国連事務総長「化石燃料拡張のために新たな投資をしてはいけない」

2022/05/12
更新: 2023/04/18

グテーレス国連事務総長は、「化石燃料拡張のための新たな投資をしてはいけない。民間金融は石炭から完全に手を引かなければならない」と発言した。貧困国などは石炭など化石燃料に依存しており、ロシアによるウクライナ侵略で欧州をはじめとする世界的なエネルギー価格の高騰がみられるなか、国連のこうした指針は現実から遊離しているようだ。

「あまりにも長い間、金融サービス部門は世界を化石燃料漬けにしてきた。今や、科学的かつ道徳的な要請は明確である。民間金融機関は石炭部門に対する資金供給を停止し、積極的に自然エネルギーへと移行する必要がある。彼らにはそうするパワーと責任がある」とグテーレス氏は述べた。

グテーレス氏の発言は、5月9日に発表された世界教会協議会(WCC)、イスラム長老評議会、ニューヨーク・ボード・オブ・ラビーズ、そして国連環境計画による声明に刺激されてのものだった。

彼らは「クライメイト・レスポンシブル・ファイナンス」の声明の中で、「2022年以降の石油・ガス探査や生産プロジェクト、特に、北極圏での類似事業に対する資金提供を中断させること、さらに、新たな石油・ガスプロジェクト、探査、採掘に対する融資の停止、石炭事業については、すべての融資を速やかに廃止するよう」金融機関に要請した。

金融機関に対しては、国連が主導する金融グループ「ネットゼロ・バンキング・アライアンス」などに参加するよう要請した。このアライアンスに加盟している銀行は、世界の銀行資産の約40%を支配している。

しかし現実には、ロシアによるウクライナ侵略やコロナ禍によるインフレなど、エネルギー価格は高騰を続ける。石炭をはじめとする化石燃料への取り扱いは、いまもなお重要であるとする国は少なくない。例えば、インドは、閉鎖された100か所以上の炭鉱で採掘を再開する意向を示している。欧州の多くの国でも、石炭火力発電所の再稼働や石炭依存度の低下は難しいとみている。また、米国のエネルギー情報局は天然ガス価格が下がるまで、石炭の消費量は増え続けるだろうと予測した。

価格変動が起きたため、化石燃料企業を応援するような発言をする議員もでてきている。

2021年後半の公聴会で、アレクサンドリア・オカシオ・コルテス(AOC)らの民主党下院議員は、国連の指針に則せず石油・ガス生産の削減表明もしていない米国のエネルギー企業を非難した。

コルテス氏は、エクソンモービルのダレン・ウッズCEOに質問した後、「遠い将来のネットゼロではなく、この米国と世界でCO2排出量の大幅な削減へと邁進することが非常に重要だ」と述べた。

いっぽう、フランク・パローン民主党議員は4月、石油会社の経営者たちにこう述べた。「あなた方の高収益は、米国民の犠牲の上に成り立っている。だから株主利益ではなく、国民が望んでいるように積極的な増産を希望する」と。

世界教会協議会(WCC)は、特に冷戦時代、暴力的な左翼政治組織とのつながりが指摘されていた。例えば、1978年には、ロバート・ムガベ氏が率いるジンバブエのゲリラ組織「パトリオティック・フロント」に8万5000ドルを提供していた。

ムガベ氏はマルクス・レーニン主義者と自称していたが、その後ジンバブエの大統領になり、ハイパーインフレを引き起こし、白人農民からの土地収用、ンデベレ族のグクラフンディによる大虐殺を指揮した。

また、1980年代初頭、ニカラグアのマルクス主義者サンディニスタ氏がキリスト教徒を組織的に迫害しているにもかかわらず、WCCは支持を表明していた。カトリックの司祭とモラヴィア教会の牧師が相次いで逮捕されたにもかかわらず、アーネスト・レフィーバー氏は1988年版の「ナショナル・インタレスト」に迫害を否定する記事を載せたこともあった。

今日、WCCは、世界経済フォーラム(WEF)によく顔を出している。2018年、その当時の事務総長であるオラフ・フィクセ・トゥヴェイト牧師は、WEFで核兵器反対のスピーチを行った。その国際問題担当ディレクターのピーター・プロヴェ氏は、信仰の役割に関するWEFのグローバル・アジェンダ評議会の委員を務めている。

米国石油ガス協会ティム・スチュワート会長は、グテーレス氏の発言とWCCの炭化水素姿勢に対して、強い反対の声を上げた。

「グテーレス長官とWCCには敬意を表すが、すべての信仰の聖典には共通の道徳的要請として『あなたがたのなえた手を真っすぐにしなさい(新約聖書ヘブライ人への手紙12-12)』という「みことば」が掲げられている。すべての信仰者は貧しい人々や虐げられている人々を貧困から救い出すよう、神から命じられている」とスチュワート会長は述べた。

「この国連の行動計画はそれとは全く逆のことを行おうとしている。投資制限によって化石燃料エネルギーへのアクセスが制限されてしまえば、最貧困層を先々の世代まで、エネルギー貧困の状態に追いやってしまう。気候変動という偽りの聖職の衣をまとうことで、国連は、意図したかどうかに関わらず、貧しい人々を抑圧する役割を担っている」。

※一部表現を変更しました。

エポック・タイムズ記者。国政を担当し、エネルギーと環境にも焦点を当てている。核融合エネルギーや ESG から、バイデンの機密文書や国際的な保守政治まで、あらゆることについて書いている。米国シカゴ拠点に活動。
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