米軍と台湾軍の連携が進む 裏にある意図とは

2023/03/18
更新: 2023/03/16

米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)」は2月23日、米国は200人の軍隊を台湾に派遣し、台湾軍の訓練強化や助言の任務にあたると報じた。

これは良い展開だ。任務にあたる100人や200人の米部隊が適切に配置されれば、プラスの効果、ずっと大きな効果を発揮することができる。特に、米国は台湾軍との軍事演習をさらに重ねることができ、よく言えば、台湾軍の教官を育成することにもなる。そして今度は彼らが台湾の軍隊の中で新しい概念を浸透させていけるのだ。

米部隊派遣の重要性

まず、台湾軍は過去40年間、米軍を含めどんな国とも意義のある軍事交流を行ってこなかった。米軍との「合同」軍事演習は、2017年と2021年の2回、台湾海兵隊と米海兵隊間で小隊規模に行われた。

当然だが、40年以上にわたる孤立の結果、台湾の防衛力は低迷し、ほとんど化石化してしまった。それは、他のチームと対戦することのない野球チームが、自分たちの「チーム内」だけで試合を行うようなもので、実力が改善されるとしても、ゆっくりでしかない。

台湾の軍隊は、できるだけ多く他国の軍隊と直接交流する必要がある。そして、この合同演習はそのスタートとなる。

また、米国人の台湾で過ごす時間が増えることには、心理的な側面もある。

数十年にわたる孤立は、台湾の自信と自衛能力、意欲を失わせた。

もし、「自分たちは嫌われ者ではないんだ」と台湾人が感じ、米国人が支えてくれているという感覚を得られれば、軍や政府、そして一般市民は強い自信を持てるようになる。これは、台湾の軍隊が学ぼうとする新しい戦術、技術、手順と同じくらい重要である。

次のステップへ

台湾に駐留する米軍の規模は大きくなるのだろうか? その可能性はある。しかしその前に、この第一陣が事務作業などではなく、有益な効果をあげていることを確認することだ。

「新しく」米側から何人かが、将来の不測の事態に備えて台湾軍との共同計画に携わってくれることを願っている。米台合同の作戦計画はこれまで優先順位が高くなかったようで、中国が何かを仕掛けてきてから「即座に応戦」、という考え方のようだ。

また、数人の米訓練官を派遣して、台湾の予備役の能力を改善させるのも有意義であろう(予備役にはさまざまな配慮を必要とする)。また、民間防衛のための支援も必要となるだろう。

「間違った」兵士が数千人いるより、「ふさわしい」米軍兵士が100人、200人いる方がよっぽどいい。

「ふさわしい」人とは、どのような階級であれ、外国へ派遣された際に「魔法」を使える人たちのことだ。「魔法」って? 彼らは自分のことをよく知っていて、直接の監督なしに活動することができる。しかしそれ以上に、現地の人々が彼らのそばにいたいと思い、彼らの話を聞きたいと思い、彼らのようになりたいと思う人たちなのである。

このような人間は、想像以上に少ない。

WSJによると、台湾軍(規模は不明)はすでに米国でミシガン州兵と演習を行っている。これは良い知らせだ。そして、その規模は大隊サイズ(約600人の部隊)にまで拡大するかもしれないと報じている。

機会があれば、かなり大規模な部隊として活動することも重要である上、より多くの部隊を異なる環境、新しい演習環境にさらすことも大切だ。そうやって軍隊は成長していく。米国人と一緒に行動することで、さらに成長していく。

また、米国防総省がこれまでみられなかった主導性を発揮しており、おそらく台湾海軍と海兵隊がグアムや北マリアナ諸島に招待され、米海軍や海兵隊と人道支援や災害救助演習を行うことになるみたいだ。そうなれば、日本の自衛隊も参加するかもしれない。

隠された意図とは

米国の対台湾政策によくあることだが、ある種の分裂症がみられる。

WSJの記事で引用されている匿名の米国政府関係者によれば、中国側が不愉快に思うようなことはしないように細心の注意を払っているとのことだ。

彼はこの演習について、「判断が難しいのは、何が本当に中国にとって不愉快なことなのか、ということだ」といい、「しかし、これは常に評価され、検討されている問題であり、特に台湾への支援に関わるすべての決定についてそうである」と述べた。

もちろん、第一海兵師団が台湾に配備されるわけではないし、誰もそれを求めてはいない。しかし、このような態度は憂慮すべきものであり、危険である。それは米国の台湾への支持がいまだに、そして究極的には、中国共産党政権にどう思われるかという恐怖によって手錠をかけられていることを示唆している。

米国の政策立案者は、5歳の時に校庭の遊び場で学んだかもしれない教訓を思い出すべきだ。

いじめっ子、つまり中国共産党のような政権を相手にする場合、戦う気があるのかどうか、ということだ。北京のいじめっ子が大声で叫び、人民解放軍(PLA)を出動させて台湾を脅し米国との核戦争を予告する事態になり、その際に米国が引き下がる様子を示せば、中国は優位に立つことだろう。そして、米国がアジアから手を引くことを望まない限り、中国はその有利な立場を存分に発揮し、銃撃戦の可能性をより高めるだろう。

要するに、米国が台湾のために戦う意志が強ければ強いほど、実際に戦争が起きる可能性は低くなるということだ。

米軍と台湾軍の交流の活発化は良い傾向だ。しかし、それは数十年遅れで始まったばかりで、方程式の一部に過ぎない。

さて、米政府が本当に有益なことをしたいのなら、台湾に自由貿易協定(FTA)を提案し、台湾経済を強化することだ。それは軍隊を強化することと同様に重要なことだ。FTAは、バイデン政権に実行する意思があるかどうかにかかっている。

(翻訳・大室誠)

退役米海兵隊員であり元外交官、ビジネス・エグゼクティブ。長年にわたりアジア太平洋地域で活動してきた。太平洋海兵隊の情報部予備部長を務めたほか、駐日米国大使館の武官を歴任。安全保障政策センター(Center for Security Policy)の上級顧問を務める。
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