【ニュースレターが届かない場合】無料会員の方でニュースレターが届いていないというケースが一部で発生しております。
届いていない方は、ニュースレター配信の再登録を致しますので、お手数ですがこちらのリンクからご連絡ください。

COVID感染の原因を米国に求める中国の声明に見る論理の破綻

2025/05/08
更新: 2025/05/08

4月30日、中国政府は「SARS-CoV-2(新型コロナ)ウイルスの起源がアメリカにある可能性を示す『有力な証拠』が存在する」とする公式声明を発表した。同声明は、ウイルスが武漢の研究所から流出したとする主張について、トランプ政権が「責任転嫁」を試みていると非難している。

COVID-19(新型コロナ感染症:以後COVID)とそれに関連する研究の進展を注視してきたウイルス学者として、筆者は本声明が提起した問題について、科学的かつ客観的な観点から分析を行う。

中国国務院の声明では、武漢ウイルス研究所(WIV)およびその他関連機関における実験室の安全性違反、事故、あるいは構造的な不備の存在を否定しなかった。むしろ、それらの問題を無視し、声明中では一切言及していない。また、WIVからのウイルス流出説についてホワイトハウスが提示した主要な証拠、すなわち(1)ウイルス配列に見られる異常な生物学的特徴、(2)ヒトへの単一導入、(3)WIVの不十分な生物安全対策、(4)2019年秋にCOVID類似症状を呈したWIV研究者の報告についても、反論や説明はなかった。

ホワイトハウスによる声明ではさらに、「科学的に見れば、自然起源の証拠があるならば、すでに明らかになっているはずである。しかし、それは未だに確認されていない」と指摘している。過去5年間、中国共産党(中共)は一貫してラボ流出の可能性を否定し、センザンコウなどの動物を中間宿主とする自然起源説を推進してきた。しかし、今回の国務院声明は明確な転換を示しており、ラボ流出説の否定から、アメリカに起源を転嫁しようとする政治的な動きへと変貌している。

また、中国側の声明では、2019年末から2020年初頭にかけての初期対応の隠蔽や、事態を明らかにしようとした中国人医師に対する検閲・処罰にも触れていない。さらに、感染が拡大していた武漢からの国外渡航を許可する一方で、国内移動を制限した理由についての説明も皆無である。こうした点からも、今回の声明は、中国政府がCOVID拡散に対する責任を完全に否定しきれなくなったことを如実に物語っている。

一方、声明で言及されたアメリカにおけるウイルス漏洩事故については、選定病原体や毒素を扱う研究活動に本質的なリスクが伴うことを理解する必要がある。アメリカの疾病対策センター(CDC)や軍の医療研究機関も、自らの安全対策が完璧であるとは主張していない。定期的な監査を行っているにもかかわらず、違反事例や安全性の問題は時折発生している。たとえば、中国の声明でも取り上げられた2019年のアメリカ陸軍の医学研究施設であるフォート・デトリック研究所の一時閉鎖については、アメリカ国内でも広く報道されている。

具体的には、以下のような問題をCDCは指摘した。

(a)呼吸器保護具を着用せずに、非ヒト霊長類の解剖中に他の作業員がいる部屋に複数回出入りしていた事例

(b)職員の訓練が適切に検証されていなかったこと

(c)生物学的廃棄物を処理する際に手袋を着用していなかった事例

(d)選定病原体・毒素の取り扱いリスクに応じたバイオセーフティ手順が体系的に実施されていなかったこと

(e)選定病原体への無許可アクセスを防止できていなかったこと

このように、アメリカでは国家安全保障上の理由で一部情報は秘匿されているものの、事件の存在そのものは公にしており、報道機関を通じて国民にも知られている。一方、中国政府は否定、隠蔽、報道やSNSの検閲、そして世界保健機関(WHO)向けの演出された調査といった手法を採用してきた。さらに、武漢で収集された重要なデータやオリジナルの検体へのアクセスも、いまだに独立機関に提供していない。

中共は、COVIDの発生源がアメリカにあるとする主張を強く押し出している。この主張は新しいものではなく、パンデミック初期から「環球時報」などの官製メディアを通じて繰り返してきた。しかしながら、これらの主張には科学的な裏付けが欠如している。たとえば、中国側は、アメリカ赤十字が2019年12月から2020年1月にかけて回収した血液サンプルにSARS-CoV-2反応性抗体が認められたというCDCの報告を引用している。

しかし、この研究に使用されたサンプルは呼吸器症状のある患者からのものではなく、日常的な献血から収集したものである。106のサンプルで抗体反応が認められたが、それがSARS-CoV-2特異的なものであるという確証はなく、一般的なコロナウイルスに対する抗体との交差反応の可能性があるとされている。また、ウイルス抗原に対する分子検査は行っておらず、「真の陽性」であるとは言えないと報告している。

イタリアを含む他国においても、2019年に採取した血液サンプルの血清学的検査によって、COVIDが早期に流入していた可能性を示唆する報告が存在する。しかし、2019年にアメリカや他国で小規模なCOVID感染やクラスターが発生したという記録はない。そのため、国際社会の総意として、COVID-19の実際の発生は2019年の中国・武漢において始まったとされている。

中国共産党の今回の声明の最終的な狙いは、COVIDの世界的拡大に関する責任の回避である。最近のホワイトハウスによる声明は、アメリカがこの問題を真剣に捉え、中共の責任追及に踏み出したことを示す転換点である。この動きに対し、中共は発生源論争に議論をすり替え、アメリカを新たな調査の中心に据えることで、国際社会の関心をそらそうとしている。

このような行動は、国際的孤立や圧力に直面した際に中共が用いる典型的な「認知戦」であり、中国語で「攪渾水(ジャオフンシュイ=水をかき乱す)」と称される戦術である。混乱を生み出すことを目的としたものであり、特に貿易戦争や外交的緊張の際によく見られる手法である。国際社会およびアメリカは、中共のこのような論点ずらしに惑わされることなく、引き続き同党の責任を厳しく追及し続けるべきだ。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。