何清漣:高速鉄道事故から中国モデル経済を分析

2011/08/04
更新: 2011/08/04

【大紀元日本8月4日】高速鉄道によって中国は「世界をリードする同領域の大国」に仲間入りした。しかも、中国政府はその知的財産権を主張している。まさに「中国モデル」のあらゆる特徴を一身に受け、今日の中国において、知的財産権や、政府投資および危機対応など各方面の資質を現している。7.23の重大事故は中国の高速鉄道の粉飾された仮面を破っただけではなく、「中国モデル」の華麗な衣をもはがした。そこで、各方面から中国高速鉄道を分析する必要性を感じた。

巨大市場を餌に技術を取り込む罠

「中国モデル」経済の最大の特徴は総じて、「自力本願」「自主開発」である。「自主開発した新製品」とされている中国高速鉄道は、誕生したその日から、その知的財産権に関する議論が絶えなかった。

今回の重大事故発生後、多くの国際メディアは、中国の技術は他国の技術を組み合わせたものだと繰り返し報道した。その焦点は、日本のメーカーがずっと注目し抗議してきた安全運行の問題だ。

例えば、日本経済新聞の7月26日の社説は次のように報じた。中国高速鉄道の車両は、日本や、ドイツ、カナダの技術を取り入れて、各種の技術が混ざっている。また、安全運行に必要な先端制御システムは中国が独自に開発したものであり不健全だ。今回の事故もやはり、このシステムの問題点を露呈した。

中国政府が技術の導入での「持ってこい主義」を慣例化させ、しかもまったく悪気が無い。ここでその点を詳しく分析する。

劉志軍氏が中国鉄道部のトップに就任したのは、まさに中国の長距離鉄道運輸の世代交替が余儀なくされる時期だった。当時、高速鉄道の国際市場は飽和状態にあったため、世界大手4社は中国という新興市場に強い関心を寄せていた。この市場は一体どれほどの規模であるのか。試算によると、2020年までに、中国高速鉄道の総距離は1.8万キロに達し、世界総計の5割強を占め、キロあたりの投資額は1億元(1元は約12円)を超える。

知的財産権を「国際資本による悪意的な独占」と認識している中国政府からみれば、それほど巨大な市場の見返りとして、技術を提供してもらうのは至極当然なことである。そのような状況下で、中国政府は、巨大市場を獲得しようとするドイツと日本に競い合わせ、一連の交渉で度々譲歩を引き出させた。最終的には、中国は各方面から持ってきた技術を組み合わせて、(自主開発の)中国高速鉄道を作り上げた。その上、世界に中国の技術を逆輸出しようとし始めていた。

このような図々しい投機的なやり方は必然的に、中国の高速鉄道の安全問題を引起こした。一部の専門家が次のように指摘している。「大規模なプロジェクトであるため、車両、線路、信号などのハードウェアのほか、安全制御システムなどのソフトウェア、日常の点検、緊急時の対応、重大事故の事前発見など長年の経験と教訓も必要である」。ここ30年間、うまい汁を吸ってきた中国政府は、高速鉄道もその他の技術同様に、安全運行の自動制御システムを、ゆっくりと「模倣していこう」と考えたのであろう。

こんな甘いことはこの世にはありえない。今回の事故は実質上、盗用した技術による「自主型技術開発」の代償である。ただ、心を痛めているのは、その代償を支払うのは国ではなく、国民の命であること。

公共事業をめぐる汚職の罠

「中国モデル」のもう一つの特徴は権力を私物化すること。幹部の権力が私利私欲を貪るための道具となった。

中国は世界大手のハードウェアだけを欲しがり、安全運行の自動制御システムというソフトウェアへの巨額投資を省きたい。劉志軍・鉄道部長をはじめ、中国鉄道機構の利益集団は、国の予算を節約しようとしたのか。もちろん、そんなはずはない。この利益集団の汚職の記録から、彼らがこの部分の投資を省いたのは、この金を着服するためだったことが明らかになった。

この金は一体どれほどの額であるのか。劉志軍氏は2003年3月に鉄道部長に就任し、その3年後には、鉄道建設のラッシュを迎えた。中国政府が2.2兆元の予算を組み、劉志軍氏は自らプロジェクトの分配と指揮を取った。彼と丁書苗氏との関係はまさに権力私物化の典型的な象徴である。劉氏は権力を握っているが、現金化するには仲介が必要だ。丁書苗氏はその役目を果たしていた。

この額はあまりにも巨大であり、分与に参加できる幹部らは億単位の金を着服できた。丁書苗氏への「仲介手数料」は8億元で、劉志軍氏本人の収賄額は数十億元に達した。その部下の張曙光氏の国外銀行にある貯金は28億ドルに上り、妻子は皆早い時期に国外に移住していた。劉志軍氏を中心とする利益集団には、その弟の劉志祥氏、鉄道機関の幹部数人も含まれている。問題の本質を探ってみると、中国モデルの最大の特徴は、利益集団が国家を捕虜にしたこと。

公共事業が幹部汚職の温床になった以上、その品質と安全性が保障されないのは至極当然だ。これは、橋が折れたり、道路が崩れたり、建物が倒壊したりする体制的な原因である。

人権と命を軽視する罠

中国モデルのもう一つの特徴は、人権と命を軽視すること。この点は、高速鉄道の技術導入と運行過程において露呈した。つまり、鉄道管理機関は最初から、安全運行を主要な要素と考えていないこと。日本は車両のみを提供、信号などの設備を担当しない。2008年以降、中国政府は鉄道の目標速度を大幅に上げ、それがJR東日本の技術の対応範囲を超えていたため、JRと川崎重工は中国政府に異議を申し立てていた。結果として、「中国側がその全責任を負う」という備忘録を交わした。JR東海の葛西敬之会長は昨年、中国は高速鉄道の安全運行を軽視し、速度は臨界に達しており、改良した技術も外国のものを盗用しているなどと批判した。中国政府はそれを気にも留めなかった。

世論をコントロールして、真相を隠ぺいする。中国共産党は設立当初からずっとこれを繰り返してきた。インターネットが世界の透明度を大きくアップした今でも、中国政府は依然としてその悪習を改めようとしない。7.23の重大事故では、まだ死傷者を救出しているのに車体を埋め、事故責任の証拠を隠滅しようとしている。

事故発生の翌日、中国共産党機関紙「人民日報」、「経済日報」、「光明日報」、「解放軍報」のトップは、中央軍事委員会の式典だった。メディアによる事故の報道は厳しく制限されている。今回の事故の真相は、南部地区のメディアや、インターネットのミニブログでしか報じられていない。この現状について、私はミニブログで「情報のフィードバックが守られない国家はすでに瀕死状態」と題する評論文を発表した。

国を人体に例える場合、政府、立法機関は大脳の中枢であり、メディアは神経系統で、人民は全身の筋肉だ。肉が生きていれば人間も生きている。今の中国は筋肉が激痛し腐乱している。インターネットメディアがどんなに情報を暴露しても、大脳の中枢の唯一の反応はそのフィードバック・システムを切断すること。このことは、近年中国で災難が頻発し続けているのに、状況がまったく改善されない根源である。

このような国と民に災いをもたらし、官僚、金持ちにだけ利益を導く「中国モデル」、その存続の必要性はあるのだろうか。

(翻訳・叶子)
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