南シナ海、周辺諸国を巻き込む米中衝突の危険高まる きっかけは「事故」=専門家

2020/07/15
更新: 2020/07/15

南シナ海を舞台にした米中の衝突の危険性が高まっている。東南アジア諸国は、米中紛争に巻き込まれる可能性もある。専門家たちは、偶発的な事故により、紛争になる可能性があると口を揃える。

自己主張を強める中国は、他の主張国が石油探査を希望する海域に調査船を派遣し、沿岸警備隊や準軍事漁船を繰り返し配備してきた。その上、7月初旬にはパラセル諸島の近くで海軍演習を行い、ベトナムとフィリピンから抗議を受けた。

中国の南シナ海での行動に、米国と同盟国は対応している。米国は7月はじめ、数年ぶりに空母2隻を南シナ海に投入し、パラセル諸島での中国の演習周辺に接近した。米海軍の空母打撃群は、日本の海上自衛隊とも共同演習を実施した。さらに、日本とオーストラリアは最近、新たな防衛戦略を発表し、中国に対する脅威を強調している。

海上での軍事行動の高まりは、外交の舞台にも響いている。今週、日米豪の防衛相は、南シナ海や東シナ海における「係争地域の継続的な軍国主義化」「海洋警備局の艦船や武装漁船(海上民兵)の強圧的な使用」、そして周辺諸国の資源探査の妨害を批判した。中国は、中国にとっての「非同盟国」が地域の安定を脅かしていると切り返した。

香港、新疆ウイグル自治区の人権侵害をめぐり、米国は中国当局や企業に制裁を科した。7月13日、中国外務省は、中国人権問題に積極的な動きをしてきた米議員4人に対して、入国制限などの制裁を発表した。加えて貿易戦争もオーストラリアやカナダに飛び火しており、米中関係の緊張が高まっている。

 有力シンクタンク・ランド(RAND)コーポレーションのアンドリュー・スコベル(Andrew Scobell)研究員は、世界は、米中両国の南シナ海での紛争のリスクは低いと思い込んでいる傾向があり、それ自体が危険であると指摘する。

「エスカレートしていくことを気にかけず、いつも通りにことが進むとの感覚があることを、私は懸念する」とスコベル氏は言った。

はじまりは「事故」繋がらないホットライン

ラジオ・フリー・アジアの取材のなかで、インタビューを受けたすべての専門家は、南シナ海での戦闘の最も可能性の高い衝突の「着火剤」となるのは、事故だと考えている。

例えば、2001年の米電波情報収集機EP-3事件をスコベル氏は取り上げた。同機がパラセル上空で中国の戦闘機J8と空中衝突した事故だ。中国のパイロットが死亡し、米軍機は中国の海南島に不時着したが、中国側に乗組員の身柄を拘束された。

この事件は軋轢が大きくなることなく沈静化したが、スコベル氏は、今の状況はより不安定になっており、もし同様の問題が発生した場合、米中双方には内外から解決の圧力がかかるだろうと推測する。

米国が空と海のパトロールを頻繁に行い、中国が準軍事的な活動を続けるようになれば、船同士が衝突したり、互いに引き下がろうとしなくなったりする、と複数の専門家は指摘する。危機が発生した場合、中国と米国の間には「ホットライン」があるが、スコベル氏によると、この直接の連絡手段は不完全で、時間がかかり、頻繁に停止されるという。

「米政府関係者をイライラさせるのは、中国当局者の電話番号を知っていて、名刺を交換して面識もあるのに、危機の際に電話をかけても誰も出ないことだ。ホットラインはあるが、機能していない。よくあることだ」とスコベル氏は言う。

スコベル氏によると、その理由は文化の違いにあるという。中国の軍関係者は、有事なら米国と協議しないと考えている。

「中国人民解放軍の司令官にとって、自分の命令から少しの逸脱も許されない。一線を越えたことで平手打ちされることを本当に心配している」とスコベル氏は言う。

このことは、中国の海軍将校が米国の艦船を巻き込んだ海上事故にどのように対応するかに、大きな影響を与える。米国海軍では、将校や艦長が柔軟的に対応しているのに対し、中国の人民解放軍海軍(PLAN)には、そうした臨機応変さはないという。

「上からの厳格な命令があり、状況が変化しても、その命令から逸脱できない。この態度にはかなりの危険をはらんでいる」とスコベル氏は述べた。

南シナ海で米中衝突の高まり

南シナ海がホットスポットになりうるのは理由がある。6つの政府が無数の小さな島やサンゴ礁の領有権を争っているが、この地域は豊富な漁場であり、海底には石油やガスといった天然資源も眠っている。世界のシーレーン(主要航路)でもあるマラッカ海峡を含み、年間数兆ドルもの世界貿易が通過する。

南シナ海での最後の大規模な銃撃戦は、1988年、中国とベトナムとのスプラトリー諸島のジョンソン南礁を巡る衝突だ。この時、サンゴ礁に上陸していた64人のベトナム人が、中国海軍船の銃撃により死亡した。

東南アジア諸国連合(ASEAN)は、海上事故のリスクを回避するため、行動規範(Code of Conduct、CoC)を中国と交渉することを20年近く熱望してきた。ASEANのマレーシア、ベトナム、フィリピン、ブルネイ、インドネシアは、南シナ海の領有権を主張しており、さらに、中国が領有権を主張する国境もある。6月末、ASEANは、CoCの交渉を完了させたいとの意向を改めて中国に伝えている。

オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)の上級アナリスト、フォン・レ・トゥー(Huong Le Thu)博士は、CoCによって南シナ海が安定化するとの希望を抱くのは危険だとみている。

「中国とASEANの上級閣僚会議で、お互いの善意とCoCへの協力を再確認した同じ週に、中国はベトナムの排他的経済水域に船を送り込み、他の東南アジア人に嫌がらせを続けた」と、トゥー博士は述べた。

中国に立ち向かう力はない東南アジア

中国に立ち向かう能力を欠く東南アジア諸国は、米国との協力関係を強化することが自国の利益を守るための最善の方法であると考えている国もある。マレーシア・パーリス大学地政学戦略専門家であるモハマド・ミザン・アスラム(Mohamad Mizan Aslam)氏は語る。

ASEANと米国の関係の修正として、最も顕著な例は、6月、フィリピンによる米軍の「訪問軍地位協定(VFA)」の破棄を保留にした決定だ。アスラム氏は、これにより、フィリピンは中国を遠ざけたとみている。

ASEANは、南シナ海で米中紛争に巻き込まれることを恐れている。

レ・トゥー博士は、地域の国々は「自分たちの利益のために緊張を煽るのではなく、緊張を管理するための戦略と長期的な計画を持っている米国と一緒にいた方が安心できるだろう」と述べた。

(翻訳編集・佐渡道世)

関連特集: 浸透工作