2025年第1四半期、アメリカ経済は、一時的にGDPが減少した。ただし、主因は輸入の急増にあり、トランプ政権の経済政策およびAI投資ブームという新たな成長エンジンが、引き続きアメリカ経済を支えた。本稿では、最新データと政策動向を踏まえ、今後のアメリカ経済の展望を論じる。
4月30日、アメリカ経済分析局(BEA)が公表した公式データによれば、今年第1四半期の実質GDP年率速報値は0.3%減となり、2022年以来初のマイナス成長を記録した。この結果に対して、多くの人々が驚き、「アメリカ経済は衰退した」と騒いだ。
しかし、そのような見方は誤りである。断言できるのは、トランプ政権2.0では、アメリカ経済は依然として健全である。
輸入データの異常が経済の実像を覆い隠す
アメリカの公式統計を詳細に分析すれば、経済の構造がより明確になる。中国が三本柱に依存しているのに対し、アメリカは四本柱で構成されている。すなわち、GDPは個人消費(C)、民間企業投資(I)、政府支出(G)、純輸出(X−M)で成り立つ。数式で表せば、GDP=C+I+G+(X−M)である。
今回のGDP減少の最大要因は、輸入の急増である、データによれば、第1四半期に50.9%の急増を記録した。これは過去5年間で最大の増加幅で、純輸出の寄与度は約マイナス5ポイントに達し、記録上最大の負の寄与となった。
この輸入急増の背景には、トランプ政権による関税政策があるが、各企業は、今後の仕入れコスト上昇を見越して、2月および3月に在庫の積み増しを加速させたのだ。GDPの計算上、輸入は控除項目となるため、これが、直接的にGDP成長率を引き下げた理由である。
しかし、このような突発的な輸入在庫の積み増しは、経済の常態とは言えず、この短期的な動きを除けば、アメリカ経済の基礎的な成長力は堅調であったということだ。事実、コアGDPは3%成長し、前四半期(2024年第4四半期)の2.9%を上回っている。コアGDPとは、消費支出と民間投資を基礎に、輸出・在庫・政府支出の変動要素を除いた指標である。
アメリカ経済の主軸である個人消費支出は、前期比年率で1.8%増となり、市場予想の1.2%を上回った。この結果は、アメリカ国民の消費意欲が依然として力強いことを示している。
関税圧力が続く中で、第2四半期も成長傾向を維持できるのかという疑問が浮上している。さらなる悪化を懸念する声もあるが、その見通しには根拠が乏しい。データを精査すれば、二つの好材料が確認でき、アメリカ経済に新たな成長エンジンが着実に現れていることが分かるのだ。
第一の新エンジンはAI投資ブーム
民間投資の内訳に目を向ければ、企業の設備投資が22.5%増加しており、その中核にあるのが人工知能(AI)分野である。
この設備投資には、従来型の工場や研究施設に加え、サーバーやデータセンターといったハードウェア投資が含まれ、現在、AI技術は「導入と拡大」の段階に入り、企業はハードウェア、ソフトウェア、研究開発への投資を急増させている。
マイクロソフト、グーグル、アマゾンといったテクノロジー企業は、AIデータセンターのエネルギー供給確保のため、小型原子炉への投資を開始した。この動きは、テクノロジー業界だけでなく、エネルギー産業や製造業のサプライチェーンにも波及効果をもたらしている。
マッキンゼー・グローバル研究所の試算によれば、AIは2030年までにアメリカ経済に対し13兆ドル、GDP比で10%の貢献をもたらす可能性があるという。
AI、各業界に変革をもたらす
AIは、各業界に革命的な変化をもたらす。医療分野では、AI診断ツールが病気の検出精度を飛躍的に高め、例えば、スタンフォード大学が開発したAIシステムは、皮膚がんを95%の精度で識別し、医師による早期発見を支援する能力を有す。
製造業でも、AIはサプライチェーンの最適化を実現し、コスト削減に寄与し、GEはAIを活用することで設備の故障を予測し、ダウンタイムを30%削減した。
加えて、AIは新たな高度技能職を創出し、データサイエンティストの需要は、過去5年間で300%増加した。この需要拡大に応じ、多くの大学がAI関連の専攻を新設した。
もちろん、AIの進展は、新たな課題も生み出し、第一に、データセンターの電力消費は日増しに拡大しており、国際エネルギー機関(IEA)の推計によれば、2026年には、その需要が世界の電力消費の10%に達する可能性がある。この傾向により、エネルギー供給や環境の持続可能性に対する要求が、一層強まった。
第二に、AI技術の急速な進化は、アメリカの伝統的な製造業や雇用形態に変革を迫り、効率化とコスト削減という恩恵をもたらす一方で、長期的には低技能労働者が、自動化により仕事を失うリスクがある。それでもなお、現時点ではAIがアメリカ経済に与える影響は、概して正であり、経済成長を推進する主要な原動力となっている。
言い換えれば、AIはアメリカ経済の飛躍に必要な第一の翼である。
トランプ新政権:投資ブームが第二のエンジンを点火
厳密に言えば、アメリカにおけるAI投資ブームという新たな成長エンジンは、トランプ大統領と完全に一致するものではない。ただし、もう一つの成長エンジンは、彼の政策によって促進された巨額の投資と深く結びついている。
トランプ大統領は就任後100日以内に迅速な行動を起こし、経済成長を後押しする政策を次々と打ち出した。ホワイトハウスの統計によれば、各大企業やファンド会社は、総額約8兆ドルの投資を約束した。具体的には、アップルが5千億ドルを製造と人材育成に、エヌビディア(NVIDIA)が5千億ドルをAI基盤の構築に投入する計画である。さらに、OpenAI、オラクル(Oracle)、ソフトバンク(SoftBank)なども合わせて5千億ドルの投資を表明した。
トランプ氏はまた、大統領令により石油・ガス探査の規制を緩和し、アラスカ北極国立野生生物保護区(ANWR)での掘削を許可した。加えて、バイデン政権下で導入された電気自動車補助金やインフレ抑制法に基づく再生可能エネルギー支援制度を廃止し、伝統的エネルギーと製造業への投資意欲を高めた。
さらに、「減税・雇用法(TCJA)」の延長を計画し、個人所得税の減税および法人税率を21%から15%へ引き下げる提案を行い、これにより企業の収益力が向上し、ゴールドマン・サックスの推計では、S&P500企業の利益が、法人税率引き下げによって、5ポイント上昇する見通しであるという。
第四に、トランプ大統領の関税政策は、一定の不確実性をもたらしているが、その一方で国内製造業への投資を後押しする効果を持っている。長年、アメリカの製造業は、国外に流出し、経済の輸入依存度が高まっていたが、トランプ政権の政策により、国内生産への回帰が加速している。
これらの巨額な投資は、今後数年間で実現し、アメリカ経済の強固な成長エンジンの主機能としての存在が、期待とともに明かされるであろう。
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