項目もあるが、当時アメリカと同盟関係にあったのは中華民国である。「ジャイアントパンダのアメリカ到着を歓迎する」との項目も、実質的な成果とは言い難い。筆者の見る限り、300億ドル(約4兆7205億円)相当の品目に双方向で関税優遇措置を講じる点で一致したほかは、具体性に乏しい約束が目立つ。ただし、これは「双方向の貿易総額が300億ドル」ではなく、双方それぞれ300億ドル相当の品目が対象と報じられている。
今や米中は互いを最大の競争相手とみなし、信頼関係も著しく損なわれている。中国にレアアースなどの交渉材料があり、アメリカが中国依存を減らすにも時間がかかる。両国が完全には切れない背景には、こうした事情があると考える。米中関係の変化も、経営者が欠席した背景の一つではないか。
共産党の統制下にある中国企業の経営環境
中国共産党の規約は、党の指導があらゆる分野に及ぶと定めている。国有企業だけでなく民間企業も党の方針に従うよう求められ、経営幹部には党員も少なくない。中国の「国家情報法」第7条は、組織と国民に国家の情報活動への支持・協力を義務づけている。第12条は情報機関と関係機関の協力、第17条は情報活動に必要な通信手段などの優先使用や徴用、第28条は情報活動を妨げた場合の責任を定めている。こうした法制度が、一部の中国企業への国際社会の警戒につながっている。
米中首脳会談を控えた9月9日、ファーウェイを巡る裁判がニューヨーク・ブルックリンの連邦裁判所で始まった。同社は企業秘密の窃取や銀行詐欺、対イラン制裁違反などの罪に問われ、米検察側は法廷で「犯罪組織」と呼んだ。
中国側はファーウェイを「民族ブランド」として重視してきた。幹部の孟晩舟の帰国を巡っては「人質外交」との批判もあった。同社の裁判が進む中、習近平が経済や安全保障に深く関わる企業の経営者を同行させ、アメリカ側と和やかに交流させるとは考えにくい。
3期目に入ってからは、経済発展より政治的な安全保障が優先されているように見える。滞在先のウォルドーフ・アストリア・ホテルの周囲には、高さ2.5メートルを超える鉄製フェンスやコンクリート製の防護柵が設けられた。習近平は晩餐会に黒い魔法瓶も持参した。厳重な警備からは中国側の警戒ぶりがうかがえる。
英語が堪能で海外の経営者とも自在に交流する馬雲(ジャック・マー)氏のような中国の経営者が同行すれば、習近平より注目を集めかねない――。そうした計算も働いたのではないか。
習近平訪米の狙いは政治的演出
習近平の出発前、9月21日に中国共産党の政治局会議が開かれ、党の規律強化を主要議題とする第20期中央委員会第5回総会を10月26〜29日に開くことが決まった。中央軍事委員会副主席だった張又侠と、同委員会統合参謀部参謀長だった劉振立の党籍剥奪も発表された。
第20回大会以降、中国軍では幹部の失脚が相次いでいる。李尚福・元国防相は執行猶予2年付きの死刑判決を受けた。何衛東や苗華も「党が軍を指揮する」原則を著しく損なったと批判された。今年1月には張又侠と劉振立への調査が明らかになり、摘発は軍の最上層にまで及んだ。張又侠は革命功労者の子弟で、自身も父親も上将に昇進した軍人である。実戦経験があり、習近平の一族とは数十年来の関係がある。張又侠まで失脚し、指導部内には強い動揺が広がったはずだ。
米中関係が悪化していても習近平が訪米したのは、大国の指導者として手厚く迎えられることが国内での権威保持に重要だったからだと筆者は考える。一方、不在中に国内で予期せぬ動きが起きることも警戒していたのだろう。訪米前に政治局会議を開き、処分を公表したことには、反対勢力を牽制する狙いもあったのではないか。
今回の訪米で習近平が求めたのは、実質的な経済成果以上に、帰国後に国内へ示せる華やかな外交の場面だったのではないか。そうであれば、企業経営者を同行させる必要はなかったとも考えられる。
経営者を取り巻く厳しい環境
晩餐会では、トランプ氏と習近平の両夫妻と同じテーブルに、マスク氏、フアン氏夫妻、スー氏夫妻、クック氏らが着いた。ヴァンス副大統領やルビオ国務長官ではなく、企業経営者とその家族が両首脳を囲んだ。フアン氏とスー氏はともに台湾で生まれた。出身地にかかわらず事業で実績を上げた人々が高く評価される、アメリカ社会を象徴する光景だった。
中国では、事業を続けるうえで権力との距離が大きな意味を持つ。当局の方針に逆らったり摘発されたりすれば、企業や経営者の立場は一変する。第20回大会以降、国家電網の辛保安・元会長、国家開発銀行の欧陽衛民・元総裁、中国航空工業集団の譚瑞松・元会長ら国有企業の幹部が相次いで失脚した。民間でも、臻鐳科技の郁発新会長、三安光電の創業者・林秀成、大午集団の創業者・孫大午らが拘束されている。
2020年に馬雲氏が上海の金融フォーラムで金融規制を批判して以降、民間企業への締め付けは続いてきた。経営者にとって、事業や財産を守り、身の安全を確保することは切実な問題である。当局の意向に沿わない限り、晩餐会への出席は得られる利益よりリスクのほうが大きいと感じるだろう。
問われているのは晩餐会への出席ではない
中国共産党は今、党内や軍内の統制、国民の支持を巡る深刻な問題に直面している。習近平は来年の第21回党大会を見据え、4期目続投を確かにするため、第20期中央委員会第5回総会を機に、党・政府・軍で人事刷新に乗り出す可能性がある。
中国の企業経営者にとって、今は改革開放以降でも特に厳しい時期である。晩餐会に出席できるかどうかよりも、事業と財産、そして自らの身を守れるかどうかのほうが、はるかに重要なのだ。

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