焦点:アマゾンの違法金採掘、水銀汚染で生態系に深刻な脅威

2023/08/14
更新: 2023/08/14

[ロスアミーゴス生物学ステーション(ペルー) 5日 ロイター] – ある日のペルーのジャングルで、4人の科学者が小さなネズミを捕獲器に入れて麻酔をかけ、背中からやさしく毛を抜く作業に取り組んでいた。採取した毛はロスアミーゴス生物学ステーションの研究所に運ばれ、このネズミが金採掘に伴う水銀汚染の新たな犠牲者かどうか、調査されるのだ。

ロスアミーゴスはペルー南東部マドレ・デ・ディオス地域の熱帯雨林に位置する。小規模な金採掘の中心地で、約4万6000もの業者が操業している。

そこで行われている違法採掘やほとんど規制がない形での採掘による水銀汚染が、アマゾン熱帯雨林で生息するさまざまな哺乳動物に悪影響を及ぼしている実態が今、冒頭で触れたネズミの毛の入手などによる世界初の幅広い研究調査を通じて、解明されつつある。ロイターは、この調査の暫定的な結果内容を入手することができた。

水銀に汚染された水や食物を人間や一部の鳥類が体内に取り込むと、神経系の疾患や免疫不全、生殖機能の喪失といった問題を引き起こすことは既に分かっている。

ただ、アマゾン熱帯雨林の他の動植物に水銀がどのような影響を及ぼすのかは、まだ、全容が知られていない。環境破壊により絶滅の危険性が高いとされるアマゾンの動植物は1万種類以上に上る。

ロイターは今年5月下旬、マドレ・デ・ディオス地域で科学者が実施した3日間の研究調査活動に同行し、幾つかの発見を共有した。そこで判明したのは、違法な金採掘による水銀汚染がネズミからオセロット、ティティモンキーまでさまざまな生物に広がっていたという事実だ。

サンディエゴ動物園野生生物連盟とカリフォルニア州の非営利団体フィールド・プロジェクツ・インターナショナル、地元ペルーの団体で構成されている調査チームは、ロスアミーゴス生物学ステーションの周囲4.5平方キロで少なくとも260種を代表する2600余りの動物から毛や羽毛のサンプルを採取し、その中にはエンペラータマリンや茶色オマキザルなども含まれている。

これまでに330のサンプルをテストし、ほぼ全てで水銀汚染が確認された、とサンディエゴ動物園野生生物連盟の生物学者ムリナリニ・アーケンズウィック・ワトサ氏は話した。

同氏は、具体的にどういった種が該当するかについては、査読済み論文が公表されるまで明かせないとしている。

ただ、コロラド大学ボルダー校の生物学者らが昨年、ロスアミーゴスの同じデータを用いて記した論文を見ると、同ステーション近くに生息する鳥の体内の水銀レベルは、金鉱からずっと遠い森林にいる鳥の最大12倍が計測された。

アマゾン熱帯雨林を抱える8カ国の首脳は7日からの週にブラジルで会合を開き、違法な金採掘に歯止めをかける方法を議論する予定だ。

<活発な金採掘>

アマゾン熱帯雨林で活動する零細鉱山業者ないし手作業的な採掘者は、大半が自然保護区で違法に操業するか、保護区外で政府のはっきりした許可を得ずに操業している。

マドレ・デ・ディオス地域の大部分を含めた政府指定の「鉱業回廊」にさえ、規制監督を受けない非正規の業者が存在する。

何人かの研究者の話では、多くの零細業者は環境保護規制を無視し、堆積物から金を分離するために有害な液体水銀を使っているという。

この水銀の一部が周辺の自然環境に吸収され、絶滅危惧種に取り込まれるケースも出ている。アーケンズウィック・ワトサ氏は「誰かが金のエンゲージリングを買う際には、アマゾンの汚染が少し進む契機になりかねない」と警鐘を鳴らす。

マドレ・デ・ディオス地域では、世界金融危機と大不況によって安全資産とされる金に世界的な資金流入が起きた2008年に手掘りが活発化。これらの採掘者の動向を正確に追うのは難しいが、手掘り金協会(AGC)によると、世界の金生産全体に占める手掘り作業の割合は約20%で、金額ベースで300億─400億ドルに上る。年間採掘量は2011年の約330トンから今年は500トン前後に増えている。

米国際開発庁が昨年公表した報告書に基づくと、マドレ・デ・ディオス地域で正式な採掘許可を得ている業者は6000程度なのに対して、違法もしくは非正規の業者は4万前後だ。

ペルー政府は2019年、マドレ・デ・ディオス地域に緊急事態宣言を出し、1500人の警察官と兵士を配置して違法採掘の取り締まりに乗り出している。

これはある程度効果を発揮し、人工衛星監視プロジェクトMAAPによると、多くの業者が自然保護区から排除され、政府指定の鉱業回廊に操業場所を移動させられた。

それでもペルー政府の見積もりでは、違法採掘によってマドレ・デ・ディオス地域には年間約180トンもの水銀が廃棄されている。

業者は金採掘に当たり、まず水銀と細かい泥を混ぜ合わせると、水銀が金の破片と結びつき、アマルガムと呼ばれる塊になる。その後、アマルガムを燃やせば金だけが残り、水銀は蒸発してガス化する。

ただ、昨年専門誌に掲載された研究からは、このガス状の水銀は植物の葉の気孔を通じて森林に浸透することが分かっている。雨が降ると、そうした葉から森林の地表面へと流れだす。

動物たちは植物や昆虫などを食べて水銀を取り込み、食物連鎖の上位になるほど水銀蓄積レベルも高まっていく。

ある専門家は、動物が飲む水や呼吸する大気からも水銀を取り込む可能性がある、との見方をしている。

いずれにしても水銀が動物たちの健康に及ぼす影響はまだはっきりしていない。この専門家は、生殖機能が阻害されて個体数減少という形で証明されることもあり得るが、もっと多くのデータがそろわなければ答えは出せないと述べた。

(Gloria Dickie記者、Jake Spring記者)

 

8月5日、 ある日のペルーのジャングルで、4人の科学者が小さなネズミを捕獲器に入れて麻酔をかけ、背中からやさしく毛を抜く作業に取り組んでいた(写真)。5月撮影(2023年 ロイター/Alessandro Cinque)

Reuters
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