5月13~16日にかけて、トランプ米大統領が中東3か国を訪問する中、米ボーイング社はカタール航空と210機、総額960億ドルに上る航空機購入契約を締結した。これは同社史上最大の受注であり、アメリカ航空産業の競争力と中東市場との結びつきを強化する象徴的な契約となった。
5月14日、契約の発表がホワイトハウスにより明らかにされた。調印にはトランプ氏とカタール国王が立ち会い、ボーイングのオルトバーグ最高経営責任者(CEO)も同席した。この契約には、ボーイングの大型機および787ドリームライナーが含まれ、アメリカ国内での雇用創出は15万人超、サプライチェーン全体では、100万人以上に影響を与えると見込まれる。発表後、ボーイングとGEエアロスペースの株価が上昇し、ボーイングは15か月ぶりの高値を記録した。
一方、中国共産党(中共)は4月、アメリカの関税政策に対する報復措置として、国内航空会社に対し、ボーイング機の受け取りを一時停止させた。浙江省舟山の納入センターからは、737 Max3機がアメリカに返送された。しかし、この措置は1か月後の5月14日、米中貿易交渉の進展を受けて、中共自ら解除した。
米セントトーマス大学の葉耀元教授は、「中共によるボーイング機拒否は、象徴的な政治的対抗措置に過ぎず、結果として中国自身に損害を与えた」と指摘する。評論家の唐靖遠氏も、中共が自国市場の規模を背景に、ボーイングへの依存をアメリカへの圧力手段に転用しようとした点を「重大な戦略的誤算」と位置づけた。
オルトバーグCEOは「中国が受け取りを拒否した機体に、他国の航空会社が強い購入意欲を示しており、再販には全く問題がない」と明言した。
実際、マレーシア航空やインド航空、ベトナムのヴェトジェット(VietJet)航空などは、中国が放棄した機材の購入に関心を示し、すでに調達交渉に動いている。世界的にボーイングとエアバスの新造機が不足している中、各国の航空会社は機材確保を急いでいた状況であった。
唐氏は「中共は、ボーイング機の国際市場における需要を過小評価し、逆に自国がボーイングに与える影響力を過大に見積もった。その結果、外交・経済の両面で、自らの立場を不利に追い込むこととなった」と総括した。
C919に見られる中国航空産業の限界
中共は、航空機の国産化を国家戦略として進めており、国産大型旅客機C919の開発を進めている。しかし現時点でC919は、米連邦航空局(FAA)や欧州航空安全機関(EASA)といった西側の主要航空当局から認可を得られず、2019年に中欧間で結ばれた航空安全協定により、EUの認可がなければC919はヨーロッパ域内で商業運航することはできない。
台湾国防安全研究院の蘇紫雲所長は、「中国の多くの航空会社は、いまだにボーイング機を使用しており、アメリカからの部品供給が途絶すれば航空運航自体が成り立たない。中国の航空産業は今なお、西側の高度な工業技術に大きく依存している」と述べ、中国の航空技術の自立性の低さを指摘した。
唐靖遠氏も同様に「中共は、アメリカが中国製の日用品や消耗品に依存していると誤解し、それを交渉カードに使えると踏んでいたが、実際には、中国こそがアメリカ市場に依存していた」とし、特に製造業の過剰生産能力がアメリカの購買力に頼らざるを得ない状況であったと強調した。
その結果、中共は、当初強硬姿勢を貫いたものの、最終的には、アメリカに有利な条件での貿易合意に応じざるを得なかった。これは、経済構造と国際市場の現実を見誤った中共の対応が、戦略的に失敗だったことを浮き彫りにした。
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