「未来の支配」をめぐる米中AI合戦(3/7)

2022/01/01
更新: 2022/01/01

米国のシンクタンクである安全保障・先端技術研究センターは、中共は人工知能の研究開発に20億ドルから84億ドルを投資していると推定する。

財務データ収集・分析業務を行う米国の調査会社「CBインサイツ」によると、AIスタートアップは2019年に266億ドル(約2.9兆円)を調達し、世界中で2200件を超える取引を行ったという。そのうち、米国が39%、中国が13%、次いで英国が7%、日本が5.3%、インドが4.9%を占めている。

AIは独立した技術ではなく、5G、クラウドコンピューティング、ビッグデータ、モノのインターネット(IoT)、複合現実(MR)、量子コンピューティング、ブロックチェーン、エッジコンピューティングやその他の新世代の情報技術など、ハイテク産業全体の一部を構成している。AIとハイテク産業は、社会経済全体の未来を相互に支えている。

中国はいまや中共主導のAI専門家による主要な実験場だ。清華大学の「情報工学実験クラス」は、世界的に有名なコンピュータ科学者であるアンドリュー・ヤオ氏によって2005年に設立された。そして、北京大学の「チューリング人材育成計画」は、米国の計算機科学者のジョン・ホップクラフト氏が2017年に開いた。ホップクラフト氏は学部から博士課程まで自ら指導し、AI学者を育成してきた。

アンドリュー・ヤオ氏とジョン・ホップクラフト氏は、ともに米国計算機学会(ACM)の「チューリング賞」を受賞している。20世紀の数学者アラン・チューリング氏の名を冠したこの賞は、計算機科学のノーベル賞に相当すると言われている。

ヤオ氏は台湾市民であり、帰化した米国市民でもあったが、中国国籍を取得するために米国と台湾の国籍を放棄した。台湾大学物理学学士号を取得した後、1972年にハーバード大学で物理学博士を、1975年にはイリノイ大学で計算機科学博士号を取得した。MIT、スタンフォード大学、カリフォルニア大学バークレー校、プリンストン大学などで教鞭を執ってきた。2004年には北京の清華大学の教授になった。

ホップクロフト氏は米国の著名な理論計算機科学者である。1962年にスタンフォード大学で修士号を、1964年に博士号を取得した。プリンストン大学とコーネル大学で教えてきた。ホップクロフト氏が著した「計算理論」や「データ構造」の教科書は、計算機科学の分野で標準的なものとされている。

現在、中国には約2600社の人工知能関連企業がある。そのほとんどが北京市海淀区の技術ハブにあり、清華大学、北京大学、北京航空航天大学などと密接に連携している。

未来をコントロールする

人工知能(AI)とは当初、人間の知能の模倣し、機能を拡張するためのアイデアだった。しかし現在のAI技術は普遍的な分野で急速に使用されている。ハーバード・ビジネス・レビューによると、製造、サービス提供、募集、通信、軍事、金融業界などの分野で人間に取って代わり、多くの分野で莫大な金銭的利益を生み出している。

国際的な調査大手デロイトがまとめた2019年の報告書によると、専門家は、人工知能(AI)をより大規模に使用することで、2030年までに世界経済に15.7兆ドルもの利益をもたらすと予測している。

いっぽうで、AIの発展は地政学的な争いも生み出している。AP通信の報道によると、ロシアのプーチン大統領は2017年の学生との会合で「この分野でリーダーになった者が世界の支配者になる」と発言した。

さらにプーチン大統領は、「ある政党のドローンが別の政党のドローンによって破壊されたとき、その政党は降伏以外の選択肢しかないだろう」と述べ、将来の戦争がドローンによって行われることを予測した。

同年、中共はAIの発展を国家戦略に取り入れ、2030年までに世界のリーダーになるという目標を掲げた。

AIの分野では、米国が長らくリーダー的存在だった。中共に先駆けて、トランプ政権は2016年にすでに「国家AI研究開発戦略」の概要を発表していた。

しかし、中共は近年の急速な拡大により、AI分野で米国の大きな競争相手となっている。デロイトの報告書によると、2015年から2020年までの世界の人工知能市場の年平均成長率は26.2%であるのに対し、同時期の中国のAI市場の成長率は44.5%だった。また、デロイトの別の報告書では、2025年には中国の人工知能産業の規模が850億ドルを超えるとしている。

スタンフォード大学の「2021年AI指数」報告書によると、2017年以降、中国のAIに関する論文の出版数は米国を上回っている。2020年の中国のAIに関する論文は、世界全体の18%を占め世界第1位だ。しかし、AIに関する論文の被引用数については、2020年に米国が全体の40.1%を占め、中国の11.8%を大きく引き離した。被引用数は、論文がAI分野の研究開発(R&D)に与える影響を表す。

(つづく)

武田綾香
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