日本銀行の植田和男総裁は5月8日、参議院財政金融委員会で今後の金融政策運営について見解を示した。植田総裁は、基調的な物価上昇率が2%に向けて上昇するという見通しが維持される限り、日銀としては金融緩和の度合いを適切なペースで調整していく方針を明らかにした。
この発言は、米国による関税政策など海外経済の不確実性が高まる中でのものだ。植田総裁は、米国の高関税政策が日本経済に与える影響について「経済動向は不確実性が高く、丁寧に見ていきたい」と述べ、慎重な姿勢を強調した。また、米国の関税政策による経済の下押しが日本の物価にマイナスの影響を及ぼす経路も「無視できない」と指摘しつつも、2027年度までの見通し期間の後半に向けては、基調的な物価上昇率が2%に向けて再び上昇するとの見方を示した。
日銀は5月1日に公表した展望リポートで、経済や物価の見通しを下方修正した。これは、米国の関税政策をはじめとした世界経済の不透明感が強まったためであり、足元の物価高をけん引している食料品価格についても、今後の動向には不確実性が大きいとした。その一方で、食料品価格の上昇が予想物価上昇率に影響を与え、基調的なインフレ率にも二次的な影響が出る可能性がある点についても注意して見ていく考えを示した。
さらに、4月下旬に出席したG20財務相・中央銀行総裁会議での印象について、植田総裁は「現時点で消費や設備投資は堅調な地域が多いものの、家計や企業のマインドには関税政策の影響が表れ始めている」と述べ、今後の世界経済の動向や家計・企業の対応について「不確実性が極めて高い」と多くの参加者が強調していたことも紹介した。
日銀は2024年3月にマイナス金利政策を解除し、大規模な金融緩和策からの転換を始めているが、今後も物価や賃金の動向を注視しながら、2%の物価安定目標の持続的な実現を目指して政策運営を進めていく方針だ。
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